よくある普通の異能力バトルロワイアル

九院 鉄扇

第一戦 VS首トン

『相手が自分の能力をペラペラとしゃべりだす能力』


「これは……強いのか?」


 俺に与えられた能力を頭の中で確認していく。とはいってもこれだけだ。応用もクソもあったもんじゃない。


「ま、やってみるしかないな」


 首を回して周囲を確認する。木々に囲まれた森の中だ。月夜が照らしてくれてはいるが、視界が悪い。奇襲きしゅうに注意しないとな。――そう思った矢先やさきにこれか。


「ふっ」

「ほう?」


 とっさに前回りをして首後ろに迫っていた攻撃を避ける。敵は一人。武器はなし。油断なく構えた相手の手の形は『手刀しゅとう』。


「恐ろしく速い手刀……俺でなきゃ見逃しちゃうね」


 くつくつと、何がおかしいのか笑いだす相手。


「テメェは幸運な奴だな。オレに与えられた最強の能力でほうむられる一人目になるんだからよ」


 ヒュンヒュン、と手刀の形に固めた両の手で風切り音を響かせている。


「『手刀で首の後ろを叩くと気絶させる能力』。つまりは一撃必殺ということだ」

「なるほど、厄介やっかいだな」


 相手の能力はわかった。あとはどう対処たいしょするかだ。


 両手を脱力させて後方に流しながら、相手は素早い動きで距離を詰めてくる。俺の能力が何かもわかっていないのにたいした自信だ。無論むろん、俺の能力は『相手が自分の能力をペラペラとしゃべりだす能力』なのだから正しい行動だが、俺の能力を見抜いた様子はない。


 自分で自分の能力を明かしたことに対して、わずかな疑問もいだいていないようだ。俺の能力がそういう能力なのか、それとも俺の能力がなくても元々能力をペラペラと話し出す相手だったのか……一人目ではまだ判断できないな。検証けんしょう余地よちがある。なによりも、まずはこの相手に勝利することだ。


 鎌で草をり取るように、左の手刀が俺のうなじに迫ってくる。しゃがんで避けると、相手は体勢たいせいが崩れるのもいとわずに、続けざまに右の手刀をうなじ目掛けて放ってくる。こちらは俺も手刀を合わせて打ち払うと、隙だらけのボディーに思い切り拳を叩き込んだ。


「ぐぼぉッ!?」


 相手はたたらを踏んで後方に下がり、左手で腹を抑えつつも右手を手刀に構えて追撃ついげき警戒けいかいしている。俺は地面に落ちている石ころを拾い上げ、顔面に投げつけた。俺の接近のみを警戒していた相手は、高速で飛来ひらいする投石とうせきに対処できずに額に命中する。


「いっつ……! 姑息こそく真似まねを……!」


 ダメージが回復してきたのか、腹を抑えていた左手を放して両手で手刀を構え直すと、激昂げきこうして襲いかかってきた。


 一振り。二振り。三振り。一度でもうなじに命中すれば俺の負けになるため、慎重しんちょうに攻撃をさばき、防ぐ。隙あらば拳を叩き込み、相手を弱体化じゃくたいかさせていく。


「なん、で、当たらねえんだよぉぉぉおおおおお!!」


 汗まみれでせわしなく呼吸を荒げる相手は、ただただ愚直ぐちょくに手刀を振り回している。


 俺が相手よりもまさっている点――それは選択肢の多さだ。


 相手は自分の能力に絶対の自信を持って戦っている。そのため、相手の思考は『いかに手刀を首の後ろに当てるか』というたった一つの選択肢に縛られて戦っている。それはナイフを持った素人しろうとがいかにナイフを当てるかという思考に縛られるのと同じだろう。


 相手は能力を使って戦っているんじゃない。能力に使われて戦っているんだ。


「チェックメイトだ」


 温存おんぞんしておいた蹴りを解禁かいきんし、後ろ回し蹴りを側頭部そくとうぶに叩き込んでやった。今までのダメージと疲労が溜まっていた相手はなすすべなく攻撃をもらう。地面に横たわったのを眺めていると、どこからともなく声が脳内に鳴り響いた。


『まずは一勝目だね。おめでとう』


 ゆがんだ空間から現れたのは、銀髪ロングヘアの美少女――バトルロワイアルの主催者しゅさいしゃだった。にこりと俺に微笑むと、気絶した相手に触れて再び空間を歪ませて消えていった。


「ありがとよ。……って、返答する前から消えてるし。まあいいや。次の俺の相手はどこだ」


 果てしない森の中、どこへ向かおうかと思った矢先に、大きな爆発音がした。音のした方角の空を見上げると、黒い煙が大量に立ちのぼっている。


「……手刀の奴より強そうだな。見に行くか」


 能力を知って、勝てそうなら戦う。勝てなそうなら逃げる。これはバトルロワイアルだからな。逃げても勝ち残れば優勝だ。ただ、逃げ続けるのはつまらないからなるべく戦う。


 それに、大量の能力者を倒せば追加で新しい能力をくれると主催者が言っていた。能力がわかる能力だけで勝ち抜けるとは思えないしな。積極的せっきょくてきに戦っていこう。


第一戦 勝利

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