電話が私の交際を認めてくれません

六畳のえる

~帰り道~

 自分は「普通」の女子ではないのだと痛烈に感じた後に、新しい服に袖を通した時のようにチクチクとした切なさが体を蝕んだ。


 憎悪、嘲笑、憐憫。入り混じる自分自身への感情を風船ガムのように膨らませると、脳内のもう1人の私がどこ吹く風で冷静に見る。泣く気にもならない一人相撲。



***



「どうしました?」

「……ううん」

 チラッと覗き込むようにこっちを見た灯香とうかに、首を横に振りながら笑って返す。その吸い込まれるような目を見ながら、部室で一生懸命ノートにペンを走らせていた彼女を思い出していた。

「じゃあユズ先輩、また明日!」

 公園手前の交差点で、手を振って走っていく。

「うん、またね」

 振りかえす手にペコッとお辞儀を返して、彼女は細い通りに入っていった。


 ここから1人で帰るのか。少し寂しい。

 ううん、ちょっと違う。それは曖昧に濁した表現。

 寂しいのは1人で帰ることじゃない、灯香が隣にいなくなったこと。

 これを恋と呼ばずに、恋愛と呼ばずになんと呼ぶのか。


 私は、とても幸運なことに心から好きになれる人が現れて、とても不幸なことにその相手は同じ染色体だったりする。

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