三 いとぐち
先生と馬渕がいかように打ち解けたのかは存じあげませんが、このようについに私は馬渕とは打ち解けることができませんでした。気難しいのか粗暴なのか、とにかくどうやら私は水で馬渕は油でございました。始終くだらぬ言い争いのような問答を続けながら、少しずつ
ようやくその骨を確かめた私たちは、ここにこそ手がかりがあるに違いないと
「プロビデンスの目とは、これまた妙な紋を刻んだものだな」
そう言うと馬渕はその宝玉を私に手渡しました。薄明かりに照らして右に左に傾けてみれば、正三角形に囲われた瞳のような紋が刻まれておりました。
「北条の鱗紋の類でしょうか」
私は初めそう申しましたが、これはまったくかの紋とは異なる西洋の紋でありました。のちに学んだところによりますと、プロビデンスの目は古代エジプトに伝わる紋でございます。それもここで蛇の姿をした
プロビデンスの目はもとはウアジェトなる蛇の守護女神の左の
その宝玉を
「馬渕さん、これを」
そう言って
「大発見を叩き割ってしまったやも知れぬ」
あまりにも言う通りでございましたので、私はそれを責めずにおきました。もしもこれにある文字が漢語よりも前に書かれたものであるならば、これは実際日本史に名を刻む発見でございました。
しかし今は私たちにとって優先するべきことは考古学の調査ではございません。今は他にそれらしき
私たちがようやく洞窟を抜け出し、馬渕の泊まっている神社で一息をつき、そうして先生のもとに帰り着いたときには、もう正午をいくらか過ぎてしまっておりました。
先生は土にまみれた私たちを迎えるなり、早速小さな器に酒を盛り、私たちに飲むようにお勧めになりました。いよいよ酒を飲んで忘れる他の術を失ったのかと誤解いたしましたが、先生はすぐに説明を始めました。
「牛の胆汁より発見された化学物質にタウリンなる有機化合物がございます。これは
先生曰く、先生が次々に回収した試料のうち一つの酒にタウリンらしき物質が含まれていたというのでございます。その酒は神社が
「しかし先生。それだけで病が治るとは到底考えられませぬ。というのも私たちはかの祠にて、たしかに蛇人間の
私の問いを聞き、先生は不敵にも
「私はこれとまったく同じと思われる物質を他所にも発見いたしました。すなわち…」
先生は視線を解剖台に向けます。そこにはもう白蛇の亡骸は残されておりませんでしたが、ただひとつ小さく黒い臓器が切り分けられておりました。私は近づいてそれをよく観察し、それがおそらくは白蛇の
「なるほど、神社に伝わる酒は蛇酒だったというわけでございますか」
「
先生が穏やかな笑みを浮かべられました。これにて我々はついに病に打ち勝つ術を知ったのであります。すなわち蛇酒を広く村民に配り、病の時期にそれを一口含ませることで、喜一郎のごとく
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