第5話
お婆さんとの話を半ば強引に打ち切り、俺は再び街を歩き出す。
「俺の伝説が微妙に変になって伝わってる……」
魔王軍を追い払った下りなんて歪曲されすぎてる。実際は虚仮脅しの能力を相手に勘違いさせて丁重にお帰り頂いただけなのに、なぜか召還された直後に強大な力を振るって魔王軍を壊滅させたとかいう話になってる。いやいや無理だって。そんなこと出来たら最初っから魔王ぶっ潰しに行ってるわ。
いずれにしても、自分のしたことが武勇伝として伝わっているのはなんだかもにょもにょする。しかもそれを成した俺の名前がなんだか変な形で伝わっているのももにょもにょする。とにかくなんだかもにょもにょする。
まあ、とにかくこの話はもういい。やめよう。
問題はどうやってエルフの里に行くかだ。このままでは街を放浪するだけで一日が終わってしまう。
「ん……?」
悩んでるうちにどうやら路地裏に迷い込んでしまったみたいだ。日の光も余り届かず薄暗い。こう言う場所では面倒ごとに巻き込まれるのが定番って奴だ。そんなのに巻き込まれるのも面倒くさい。さっさと表通りに戻ろうと踵をかえす。
「ありゃ?」
しかし、引き返したところもまた路地裏。これはまずいと思いつつその先の曲がり角を曲がる。
「……あれー?」
曲がった先もまた路地裏。どうやら俺は完全に迷ってしまったようである。
こうなったらもう自棄である。あの太陽が沈む方へみたいなノリで適当に進んでいく。迷路から出るためには右手を壁につけていくといいってじっちゃが言ってた。
そしてしばし迷うこと数時間。俺はとある店の前で固まっていた。
「ど、奴隷館、だと……!?」
そう、異世界ならおなじみの奴隷を売る館である。以前の召還時にも奴隷館自体はあったが、まさか今も続いているとは……。
しかし、今はそんな連綿と続く歴史になど興味はない。健全なる青少年のリビドーで頭がいっぱいである。
運よく美人の奴隷を買えれば素敵なハジメテを経験できるかもしれない。そしてあわよくばその子が惚れてきて俺もリア充の仲間入り、なんてことも夢ではないのだ。夢が大きくなる。俺の息子も大きくなる。
「いや、だめだだめだ。そんな愛のない行為で……」
やっぱりと思いかぶりを振る。奴隷に無理やり、なんてのは俺の理想とは程遠い。しかし、俺の愚息は元気になっているのもまた事実。
それに四百年前もそのポリシーを貫いた結果、俺は童貞を捨てられなかった。ここでそのポリシーを貫きとおして何になる。それなら女の子を貫いたほうがよっぽど価値があるというものだ。再度決意を固める。
問題は金があるかということだが……。
「ほいっ、空間魔法っと……」
すこし前かがみになりながら異空間に仕舞っていた俺の金を取り出す。この世界に来てから身につけた数少ない技能の一つ、空間魔法だ。
良い機会なので魔法についての解説も行おう。
魔法とは火、土、水、風の四大元素と無、光、闇の特殊魔法から成り立つ、この世界独自の技だ。
四大元素においては空気中に溶け込んでいる魔法の源、魔素と呼ばれるものを体内に取り込んで、それを魔法の術式で属性に変換し魔法として放つ、という仕組みだ。よって簡単な魔術であれば、どんな人物でも術式さえあれば発動できるというわけだ。もちろんより上位の魔法となると話は別だが。
一方、特殊魔法に関しては誰でも使えるという訳ではない。個人の資質が関係してくるのだ。だから使える人間は重宝される。もちろん、勇者もそのうちの一人であり、俺が使えるのもそのクチである。
ただ、こちらの魔法を行使するのはダイレクトに個人に負担がかかる。かく言う俺も無属性である空間魔法は一日に十回も使えない。いわゆる『MP』が足りないからだ。他にもデメリットはある。なぜだか特殊魔法には攻撃魔法が少ないのだ。あっても微々たる威力である。俺も最初に使ったときは目を疑った。何だよ『ディメンジョンストライク』って。大層な名前しといて破裂音がするだけじゃねぇか。
以上が魔法についての簡単な説明である。詳しいことならエキスパートであるエルフに聞いて欲しい。俺も適当に理解してたから良く分からないんだ。
「とりあえず金は……まあまああるな」
ジャラリと音を立てながら金貨の数を数える。占めて五十枚。こんだけあれば一人は買えるだろ。
「よーし、童貞を捨てるぞ!!」
意気揚々と店へ入る。心臓はバクバクし、呼吸もなんだか荒くなる。最初はやっぱり人がいいかな? それとも猫耳? 夢が広がるなぁ……。
そこまで考えたところで俺の頭に激震が走る。
そうだ、エルフを買えばいいんだ。そうすれば初夜もエルフの里へも優しく導いてくれるだろう。まさに一石二鳥である。それにエルフには若い子が多いからな。アタリも多いだろう。ああ、妄想が膨らむ……。
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「申し訳ありません、当店のエルフはこちらのみとなっております」
そう言って髭の店主が提示してきたのは、まだ年端も行ってないであろうロリのエルフ。
……いやいやいや。いくら童貞を捨てたくてもこりゃないって。いくらエルフは年と外見が合わないからってこれは普通にロリだろ。ありえん。疑惑の視線を奴隷商に向ける。
「……本当にこいつだけか?」
「ええ。嘘は申しませんよ。ただ、満足は出来る仕上がりになっていると思いますよ? しっかり仕込んでますので」
うーん、ロリなのに仕込まれてるのか? どう見ても昨日今日捕まっただろうという程に小綺麗なんだが。
彼女は顔になんの感情も浮かべておらず、そこから何かを読み取ることも出来ない。うーん、絶望の表情すらないのは珍しいな。
さて困った。これでは望んだ初体験が出来ないではないか。エルフ以外を買えばいいという意見もあるだろうが、それでは本末転倒だ。エルフの里にたどり着けるならそちらを優先する他ない。
「あー……いくらだ?」
「金貨で二十枚、といったところでしょう」
ぼったくりじゃないか、とも一瞬疑ったが、確認する術を持たないので相手の要求どおりに金貨二十枚を取り出す。
「……お客様、これは……」
「ん? なにか問題でもあったか?」
「……いえ、なんでもありません。それではこの奴隷の契約書にサインを」
店主もロリもなんだか驚いた表情をしている。ちっ、やっぱぼったくりだったか? ともあれ、もう後には引けない。このまま景気のいい客として貫き通そう。
そうして買い物が完了。はあ、俺のハジメテの夢は崩れ去ってしまったな。せめてエルフの里には行かないと。これでこいつが場所を知らないとか言ったら多分泣くな。
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