第三十戦 VS峰打ち
森に大きな影が差した。それがすぐに人だと判別できるわけもなかった。二メートル以上の身長。丸太のような太い腕。服を筋肉の形に押し上げている
一歩一歩、
鬼に
「……
「おう、強者だぜ?」
巨漢はゆっくりと両手で握った逆刃刀を振り上げる。右足を前方へスライドさせ、頭上に高く振り上げた逆刃刀をまっすぐ俺めがけて振り下ろしてきた。
例えば、これが剣道少女の振るった木刀だったら、初速が速すぎて見て避けるなんて行為はできなかっただろう。
巨漢自身の重さと逆刃刀の重さも
「……俺を、殺す気なのか?」
にやりと、巨漢は口の端を吊り上げた。
「まさか。俺の能力は『
地面から逆刃刀を引き抜くと、再び右足で踏み込み、今度は横凪ぎに振るってくる。
「ぐっ……!?」
とっさにしゃがんで避けた。頭上すれすれを鉄塊が過ぎ去っていくのがわかる。しかし、今度の攻撃はそれで終わりではない。一振り、二振り、三振りと、続けざまに逆刃刀は振るわれた。初速で見切って俺は全てを避け続ける。白い歯を見せて笑う巨漢は楽しげだ。
「全力で
「そのよう、だなっ!」
木が、強引に真っ二つに叩き斬られて倒れていた。ぶつけたのは刃ではなく、峰だというのにも関わらずに。一体、どれだけの
圧倒的なパワーで木を叩き折る。この状況で思い当たるのは。
「まるで、怒りで強くなるあいつと同じだな……」
「呼んだか?」
「ッ!?」
ぴたり、と逆刃刀が振るわれるのがやんだ。その隙に十分な距離を取ると、声の主の方を振り向いた。そこには返答の通りに、あの子供が
「みぃーつけた」
「
前門の虎。後門の狼。絶対絶命の
俺は深呼吸を一回すると、冷静に思考を回していく。
「あんたの能力は、『峰打ちで相手を殺さない能力』」
「おう、そうだぜ?」
「そしてお前の能力は、『怒りでパワーアップする能力』」
「だから何だよ。つか、人の能力勝手にばらしてんじゃねーぞ」
「
「あ? そんなもん、てめーがおれの能力を知ってるからで…………ぁ?」
「気づいたようだな。そう、俺の能力は『相手が自分の能力をペラペラとしゃべりだす能力』だ」
「「!?」」
二人は一様に
「はっはあ。どおりで逆刃刀を振るうのがやけに気持ちいいわけだ。俺の能力を知ってるやつに振るうのと、知らない奴に振るうのとじゃ全然違うからな」
「……なるほどな。何のメリットもねーのに話しちまったのには
「で? とは
「今さらてめーが自分の能力を話したところで何になる?」
「決まっているだろう。――時間稼ぎだ」
そうして俺は、
「「!?」」
二人が同じ方向を向いたところで、俺は全力で反対方向に走り去っていった。
◇◇◇
「……
「……! まさかあいつ、一度ならず二度までも! また逃げやがったのかぁああああ!?」
子供の
「
地面を蹴って、ナナシの後を追いかけようとした所で、巨漢が目の前を
「おいおい。あいつは俺の
「どけ。てめーの相手はあいつをぶっ飛ばしてからだ」
「どけねえなあ。あいつは俺の能力を知ってる
白い歯を見せつけて笑う。
「そうだよ。お前も俺の能力を知ってるじゃねえか」
「……これが狙いか」
「がっはっは! こいつは一本取られたな!」
「ちっ……!」
二人はいったん距離を取る。周囲の空気が張りつめていく。巨漢はゆっくりと逆刃刀を頭上に
「オオオオオオオオオオッ!」
轟! と空気が切り裂かれていき、巨大な逆刃刀は子供を真っ二つにせんと突き進んでいく。
「……気に入らねーなぁ……」
(あいつ、おれが逆刃刀をよけると思っていやがる。実際、他の
「アアアアアアアアアアッッッ!!」
迫り来る逆刃刀を、全力で右拳で迎え撃つ。
今ここに、決勝戦と言っても差し
◇◇◇
周囲一帯の木々のほとんどが
「なあ、引き分けにしねえか?」
「あ? ここまできて、なにほざいてやがる」
「俺が思うによ。お前は最強の能力者だ。お前は俺をどう思う?」
「能力はともかく、実力だけなら最強の能力者だな。それがどうした?」
「俺とお前との決着は、決勝戦でつけるべきだ」
「……」
「お互い、それまで休戦といこうや」
構えた逆刃刀を降ろすと、右手を差し出し握手を求めた。
子供は溜息をつくと、燃え上がっていた赤いオーラが小さくなっていく。仕方ない、といった
「その
「やめろよ。おっさんに
頬を軽く染め、子供はそっぽを向いた。
「隙あり!!」
「ぐぱぁ!?」
ミシミシと、骨が折れる音が響き渡る。オーラをまとっていない子供はただの子供だ。そんな子供に対し、巨漢は手加減なしで胴体に逆刃刀を叩き込んだ。
「安心しろ。峰打ちだ」
「てめー……
「覚えておけ。大人は卑怯な生き物なんだ」
激痛で意識が
「ウ、ォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
もう立ち上がれない子供は、その怒りを地面に叩きつけた。地にひびが入り、一瞬で大きなクレーターが出来上がると、その中心に向けて巨漢の身体が吸い込まれていった。
「おいおい、嘘だろ!?」
ゴッ!! と。巨漢の
◇◇◇
「……
天使たちに天高く運ばれていく二人を森の中で見上げる。
「ま、この勝負……生き残った俺の勝ちだな」
第三十戦 勝利
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