この物語が日常足り得る奇跡に寄せて

 手を伸ばすことで、世界が延長する。
 その言葉が何と見事に著されていることでしょうか。ここにはふたつのアスペクトが込められています。自ら働きかける意思があること、あくまで彼らのいる場所が延長線上であること。

 この物語のヒロインは、妖や、神や、怪異などの『隣人』と縁を持ちます。彼らと遭遇するのは、どこかの霊峰や樹海ではなく彼女の生きる世界の傍らであって、日常との接点です。
 そのやわらかな語られ方は、あくまで非日常である彼らを日常に溶け込ませ、寄り添います。彼女を物語の主人公足らしめているのは、何かを変える力ではなく、変えられた何かを受け入れる心です。それは、こと怪異譚であるこの物語を日常へと落とし込む奇跡を生みます。

 『雨連れる声』というお話があります。この話を読めば、この世界がどういうふうに流れていくかがわかると私は思います。
 この物語が日常であれるということ。それを納得させる筆力、描写に対するスタンス、何よりそこに至った企画力を感じさせる奇跡です。

その他のおすすめレビュー

たけぞうさんの他のおすすめレビュー5