第6話
さて、エルフを買ったはいいものの、完全に警戒されている。どうしたらいいものか。こんなことなら、幼女と仲良くなる方法を調べときゃ良かった。いや、そんなん調べてたら多分国家権力のご厄介になっていた事だろうけど。幸いにして地球ではまともな人間で通っていたが、多分異世界に来てからの俺だったら捕まってた。いやー、人間って変わるもんだね。
とりあえずロリのエルフ、略してエロフの機嫌を取るため、空間魔法で飴ちゃんを取り出す。
「これ、食べるかい?」
「……いらないの」
無表情でこちらを見てくるエロフ。これはかなり重症だ。飴ちゃんの誘惑にも負けないなんて。
最近の子供は鍛えられてるなぁ、なんて場違いな事を考える。恐らく飴で誘惑されても知らない人に着いていっちゃ駄目ですよ、とか教育されたんだろう。もっとも、今の俺は主人という立場なんだが。
とにかく、今の俺にこの子供の心を開かせる有用な手段はない。ロリハーレムもちょっといいかもなんていう思考は銀河の彼方へ投げ捨てた方が良いだろう。第一目的を優先させるか。
「……なあ。エルフの里への行き方を知らないか?」
「!!」
エロフはあからさまな反応を見せてくれるが、すぐにかぶりを振って否定する。
「し、知らないの」
「おいおい、今の反応でそりゃねぇって」
「知らないったら知らないの。これだけは教えられないの」
言外に知ってること認めちゃったよこの子。
まあ、エロフの心配も分かる。恐らくこの子は人間に連れてこられたのだろう。だからこそここまで人に警戒を示す。そして下手に人に場所を教えれば、仲間が奴隷として売り払われると思っている。別にそんなつもりは無いんだがな。
こうなると話が拗れてくる。まず俺が問題の無い良い人だと認めさせなければならない。その為には証拠が必要だ。人間嫌いの彼女が認める程の絶対的内容が。
何かエルフ関連の物が無いか異空間に入っている物をごそごそ漁る。なんかやかんとか枕とか出てきたのは何故だろうか。一度大掃除をせねばなるまい。
そうして探り当てた唯一のエルフ関連の物。
「これが証拠になるかはわからないが……」
「?」
そうして俺が差し出したのは、1枚の布切れ。
これで信じてくれるかぁ……? いや、普通信じねぇな。むしろ俺だったら通報するわ。
「いや、何でもない。忘れて……」
「そ、それはまさか……」
ん? 何か様子がおかしいぞ? まさかこいつに反応しちゃったのか……。
「敬愛すべきあのお方、サーシャ様の下着なの……!!」
まさか四百年前の仲間の下着に反応するとは……。人生何があるかわからないものだ。
そしてこいつは重度の変態である。見ただけで分かる境地には未だ俺も達して居ない。パンツの世界も奥が深いな、と謎の感心をする俺だった。
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「こんな良いものがあるならもっと早く出すの。そしたらすぐに信じる事が出来たのに」
「いやそれで信じるお前も大概だろ」
サーシャのパンツを握り締め、幸せそうな表情を浮かべたまま文句を言ってくるエロフ。鼻血出すな。
「とりあえず、これでエルフの里まで連れてってくれるか?」
「問題無いの。サーシャ様好きに悪い奴は居ないの」
「自分で言っといてなんだが簡単に信じすぎだろ。そんな風に育てた覚え、父さんはありませんよ」
「あなたに育てられた覚えも無いの。それにサーシャ様の下着を取るなんて信頼されてる相手でなきゃ出来ないの」
「あー、それもそうか」
もし下着ドロなんて発見した暁には弓矢で針鼠にしてきそうな勢いだからな、あいつ。
「だから私は貴方を信じる。サーシャ様の事を信じているから」
……なんか良いこと言ってる風だがすべてはその手に握ったパンツと鼻血で台無しである。
「そんじゃ、早速エルフの里へ案内してくれよ」
「……その前に忠告。私を買ったときの金貨。あの価値わかってるの?」
「は? 金貨は金貨だろ?」
「……やっぱりわかってないの。あの金貨は古代金貨と言って今の金貨とは比べ物にならない程の金が含有されているの。大体今の金貨十枚分くらい」
「なっ……」
絶句。まさかあの驚きがそんな意味だったなんて……。
「それ、もっと早く言ってくれよ……」
「だから言ったの。もっと早く出してって」
「無理に決まってんだろぉ!!」
「チキン(笑)」
「うるせぇエロフ!!」
「私にはエロフじゃなくてエーロという立派な名前があるの」
「やっぱりエロフじゃないか(笑)」
「……」
「痛っ、ちょっ、脛を無言で蹴るの止めて……」
このあと滅茶苦茶折檻された。
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「へ、へくちっ」
何だか間抜けな音が口から漏れ出てしまう。思わず周りに誰か居ないか確認してしまう。誰も居ない。よかった。
「サーシャ様ぁぁぁぁ!!」
「ひゃっ!!」
「ん? 『ひゃっ!!』?」
「ん、んん!! どうしたのよ? いきなり乙女の部屋に入ってくるなんて」
油断した所の急な来客に思わず悲鳴をあげてしまう。咳払いで誤魔化すも少し不審がられてしまったようだ。
申し遅れたわね。私の名前はサーシャ。エルフよ。これでも四百年以上は生きていて、魔王の封印にも関わったこともあるわ。自分で言うのもなんだけど、エルフの中では大御所みたいになってるわね。
今飛び込んで来たのは知り合いの女性エルフ、エルナ。見た目は若々しいけど、年齢はとっくに百五十を越えているわ。ま、エルフはそういう種族なんだけどね。
エルフというのは老化しないと人間からは勘違いされているが、そうではない。ただ、人よりも寿命が長く、老化の期間が以上に短いだけなのだ。だからいつまでも若々しい外見を保っている。ただ、晩年に一気に老化するから、その苦痛は尋常じゃないわね。それに耐えられず自殺するエルフも少なくないみたい。ま、私はしっかりとみんなに看取られながら死ぬつもりだけどね。
話がそれた。問題はなぜ彼女が駆け込んで来たのかということだ。
「またまたぁ、乙女なんて無理しないでくださ……痛たたた!!」
「乙女はいつまで経っても乙女なのよ?」
「わ、わかりました!! わかりましたからアイアンクローは止めてください!!」
まったく、変なこと言うから思わず潰れたあんパンの様な顔にするところだったわ。
「それで、どうしたのよ?」
「それがですね、また人間の兵士が湧いてきたんですよぉ。ええ、勿論オモテナシしてから丁重にお帰り頂きましたけどぉ」
「……またなの?」
「また、ですよぉ。もー、あいつらゴキブリの様に湧いてくるんですもん。よく飽きませんよねー」
最近、エルフの里に近付いてくる人間が多くなった。しかも、何やら偵察をしている様子だというのだ。
つい先月、エーロが拐われてしまい必死で行方を探している最中なのだ。エルフが殺気だってしまうのも無理は無いだろう。かくいう私も四百年前の『出会い』がなければ今ごろは人間相手に戦争を仕掛けていると思う。
もはやエルフと人間の仲は一触即発だ。こんなとき、アイツならどうするだろうか。
(タカナシ……)
心の中で想い人の名を呟く。私が唯一恋した人間。そして急に消えてしまったあの勇者の名前を。
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