三 知られざる歴史
私に左目があるではないかと仰せの方もいるでしょう。その秘密をただいまお話しいたしましょう。
怪しげに光ったのち、かの宝玉は私の体の中へと光とともに消えてゆきました。そして私はまた、語るに尽くせぬ幻覚を見たのでございます。それは人の栄えるよりはるかに昔の光景でございました。「大いなる
独自の言葉を、文字を生み出し、優れたる数学や蒸気機関を凌ぐ様々の動力をも彼らは生み出したのであります。しかし彼らの繁栄はそれら「大いなる
…いえ、これ以上は申しますまい。このようなプロビデンスの目のみが知る真実など、いずれ通常は狂気に属する世界であるとお思いでありましょう。私はあえてそのことをこれ以上は申し上げません。いずれ皆様がそれぞれに自らお気づきになる日を待つことといたしましょう。
ただ申し上げるのは、その一連の幻覚ののち、私の左目は失われたどころか
私が目覚めたのはそれから2日目の午後になってからのことでございました。私はすぐに左目を確かめました。本来ならば空洞となるか無理に義眼をあてがわれているはずの左の眼孔には、しかし左目が元の通りに残されておりました。これだけでも奇跡と呼ぶにふさわしいかと存じ上げます。
しかし驚くべきことに、もう一つの奇跡もおきておりました。通常ならば感染症で命を落とすはずの先生も、私の目覚めたときには隣に寝かされていたのであります。これは喜一郎の機転によるものでありました。すなわち、
私は意識を取り戻すと、せねばならないことがあると申してすぐに立ち上がり、宿所を出て御岳へと向かいました。見れば惨劇の起きたB集落ではまだ
そのB郷の方から、一人の偉丈夫がこちらに向かって歩いておりました。とんだ不信心者が生き残って見せたようであります。
「よくぞご無事で」
私が声を張ると、先方も同じ言葉を返しました。
「火を放ったあと、B郷の幾人かを連れて白蛇の祠にてやり過ごし申した。しかし、やはりかの宝玉を託したのは正解でございましたな」
満足げに馬渕は笑ってみせました。一通り挨拶をすませると、私はすぐに本題を切り出しました。
「その白蛇の祠にて…」
私が言いかけると、馬渕はそれを手で制します。
「他の者に聞かれるといけない。すでに
「もちろんでございます」
すなわち、あの
しかし私はそこで自らの体がもはや人間でなくなっていることを思い知ることとなるのです。すなわち、私は暗闇でもものが見えるようになっておりました。私があまりに迷いなくずいずいと進むために、馬渕に呼び止められて初めてそのことに気がつきました。私がそのことを隠さず馬渕に伝えると、彼は次のように一つの危惧を伝えてくれました。
「この地に蛇人間のいたことはいよいよ確かである。その折に人間もまた共に生活していたこともまた確かである。これすなわち、この地の人に蛇人間の血が受け継がれているやもしれぬということ」
「そうだとしても、その血は
「否。これが時折、色濃く出る。すなわち、この地には時に
その言葉に、私はさすがに歩みを止めました。
「それが、私と言うのでしょうか」
「否。あるいは喜一郎やもしれぬ」
全ては仮定の話でございました。どこからどこまでが彼らの血によるものなのか、どこからどこまでがプロビデンスの目によるものなのか、もはや私にも馬渕にも判断のつけようがございません。私たちは論じるのをやめ、再びあの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます