第二十五戦 VS黒タイツ

 森を何かが駆け抜ける音がする。用心ようじんしてその場を動かずにいると、しげみから飛び出してきたのは全身黒タイツの犯人だった。

 目と口の部分だけがかろうじて白く見えるのみで、あとは闇にまぎれたかのように真っ黒だ。


「……いったいなんなんだ、お前は」

「ククク……。『犯人が特定できない限り全身黒タイツになる能力』だ」

「そうか」

「ああ」

「オラァ!!」

「ふん」

「……! 避けただと!?」

「ククク……。犯人を力技ちからわざで特定できると思ったか? 黒タイツ化した俺は、相手の攻撃を避けるときは、その攻撃よりも速い速度で動けるんだよ」

厄介やっかいだな……」


 推理すいりして犯人を特定する必要があるか……いや、そもそもコイツは誰だ? 事件はどこで起きているんだ。


「おい。事件はどこだ」

「おいおい。だからそれを特定するんだろ? 俺が犯人なのは決まっているんだ。つまり、お前は元となる事件を、この広大なバトルロワイアル会場の中から見つけ出さなきゃいけないってわけよ」

「犯人ではなく、事件が起きた場所を推理するのか……。なるほどな、面白い。その挑戦受けて立つ」

「そうこなくっちゃなぁ! ヒャッハー!」

「くっ……!」


 黒タイツはいつの間にか持っていたナイフで切りかかってくる。ナイフは黒く染まっていないため見て避けることはできるが、こちらからの攻撃が全て避けられるため、防戦一方ぼうせんいっぽうだ。たい手刀戦しゅとうせんのようにはいかない。

 さすがにここまで生き残るだけはあるな。能力が手強てごわすぎる。


「場所を推理するためのヒントをくれ」

仕方しかたねえな。『人を隠すなら人ごみの中。じゃあ凶器きょうきを隠すには?』これがヒントだ」


 そう言うと、黒タイツは再びナイフを振るうのを再開した。


 凶器を隠すなら……凶器の中? いや、それだと〝凶器の存在〟は隠せていないな。というより、この黒タイツは凶器を隠すこと自体じたいをしていない。つまり……?


 真相しんそう辿たどり着いた俺は後方へ大きくバク転をしてナイフを避けると、犯人に指を突きつけた。


銃刀法じゅうとうほう違反いはんの犯人はお前だ!」

「ククッ……。正解だ」


 全身黒タイツの、全身黒タイツ化が解除される。あらわれたのは、いかにも犯人ですと言いたげな風貌ふうぼうの犯人で、ナイフ片手に舌舐したなめずりをしていた。


「犯人がナイフを持っているのは当たり前だからな。これが、なかなか盲点もうてんで気づかないもんなんだ……。ククク、よく気づけたな」

「ああ。武器は能力やその本人の特技に合わせて支給しきゅうされるものみたいだからな。そのナイフが能力発動のかぎだと思ったら簡単だったさ。まあ、そのナイフで刺殺しさつされた人を探せ、とかだったら無理だったが」

「そいつは無理みてえだぜ。死亡した人間はこの世界から消える。事件として成立しねえのさ」

「……なら、怪我けがわせるだけなら事件として成立するんじゃないのか?」

「それだと、最初の一戦は無能力で戦わなくちゃならねえんだよ。初めから能力を行使こうしするためには、銃刀法違反を初めの事件としてあつかわなければならなかった」

「なるほどな……。ん?」


 今……こいつは〝初めの事件〟と言ったな。つまり、それは次の事件があるということか。


「ごさっしの通りだ。初めに言っただろ? この広大なバトルロワイアル会場を探さなくちゃならない。そう、この俺が銃刀法違反で能力を発動させてから、今まで傷つけた奴らをなぁ!」


 そうして再び、犯人は全身黒タイツでおおいつくされた。しかし俺は、逃げずに全身黒タイツに立ち向かっていく。


「……なんだ? 血迷ちまよったか?」


 黒タイツは正面からせまる俺に向けてまっすぐナイフを突き出してくる。それを、あえて左手のひらで受けた。ナイフの刃が手のひらを突き刺し、手の甲まで突き破ると、血が勢いよく噴き出す。

 歯を食いしばって痛みに耐え抜くと、犯人を宣言した。


「俺を傷つけた犯人はお前だ!!」

「な、しまっ――!」


 黒タイツ化が解除された犯人のあごを右拳のアッパーで打ち抜く。ナイフから手を離した犯人は、白目をいて気絶した。


 どこからともなく、パトカーに乗った婦警姿ふけいすがたの銀髪女が来ると、気絶した犯人に手錠をかけて後部座席に乗せた。


『犯人確保、ご協力ありがとうございました』


 見事な敬礼けいれいと共にパトカーで走り去っていくと、その場には救急セットと傷薬が残されていた。


「っつ……左手に刺さってたナイフが消えてるな。持ち主が退場たいじょうしたからか」


 とにかく、血を流しすぎた。少し休憩きゅうけいをとろう。


第二十五戦 勝利

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