第二十二戦 VSハーレム2

 まっすぐ森を抜ける。綺麗に切りそろえられた芝生の決闘場。

 気配を感じとっていたようで、剣道少女は木刀を構えて仁王立におうだちしていた。


剣道三倍段けんどうさんばいだんを知っているか?」

「え? なんだって?」

「逃げ出してまた戻ってきたということは、私を倒せる算段さんだんをつけてきたか。仲間を連れてきた……というわけではなさそうだな。二つ目の能力でも手に入れたか?」

「え? なんだって?」


 油断なく構える剣道少女に対し、俺は走りだすと、正面から距離を詰めていく。


「さあ、貴様の能力を見せてみろっ!」


 ごう! とうなりを上げて木刀が空気を切り裂いていく。

 わずか一瞬の出来事。頭へといたる寸前。木刀の動きが止まる。


 両の手でしっかりと、挟まれていたからだ。


白刃取しらはどりだと!? まさか、また白刃取りができる能力か!? これで三人目じゃないか! なんて運の悪い……いや、これが新しく手に入れた能力なら計算ずくということか! 私対策としては上出来じょうできだな!」

「え? なんだって?」


 両手で挟んだ木刀を奪い取ろうと思いきり持ち上げると、そうはさせるかと剣道少女が木刀のつかを強く握りしめる。

 そうして両腕が持ち上がった隙を見逃さず、素早く腹めがけて前蹴りを叩き込んだ。


「ぐっ……!」


 さしもの武道家か。とっさにつかから手を放し、後方に飛ぶことで前蹴りの衝撃を逃がした。

 俺は木刀を捨てると、すかさず距離を詰める。拳をふりかぶると一切の容赦ようしゃなく、渾身こんしんの一撃を顔面に叩き込んだ。


「ぶひゃっっっ!?」


 剣道少女の鼻がひしゃげ、整っていた顔が崩れ去った。あまりの衝撃に平衡感覚へいこうかんかくを失ったようで、たたらを踏んで後ろに倒れ込むと、後頭部を木の根にぶつけて気絶した。巨大なUFOキャッチャーのアームが空から伸びてきて、剣道少女は回収されていく。


 その一部始終いちぶしじゅう呆然ぼうぜんと眺めていた仲間の一人。リーダーであろうイケメンは声を震わせて言った。


「全力で……女の子の顔を殴っただって……? まさか、それが能力なのか……?」

「声が聞こえるようになったな。聞こえなくなるのは剣道少女の能力だったか」


 本来なら、俺は敵に能力をペラペラとしゃべったりしない。だが新しい能力を手に入れて、剣道少女を倒して、テンションの上がっていた俺はその質問に答えた。


「そうだ。これが俺の二つ目の能力。『男女を平等に殴れる能力』だ」

「君は、なんて非情な能力を手に入れたんだッ! それが男のすることかいッ!?」

「今の俺には、何とも感じないな。男も女も関係ねえ。全力でぶん殴れる」

「くっ……! そもそも、君の一つ目の能力は白刃取りができる能力ではないんだよね? じゃあどうして白刃取りができたんだい?」


 そこは俺も疑問に思っていたところだ。眉をひそめて答えた。


「左腕を犠牲にして接近戦に持ち込むつもりだったが……なぜか、身体が勝手に動いて白刃取りをやっていたんだ。成功したから、そのまま攻撃にうつらせてもらったが」

「なんだそれは……! ふざけているのかい!?」


 困惑こんわくする俺に、怒りに震えるイケメン。そこに割り込む女の声があった。


「ご、ごめんなさいぃ~~っ! わわ私の能力のせいなんですぅ~~っ!」


 ◇◇◇


「……え?」


 メンマは後ろをそっと振り返った。残りの四人の女の子のうち、初めに仲間になったみちるが瞳を涙でうるませながら上目遣うわめづかいで謝罪している。


「い、いまさら言ってももう手遅れだと思います……でも言いますね、わ、私の能力は……」


 びくびくと身体からだちぢこませて怖がりながらも、必死に声をしぼりだした。



「『仲間になった強敵きょうてきがかませいぬになる能力』なんですぅ……」



「…………?」


 しばらく森が静寂せいじゃくに包まれたのち、絶叫ぜっきょうが響き渡った。


「「「え――ぇえええええええええっ!?」」」


 みちるの周りを三人の女の子たちが取り囲む。


「なにそのデメリット能力!? 信じられないっ!」

「追いだしましょうよ、こんな役立たず!」

「そうよそうよ! つまり私もかませ犬になってるってことでしょ!? 意味わかんない! よくそんな能力でメンマの仲間になろうなんて思えたわね!」


「『料理が不味まずすぎて食べた人が気絶する能力』で作ったクッキーを食べなさいよ、ほら!」


「『頭をぶつけ合った二人の精神を入れえる能力』を使うから、あいつと死ぬ気でぶつかってきなさいよ! ぶん殴られてもひるむんじゃないわよ!」


「『デッサンやパースが狂って見える能力』で地獄を見せてやるわ! 無差別むさべつだから全員にかかるけど!」


「ご、ごめんなさぁい、ゆるしてください、ゆるしてくださぁい……」


 みちるは涙を流して謝り続けているが、他の女の子たちからの非難はやみそうにない。それを見かねたメンマは、優しく語りかけた。


「構わないよ。そう言ったじゃないか」

「メンマさん……?」

「はぁ? どういうつもり?」

「メンマは、こんな女をかばうって言うの!?」

「そうさ。彼女を仲間から外すくらいなら、僕は降参を選ぶよ。女の子を泣かせてまで能力を手に入れたいほど、僕は落ちぶれちゃいないさ」


 不満そうな女の子たちを見回すと、メンマは謝罪と感謝の気持ちを伝えた。


「ごめんね、君たち。そしてありがとう。僕はここで降参するよ」

「なによ。私はあんたを勝ち残らせるために仲間になったんだから、あんたが降参したら意味ないじゃない! ……だから、私も降参するわ!」

「私も!」

「さっきは、強く怒鳴どなってしまってごめんなさいね。同じ人を好きになった者同士、これからも頑張りましょ?」

「はいっ、はいっ……! ありがとうございますっ、メンマさん、みんなっ!」


 ぽろぽろと泣きながらも、みちるは向日葵ひまわりのような笑顔を咲かせて見せた。


 ◇◇◇


 降参した全員がUFOにアブダクションされるのを見届けると、俺は溜息ためいきをついた。


「……はあ。長かった」


 なんなんだあいつら。主人公組か。


「ま、なんにせよ。俺の勝ちだ」


第二十二戦 勝利

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