第9話

「ようこそ勇者様方。我らヴァンフォーレ魔術学院はあなた方を歓迎いたしますぞ」



あのカオスな一騒動の後、学院内に迎え入れられた優也達は、現在学院の一室にて学院長と向かい合っていた。部屋の豪奢な雰囲気にやや緊張しながらも、物珍しそうにあちこちを見回す優也をこっそりと雅が叱咤する。



「(ちょっと、みっともないわよ。あんまりキョロキョロしない)」


「(わ、わりぃ。あんまりに魔法使いっぽいからつい)」


「ほっほっほ。異世界から来たというだけあって、好奇心も中々のようじゃの」



唐突にかけられた声に直立で固まってしまう優也。そんな彼の様子を見て学院長、セルーナ=ウルヴェルはにっこりと微笑む。



「よいよい。好奇心も魔術には必要な要素じゃ。存分に見ていくがよいぞ。ほれ、砂糖菓子でもどうじゃ?」



長く蓄えられた顎鬚に、温和な表情。極め付けには片手に握られた杖と、まさに魔法使いという言葉がぴったり合うような人物だ。優也はそんな感想を抱きつつ、目の前に差し出された黄金色の包みを見る。



「えっと、その……じゃあ、いただきます」


「あ、私にも頂戴? お菓子切れちゃって」



横から口を挟む優芽に、雅は再び叱責を飛ばそうとするが、そんな彼女をセルーナは手で制する。



「まあまあ、そうカリカリしなさるな。ほれ、お嬢さん方もどうじゃ? 儂お気に入りの店から取り寄せた特注品なのじゃよ」


「ん、ありがたく」


「もう、優芽ったら……」


「あの、私もいただいてよいのでしょうか?」



三者三様の反応を見せるが、セルーナは鷹揚に頷いてみせた。



「どうぞどうぞ。ちと甘みが強いかもしれんが、まあそれも楽しみの一つでの」



懐から包みを一つとりだすと、お手本のように包みを剥いて、中から出てきた白い塊を口の中へと放り込むセルーナ。四人もそれに倣って菓子を口の中へ入れた。



(なるほど、これは確かに……)


(結構甘いわね……でも、これはなにかしら?)


(甘いようで、甘くない……この感じは……)


(もしかして……)



((((…………塩?))))



四人が微妙な表情を浮かべたのをみると、セルーナはペロッと悪戯っぽく舌を出して見せた。



「言ったじゃろう? 甘みは楽しみの一つ・・だと」



おまけとばかりにもう一つ、セルーナは菓子を自分の口へと運んだ。




◆◇◆




豪奢なドアを前にして、俺は冷や汗を流しながら、ドアノブを握った状態で固まっていた。



「あら? どうしましたのアキラさん?」



付き添いで学院長室まで案内してくれたアリサが、怪訝な声を上げるが、俺はそれに何の言葉も返さなかった。否。返す余裕がなかった。


だってよぉ……。


扉一枚隔てたところに勇者達あいつらがいるんだもぉん!!!



「ちょっとアキラさん? 冷や汗がすごいですわよ?」


「な、なんでもないよ。あハハハハハ……」



乾いた笑い声をあげてしまう俺。正直絶体絶命のピンチだ。まさかあいつらまでこの学園に入学するなんて。こんなことになるなら大人しく全国漫遊の旅続けてればよかった。


いや、確かにあいつらが俺を覚えていない可能性もあるかもしれない。むしろその方が高いかもしれない。だが、一片でも覚えている可能性があれば厄介なことになるのは確実だ。ああ、昔の俺よ。なんでかっこつけてあんな立ち去り方したんだ。何にもかっこよくないぞアレ。マジで。


てかこれに加えて勇者パーティー襲ったの俺だってばれたらどうしよう。まず間違いなく人類の敵認定されそう。そしたらヒロイン達といちゃこらハーレム出来ないじゃないか。敵認定されなくても元から出来ないっていう意見はあるけど。


どんどん思考がマイナス方面へ落ち込んでゆく。それに比例して冷や汗の量もどんどん増えていく。



「あの……本当に大丈夫ですの? 何かありましたのなら、無理せず保健室に……」


「そ、そそそ、そうだや。いや、そうだな……」


「噛み噛みですわね……」



震えつつもドアノブから手をゆっくりと離す。なるべく気付かれないように、そーっと。そーっと……。




◆◇◆




「……ふむ。来客かのう」


「え?」



唐突にそんなことを言い出したセルーナ。思わず間抜けな声を上げてしまう優也であったが、そんな彼にセルーナは優しく微笑む。



「何、勘じゃよ。老人の勘は意外と当たるもんじゃよ?」


「……むむ、これは強い感じのお爺ちゃんキャラ。世界で五番目くらいには強そう……」



優芽は相変わらずゲームから離れられていないようだ。雅が呆れたような表情を浮かべる。



「ほっほっほ、どうじゃろなぁ」



セルーナは笑い声を上げながら杖を振る。すると誰もいないにも関わらず、ひとりでにドアがギイと音を立てて開き―



「……あ」



―扉の向こうが露になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Re:勇者召喚 初柴シュリ @Syuri1484

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ