Scene XX もうひとつの境界線
「ちょっと出てくる」
井蔵に言い残して、蔵書保管室を出た。
渡り廊下を渡って、全速力で校舎へ。
ああ、いたいた。
「おーい、楪」
「どしたの、青葉」
彼女は、清清しい表情で微笑んでいた。
覚悟を決めたような、何がどう転んでも受け止められるような、そんな強い顔。
ああ、うん、やっぱりそうなんだな。
「俺、もうしばらく井蔵と片付けしてるからさ」
「……ん、わかった」
ありがと、と小さくお礼を言って、彼女は階段を駆け上がる。
藤島のいる部室に、駆け上がっていく。
「青葉じゃん。何してんだ?」
通りかかったクラスメイトが声をかけてきた。
何の企画をやったのか、女装したうえにひどい化粧をしている。
「おい、青葉っての」
言葉はあまり、入ってこなかった。
「今の、放研の晴野だろ? 一緒に行かなくていいのか?」
「ああ、うん。見送り、みたいなもんだな」
返事にならない返事をして、少し笑ってみせた。
なあ、楪。頑張ってこいよ。
これでも、去年お前に相談を受けたときから、ずっと応援してるんだ。
なあ、楪。君は、俺に藤島のことを相談したとき、自分で1つの線を引いた。
男子を好きになれない、と。
そしてその1本の線は、細く分かれて、俺の前にも引かれた。
俺が君に向かう余地なんて、君が俺を見る可能性なんて、ありはしない、と。
「そうだ青葉、クラスのみんなでお疲れ会やるらしいぞ。お前も来るか?」
「ああ、うん。片付け終わったら、行こうかな」
今日は、1人でいるのはやめておこう。
なあ、楪。頑張ってこいよ。
応援してるのは本当なんだよ。
俺が一番、分かってるつもりなんだ。
部活に、藤島に、危なっかしくて真っ直ぐな君を、ずっと見てたんだから。
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