第二十八戦 VS筋肉とオカマ
風に乗ってきた香水の匂いが
草木をかき分け、匂いをたどってそこへ
「あらやだ! いい男じゃない!」
女じゃなかった。オカマだった。あまりの恐怖に身の危険を感じたため、思わず能力も確認せずに逃げ出そうとした。
しかし、回り込まれてしまった。
「ちょっとちょっと! なによ人を
「こっちへ来るな。ぶっ殺すぞ」
「やだ、
ぶるぶると
「
「おまわりさーん!! こいつです!! いや違う!!
「もう、これでもれっきとした能力なのよ? 『筋肉を
ムキムキになった
……正直、
ずぱぁん!! と盛大な音が森に
手ごたえはあった。オカマは避けるそぶりも
オカマの太い首の筋肉が、
「残念だけど、この筋肉はホ・ン・モ・ノ♪」
「ちっ……!」
オカマは攻撃するそぶりを見せずに、モストマスキュラーをきめたままだったため、今のうちに蹴りをあらゆる
その全てにオカマはまるでこたえない。仕方なく
「いやねぇ。あたしのタマタマを潰して身体までオンナにするつもりかしら」
「
ボディビルのポージングであるオリバーポーズに
「あらやだ。また逃げられちゃった。この身体、攻撃と防御はもうしぶんないんだけど、筋肉が重すぎて移動に向かないのよねぇ。解除解除、っと」
オカマの筋肉はだんだんとしぼんでいき、元の体形へと戻った。しかし服は元に戻らずに、全裸のままだ。
「陸上選手の男の子には速すぎて逃げられちゃったけど、あの子くらいのスピードならあたしでも追いつけるかしら。あら?」
俺はオカマが元に戻ったことを確認すると、
「どうしたの? あ、もしかしてこっちの姿の方が好みなのかしら? やだ、嬉しい! ありのままのあたしを愛してくれるなんて!」
「『筋肉を膨張させて服を破る能力』。つまり服を着ていなければ発動できない能力だ。全裸のお前は服を着るまで、能力を再発動できない」
「あらやだ! なんであたし、自分の能力をしゃべっちゃったのかしら? ああ、もしかしてあなたの能力ってそういう?」
「そうだ」
精神的にひどく疲れた。全裸なことに目をつぶれば、ようやくまともに戦える。俺は接近すると、腰を入れた右拳を顔面に喰らわせようとした。
ぱしん、と。左手で右拳を、軽々と受け止められた。
「……は?」
「残念ねぇ。もっと前に出会っていたら、あたしを倒せたかもしれないのに」
「これがあたしの二つ目の能力――『オカマを
ずん、と拳が身体にめり込んだ。肺の中の空気が押し出される。俺の身体は
「がはぁっ……!?」
意識が、一瞬飛びそうになった。受け身も取れずに、地面にうつぶせに倒れ込む。
たったの一撃で、俺は立ち上がることができなくなっていた。
「こんな
なんとか顔を上げる。疑問が脳内を渦巻いている。納得いかねえ。口に出さずにはいられなかった。
「その、二つ目の能力があるなら……初めから、筋肉を膨張させる必要はなかっただろうが……!」
「『筋肉を膨張させて服を破る能力』よ? 筋肉の膨張はあくまでオ・マ・ケ。服を破って、あたしの肉体美を見せつけるために決まっているじゃなぁい!」
「こいつ、最低だ……!」
地面を叩いて、思わず
しかし、脳内には一つの疑問が残っていた。
なぜ、あいつは一つ目の能力を話したとき、続けて二つ目の能力をペラペラと話さなかった?
たとえ二つ目の能力だろうが、それが能力である限り俺の能力は適用されるはずだ。例外はないはずだ。
だって今まで、俺の能力によって能力を話さなかった相手なんて――
一人、いた。
ハーレム戦のとき。イケメンだけは自分の能力を話していなかった。どんな能力なのかは
あいつの
能力によってイケメンに惚れたのだと知れば、惚れさせる能力があってもあの女たちからは嫌われる可能性が出てくる。
イケメンは自分の能力をあの場で言わなかった。『相手が自分の能力をペラペラとしゃべりだす能力』を無効化した。――運命の
このバトルロワイアルには、運命系の能力がいくつか存在している。
『懐に入れておいた物のおかげで命拾いする能力』
『勝率が1%以下で0%でないとき100%勝利できる能力』
『仲間になった強敵がかませ犬になる能力』
おそらく、イケメンの能力もその運命系の能力に
いや、偶然を引き起こしたというのなら、それはまさしく運命だろう。
『オカマを強キャラにする能力』。これもただの身体強化ではない。イケメンと同じく、運命に
思考を終えた俺は、深く
「……運命系の能力なら……俺の能力に抵抗できたのか……」
「あら。勝つのは諦めちゃった? 諦めの悪い男も好きだけど、諦めのいい男も好きよ。つまり男なら、誰でもウェルカムッ!」
――ここまで、か。
俺は降参を宣言しようと、息を吸い込んだ瞬間。
「残念だったね。ボクなんて一人称を使ってはいるけれど、ボクは女の子なんだ」
突然――オカマの背後にあらわれた白衣の少女が、オカマの鼻と口をハンカチで
「もががッ!?」
どさっ、と意識を失ったオカマの肉体が地に
「これはバトルロワイアルだよ? 第三者による背後からの奇襲に注意しないと、ね」
ととと、っと小走りで俺のもとに駆け寄ると、おでこの広めな少女が声をかけてきた。
「大丈夫? まだ動けそうかい?」
明るくにこやかに問いかけてくる。俺はそれに、不信感をありありとぶつけた。
「……なぜ、俺を助けた。俺が倒されてから、あいつを眠らせればよかっただろ」
白衣の少女は
「これでキミはボクに一つ貸しができた。違うかい?」
「……何を、返せばいい」
「情報だよ。この先に病院があるんだ。話しがてら、ついでに傷の手当てもしてあげるよ♪」
第二十八戦 勝利 by白衣の少女
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