終戦

 バトルロワイアル会場を見渡せる学校の屋上に、銀髪の少女と俺がいる。はっきりと見渡せるようにと、もう二人だけしかいないため、全てのフェンスは取り払われている。

 まぶしい朝日が、たたずむ二人の影を長く長く伸ばしていた。


『優勝おめでとう、ナナシくん』

「ああ。ありがとよ」


 朝日に照らされた会場を眺めつつ、しんみりとした気持ちでつぶやいた。


「……楽しい時間は、もう終わりか」

『何を言っているんだい? 楽しい時間は、これから始まるというのに。バトルロワイアルの全ての異能を手にした君は、現実世界で俺TUEEEを存分に楽しめるじゃないか』

「現実は、俺には合わないんだよ」


 影を落とした表情でうつむくと、眼下がんかには学校のグラウンドが見える。普通の高校生らしい生活も送れなかった俺が、行き倒れて死にかけていた俺が、名前もない俺が……現実に帰ったところで、いったい何ができるというのか。

 能力を手に入れたところで、やりたいことなんて何もない。


『だったら、異世界に行ってみないかい?』

「異世界だと?」

『主人公くんを倒して丁度ちょうど、三つ目の能力が手に入る条件を満たしたんだよ。だから『異世界転移する能力』を君にあげよう』

「……異世界は、どんな所なんだ?」

『異世界では摩訶まか不思議ふしぎな魔法もあれば、強力なモンスターもいるし、別の世界から来た能力者もいるかもしれない。常に危険と死ととなり合わせだ。現実世界ならば世界の頂点に、異世界ならばよくいる強者の一人といったところだが……君はどちらがいいのかな?』


 俺は顔を上げて銀髪の少女を見つめた。力強い笑みで、宣言した。


「俺が選ぶのは――〝よくある普通の異世界転移〟だ」


『ふふ。結構けっこう。ならば、存分に楽しんでくるといい、名もなき少年よ』


 銀髪を揺らしてそう微笑むと、右手を差し伸べてくる。同じように右手を差し出すと、その白い小さな手を握った。


 少女と別れを告げると、俺は新たな世界に向けて旅立っていった。



よくある普通の異能力バトルロワイアル・完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る