第十戦 VS残像

 生い茂る草むらから、男が突然飛び出してきた。常に奇襲を警戒していた俺は、迅速じんそくに対応する。

 やつは抱き着くように飛びかかってきたため、がらきのあごめがけてショートアッパーを叩き込んだ。……はずだった。


残像ざんぞうだ」

「ぐっ……!」


 ショートアッパーは空振り、逆に俺のがら空きの胴体にボディーブローを叩き込まれた。

 追撃を防ぐためガードを固め、バックステップで距離をとる。しかし奴は攻撃の手をゆるめることなく、ヒットアンドアウェイで次々と攻撃を繰りだしてきた。

 急所への攻撃を防ぐことに俺は意識を集中させる。


「俺の『残像を残す能力』に対応できるとは……。貴様は中々の手練てだれのようだ」

「そりゃどうも……っ!」


 虚実きょじつぜた波状攻撃はじょうこうげき。虚と思えば実、実と思えば虚。こいつは能力だけじゃない、心理戦にもけている……!

 このままでは敗北する。ならばこちらも――〝虚〟を織り交ぜるまでだ。


 奴の弱点は身体の軸が大きくぶれていること。残像で攪乱かくらんするために、多方向へ身体を動かしながら攻撃と撤退を繰り返している。


「俺の能力は『手刀で首の後ろを叩くと気絶させる能力』だ!」

「!?」


 丸ごと複数の残像を包み込むように、ひゅっ、という風切り音とともに、大振りの手刀を放った。残像が全て消え去り、本体だけが残ると、奴はぎりぎりの所で手刀を手首で防いでいた。

 急に飛んできた一撃必殺だと思われる手刀を無理な体勢で防いだために、身体の軸が大きく傾き、倒れ始める。


「しまっ――」

「オラァ!!」


 ずん、と渾身のひざ蹴りをみぞおちをえぐるように叩き込む。奴は白目をきながら地面に崩れ落ちた。

 俺は荒い呼吸を整えると、奴の敗因はいいんを告げた。


「敵の言った能力を鵜呑うのみにするものじゃないぞ」

「なら、貴様の能力は……いったい、ごほっ」

「敵に自分の能力をペラペラと話すわけないだろ」

「なっ! 俺は教えたのに……って、そういうことかよ……。ちぃ、降参だ!」


 奴は球状の光になったのち、四散しさんして消えた。代わりにあらわれた紙に目を通す。


『今回は情報をあげよう。あと十人倒せば、新しい能力が手に入るよ』


 二つ目の能力を手に入れるまであと十人。俺は気を引きめた。


第十戦 勝利

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