第五戦 VSハーレム

 気の弱い女の子――蒲瀬かませみちるは戸惑とまどっていた。突然バトルロワイアルという舞台に放り込まれ、すでに開始から五分ほど経過けいかしている。みちるは開始地点から一歩も動けず、頭を抱えて震えていた。


「うぅ……戦いなんて嫌だよぉ……しかも私の能力じゃ、助けてくれる人が現れても――」

「どうしたんだい?」

「ひょわぁああああああああっ!」


 みちるは尻もちをつく。そこに立っていたのは、爽やかなイケメンだった。


「あ……かっこいい……じゃなかった!? や、やめて下さい暴力は嫌ですぅ……!」

「……バトルロワイヤルを棄権きけんしたいのかい?」

「はっ、はい! もちろんですっ!」

「もしかして、ルールの紙を読んでいないのかい?」

「え……? ルール……?」


 イケメンが指し示した方向へ振り向くと、地面に一枚の紙が落ちていた。みちるはそれを拾い上げる。


・最後に残った一人が優勝となり、賞品としてバトルロワイアル参加者全ての異能を所持した状態で現実世界へ帰ることができるよ。

・相手を降参・気絶・死亡させると勝利特典が付与されることがあるよ。ある一定数の勝利を収めると、追加で能力をもらえることがあるよ。

・降参を宣言、もしくは念じればバトルロワイアルを棄権できるよ。


「棄権……! よかった、おうちに帰れるんだ……!」


 ぱああ、と輝きを伴って笑顔になると、みちるは降参ととなえようとした。が、イケメンに言葉をさえぎられる。


「少し待って欲しい。実は、僕はこのバトルロワイアルで優勝を狙っているんだ」

「は、はぁ……。あっ、ルールの紙教えてくれてありがとうございます」

「どういたしまして。僕の名前は広池ひろいけメンマ。君の名前は?」

蒲瀬かませみちるです……」

「みちるちゃん。僕が優勝するための仲間になってくれないかな?」

「え、ぇええええええええ!? む、むりむりむりむりかたつむりですぅ! 私なんてちんちくりんだし、能力は弱いし、それどころか仲間の足を引っ張る能力でぇ……!」

「君に危険が及んだら、すぐに降参して構わない。だからそれまで、僕が優勝するための手助けをして欲しい」

「ででも、私の能力を知ったら絶対に仲間になんてぇ……!」

「言いたくないなら、無理に言わなくてもいいよ。僕が必要なのは君の能力じゃない。君自身だ」

「はわわわわ……!」


 顔を赤らめて目をぐるぐるさせながら、しどろもどろになるお団子髪の女の子。胸に手を当て、深呼吸を繰り返すと、おどおどしながらも上目遣うわめづかいでしっかりと目を合わせて言った。


「ふ、ふつつかものですがよろしくお願いしますぅ……!」



 ――能力通り。心の中で僕は悪い顔を浮かべる。

 この『女の子をちょろインにする能力』で僕はハーレムを築きあげ、勝利するんだ……!


 ◇◇◇


 風上から甘い香水の匂いがした。


(女か……? そういえば、まだ男にしか会っていないな。まあ女なら、バトルロワイアルの開始と共に降参するのが普通か……残っているとしたら、さっきの子供のように強力な能力を所持しょじしているか、よほど腕に自信のある女だと考えた方がいいな……)


 木々を影にして森を注意深く進んでいくと、かすかに数人の話し声が聞こえてくるようになった。足音を立てないよう慎重に進み、木のかげから覗き見る。見えたのは、男一人に女五人の六人パーティだった。


(ついにチームに遭遇そうぐうしたか……だが、あのパーティの構成は不自然だな。本来なら降参を選ぶだろう女子が五人もいる。で、男が一人。十中八九じゅっちゅうはっく、あのイケメンの能力だろう。そう考えると、あの女子全員が強力な能力持ちとも限らないが……さすがに能力を確かめるためだけに姿をあらわすのはリスクが高いな。女を全力で殴るわけにもいかねえし……さあどうするか)


 撤退てったいか。遭遇か。それを決めたのは俺ではなかった。


「待て」


 六人のうちの一人。木刀を携えた剣道少女が静かに言葉を発する。残りの五人は足を止め、剣道少女を見た。


「そこにいる者。隠れてないで姿を現せ」


 そう言って、木の陰から覗く俺の目を鋭い眼光がんこう射抜いぬいてきた。


(……逃げることで発動する能力もあるかもしれないしな。まずは能力の確認だ)


「わかった」


 ざっ、ざっ、と草木を踏みしめて六人へある程度近づいていく。

 剣道少女は油断なく木刀を構え、その後ろに残りの五人が固まっていた。直接戦闘タイプはこの女だけのようだ。


「私の能力は『男の子を難聴なんちょうにする能力』だ」

「え? なんだって? ッッッ!?」


 なにが、起きた。

 確かに、俺の能力は発動して、あの剣道少女は自分の能力をペラペラとしゃべりだしたはずだ。


 それがまったくと言っていいほど聞き取れない。何かを話しているのはわかる。ただ、それを脳で処理できないんだ。

 俺の大きな動揺どうようを感じ取ったのか、剣道少女は口のはしをつりあげた。


「どうした? 何か言ってみろ」

「え? なんだって? ~~~~ッ!」

「その慌てぶりでわかる。どうやら、会話で成立する能力だったらしいな。待っていろ。今、宝剣流剣術ほうけんりゅうけんじゅつで楽にしてやる」


 うっすらと残像が見えるような、鮮やかな構えが完成する前に俺は走り出した。剣道少女にではない。その反対方向だ。


「去る者は追わぬ。弱者を斬り捨てるのは主義に反するからな」


 相変あいかわらず剣道少女が何かを発言しているようだったが、その内容が理解できない俺は、ただただ焦燥感しょうそうかんに駆られて逃げびるしか、道は残されていなかった。


 ◇◇◇


 何十分走り続けたのかはわからない。いつの間にか森を抜けて木製の家が立ち並ぶ村のような場所に辿りついていた。


「はあっ、はあっ。ここまでくれば、大丈夫か」


 住宅地には近づかず、近くの木のみきに背を預けて座り込み、息をととのえる。


(バトルロワイアルだから、俺の代わりにあの六人組を誰かが倒してくれるのを待つ手もある。だが放置すれば、イケメンのチームの人数が増えていって手がつけられなくなる可能性がある。……選ぶなら、楽しい方だな。次に会うまでに、奴らを倒せる力をつける。そのためには……やはり、新しい能力を手に入れる必要があるか)


 村を見る。これだけの数の家だ。一人や二人、潜伏せんぷくしているだろう。


「何人倒せば新しい能力が手に入るのかはわからないが……やってやるさ」


第五戦 引き分け

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