第二戦 VS粉塵爆発

 焼けこげた匂いが、風に乗って鼻孔びこうをくすぐる。しばらくして爆心地ばくしんち辿たどり着くと、炭化たんかした木に座る一人の敵がいた。


「よお。いい夜だな。絶好の爆発日和ばくはつびよりだとは思わねえか?」


 敵は耐火服たいかふくに身を包んでいる。おそらく能力に合わせた支給品しきゅうひんだろう。この敵が爆発の発生源なのは間違いない。


「俺の能力は三つに分かれててな。一つ目はこれだ」


 ぱちん、と指を鳴らすと辺りに吹いていた風が一斉いっせいにやむ。


「二つ目がこれ」


 ぱちん、と再び指を鳴らすと、周囲一帯の宙域ちゅういきに現れた小さな白い粉粒こなつぶが視界を埋め尽くした。俺は敵が能力を言い終える前にきびすを返して走りだす。


「三つ目」


 ぱちん、と。鳴らした指から発生した火花が敵の周囲をおおっていた粉に着火する。火は急速に粉から粉へと燃え広がり、ある現象が発生する。そう、爆発だ。赤い閃光せんこうがまぶたを焼き付ける。俺の身体は宙に吹き飛ばされた。


 くつくつと、一人になった敵は笑い出した。もう誰もいないであろう空間に声を投げかける。


「俺の能力は『粉塵爆発ふんじんばくはつを起こす能力』なんだよ」


 返答はない。敵はおもむろに足を組んで、次の来客らいきゃくを炭化した丸太に座って待ち続けた。


 ◇◇◇


「……けほっ。なんとか無事だったか」


 急いでその場を離れたため、一撃でやられるようなことはなかった。ただ、服はところどころ焼けこげ、軽い火傷やけどっているようだ。


「……どうする。やつを倒せるか?」


 あいつはあの場にとどまり続け、爆発音に引かれて寄って来た奴を仕留しとめる待ちの姿勢しせいを見せている。追ってくる様子はない。逃げるのは簡単だ。


 ふと、顔を上げる。水の流れる音がする。少し歩いた先には、川があるようだった。近くには、小さな小屋もある。


「……」


 小屋の中に誰もいないことを窓から確認すると、罠を警戒しながら慎重しんちょうに入る。バケツを回収すると、それを使って川の水をすくい上げた。頭から水を被ると、傷口に染みた。


「……行くか」


 小屋に戻って目当てのものをバケツに入れると、俺は森の中を進んでいった。


 ◇◇◇


「なんだ……生きてたのか……?」


 再び姿を現した俺を見て、敵は驚いた顔を見せた。しかしそれもすぐに嘲笑ちょうしょうへと変わり、ニヤニヤと笑い出した。


「全身ずぶれだな。その手に持ったバケツで何をするんだ? 消火作業か?」


 俺の返答は――バケツを両手でつかんで走りだすことだった。


「遅い」


 ただそれだけで。敵は何をするそぶりも見せずに、辺り一帯を無風状態にし、空気中に大量の粉をばらまいた。指パッチンはただの演出だったのだろう。あまりの能力展開速度に、俺はまだ至近距離しきんきょりまで詰められていない。だがそれでも、バケツの中のものを前方にぶちまけるのには十分だった。


「そんな水程度で、俺の爆発が止められるかぁ!」


 敵は三つ目の能力を発動する。空気中の粉に着火――する前に――勢いよく炎は燃え広がり敵に襲いかかった。


「な、なんだとぉ~~~~ッ!?」


 耐火服が炎に包まれる。まとわりつく火をかき消そうと、地面をゴロゴロと何度も転がっていく。


「くそっ! ガソリンか何かをぶっかけやがったな!? 面倒めんどうなことを――!」


 だがやはり、耐火服を身に着けた敵の致命打ちめいだにはならなかったようで、大量の汗を流しながらも鎮火ちんかしてみせた。


「はあ、はあ……ッ!?」


 敵を背後から組みせる。そのまま関節をめた。


「降参しろ」

「くそっ、離せっていてててててわかったわかった降参する!」


 降参宣言と共に、空からやってきた鳥に敵は服を掴まれ、どこかに連れ去られていった。


「敗者の回収は色々とあるんだな。ん……何か落ちてるな」


 鳥が落としていったのだろう。しゃがんで見てみると、手紙と共に荷物の入ったリュックサックがあった。手紙を読む。


『二勝目おめでとう。能力はまだあげられないが、代わりに替えの服とタオルと傷薬きずぐすりをあげよう』


 どうやら勝利特典のようだ。対応が迅速じんそくだな。さすがバトルロワイアルの主催者。


「少し、さっきの小屋で休むか」


 休めたらの話だがな。


第二戦 勝利

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