第十五戦 VS最強

 草原の上にたたずむ青年が視界に入ったとき、彼我ひがの実力差が手に取るようにわかった。

 例えるなら、人が太陽を見上げたときのように。ただ見つめるだけでも負傷する。強すぎる光によって網膜もうまくが焼き尽くされる。青年と俺では、見えている景色が明らかに違っている。

 俺は、震える身体を抱きしめ、がちがちと歯を打ち鳴らしながら、青年に質問をした。


「お前は……本当に人間なのか?」


 青年はゆっくりと――胸に手を当て歌うように詠唱えいしょうを始めた。


「ラスト・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル」


 すぐそばで熱の塊が通り過ぎていく感覚がした。周囲の気温が上昇していく。小さな目に見えない何かが青年の周りを旋回せんかいしている。

 おそらくそれは、常人では見ることが不可能な自然界に存在する火の精霊たち。


「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ・オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド・ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ・ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル」


 詠唱からただよう爆発の予兆よちょう。青年の声にかれて集まり続ける火の精霊たち。それが小さく、より小さく、圧縮されていく。世界を構成する最小の粒へと。


「踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流ほんりゅうに望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり」


 爆発の累乗るいじょう。粉塵爆発がたった一本の爆竹ばくちくだったと思えるほどの火種ひだね。この青年は、この場だけではない。この広大なバトルロワイアル会場自体を吹き飛ばすつもりなのか。


「――我が名が最強である理由をここに証明する」


 この場を取り巻く全ての火の精霊たちを身体の内側へと内包ないほうした。もはや目の前の青年は人ではなく、火の精霊そのものへと変貌へんぼうげた。

 一歩、一歩と近づいてくるたびに体感する熱量が増す。大量の汗が噴き出し、肌がちりちりと焼けこげてきた。


「これが『自分の強さを勘違かんちがいさせる能力』だよ」


 錯覚。腕を切断した人が無いはずの腕にかゆみを感じる。脳の特定の部位を触れると身体が冷たいと感じる。熱くないものを熱いと勘違いして、本当に火傷を負ってしまうことがあるらしい。

 熱さや痛みを判断しているのは皮膚ひふではなく、人間の脳であるからだ。


 触れたところの皮膚が赤くなり、実際に痛みが走る。血流が多くなり、血圧を上昇させる。血行が良くなり、皮膚が赤くなる。

 思い込みで、偽の感覚を覚える。


 本物の火傷も、思い込みによる火傷も。どちらも脳で熱さや痛みを認識する。

 俺は、十分な助走をつけるとドロップキックを放った。


「オラァ!!」

「ぐぱぁ!?」


第十五戦 勝利

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