第2話

「いててて…どこだここ?」


「な、なにが起こったの?」


「…(カチャカチャカチャ)」



俺のほかにも見慣れない奴らが三人、魔法陣が描かれた部屋にいた。男子が一人に女子が二人。そのうちの女子一人はひたすらゲームをやっている。この状況に気付いて無いのだろうか? もし気付いててやっているなら大物である。


男も女も見事な容姿をしている。町を歩けば十人中八人は振り返るであろう美しさだ。見ただけで人生の勝ち組だと分かる。ふむ……なんかこう、うまく言えないけど死なないかな。


思わず舌打ちをしそうになる気持ちを押さえつけ、改めて状況把握を開始する。とにかく俺達を召喚したと思われる目の前の女性に話を聞くのが一番早いか。



「すまん、少し質問したいんだが…一体全体、ここはどこなんだ?」


「ここはロタリア王国と呼ばれる国です。五百年以上も続く由緒ある国なんですよ?」



淀みなく答える目の前の美少女。それにしてもロタリア王国かぁ。どっかで聞いたことあるな。


ロタリア王国、ロタリア王国、ロタリ、ア…?


俺が最初に召喚された国じゃないか!! と 口から出そうになる悲鳴をあわてて抑える。



「ちょ、ちょっと窓あけていいか?」


「? ええ、大丈夫ですけど…」



部屋に備え付けてあった両開きの窓をバタンとあける。


するとどうだろう、活気にあふれた街並みとすがすがしいほどの青空が目に飛び込んで来るではないか。



「うお、すげぇ綺麗だな…」


「ほんとね…」


「…(カチャカチャ)」



後ろではイケメン共が感嘆の声を上げている。突如召喚されるという事態に戸惑うこともなく風景を楽しめているのは果たして大物なのか、それともただ鈍感なだけなのか。そしてそこなゲーム女子よ。いつまでゲームやっているんだ。


そもそもここは本当にロタリア王国なのか? 俺が最後に見たのはボロボロの街並みと毒々しい色の荒野だったのだが。さすがにあの惨状は一年やそこらで回復するわけがないはずだ。



「…変なことを聞くようで申し訳ない。今は何年だ?」


「えっと…今は聖王歴1409年ですね」


「せ、聖王歴?」


「何よそれ…西暦じゃないの?」


「よし、逆鱗げっと…あれ、ここどこ?」


『気付くの遅いわ!!』



後ろではなにやら漫才が繰り広げられているようだ。呑気で結構なことだが、こっちはそれどころではない。俺は大きな問題に心の中で頭を抱えた。


確か、最初に呼び出されたのが聖王歴1008年ごろ。そこから一年かけて魔王を倒したのだから、倒したのは聖王歴1009年のはず。


さて、ここで問題です。1409から1009を引くと何になるでしょう?


答えは400でした~!!正解者には俺からの熱い抱擁を…え、いらない?


いや、現実逃避はやめよう。


そして現実を認めよう。


俺は、四百年後の世界に来ちまったんだぁぁぁ!!!!




====================




俺たちを呼び出した目の前の美女が説明を始める。俺たちを呼んだ理由らしいが……。



「えっと、事の始まりは今から三か月前の出来事です。国境付近の森で警戒をしていた兵士―名前をAさんとしますね?―が、警邏中にとあるものをみつけたんです。なんだかわかりますか? わからない? まあそれはそうですよね。なんと見つけたのは魔族の死体だったんです。魔族というのは魔界に生息している人間のようなものです。しかし、その実態は大きく人間とは異なります。すべてのもめ事は暴力で解決、弱者は社会の最底辺まで送られます。そんな世界ゆえ、国家機関も軍隊しか存在しないらしいです。話は戻りますが、ここ何百年といなかった魔族が見つかったのは大きな出来事です。魔族が人間界に侵攻できるということに他ならないのですから。とにかく、Aさんは急いでこのことを自分の上官に伝えに行きました。ちなみに、伝えに行ったところ上官とAの妻が不倫している現場に出くわしてしまったのは小さな出来事です。そしてその後、その情報が将軍のBに伝わり―」



うん、長いね。長すぎる。伝えるのも読むのもめんどくさいわコレ。長いから要約すると、『魔王軍が編成されかけててこのままじゃ人間側の戦力が足りないから助っ人として勇者を呼びました』ってところだ。途中の昼ドラ展開はドロドロしすぎているのでカット。Aさんどうなったか気になるけど。


さて、ここで勇者の先輩から言わせて貰いましょう。


まだ全然余裕じゃん。


いや、首都の周りが軍に囲まれていますー、って状態なら呼び出した理由も分からなくはないよ? 不満はあるけど。


でもねぇ…まだ魔王軍もできてないじゃん。もっと他に出来ることあったろうに。そりゃあ勇者はチートスキルが与えられるけど、でもハズレの場合もあるんだぜ? 俺みたいに。俺みたいに。



「―というわけなのです。わかりましたか?」


「え、ええ。かなり…」


「いらない部分も知ったような気がするけど…」


「zzz…」



こいつらも大分消耗しているようだ。ゲーム少女は退屈からか既に眠っている。なんかもう、呆れを通り越して尊敬しそう。



「では、みなさんのスキルを教えていただきたいのですが。確認の仕方は何となくでわかるとおもいます」


「そんな無責任な…あ、出てきた。えっとなになに…『英雄初心者ビギナー』?」


「え、そんなに簡単にわかるの? あ、私も出てきたわね。『反動形成バウンスモノリス』……なによこれ」


「……魔法導士マギカマジカル



三者三様の反応を見せる。ていうかイケメンの能力とか絶対強化フラグが立つやつじゃん。羨ましいわ。


ゲーム女子じゃない方は……うん、性格が出たんだろう。反動形成かぁ……。これからはツンデレちゃんと心の中で呼ばせてもらおう。


ゲーム女子はわかりやすいな。魔法関連だとすぐわかる。



「あなたの能力は何なのですか?」


「ん、俺か? 俺の能力は巨影心バーストハートだってよ。なんか役に立たなさそうだよなぁ?」


「あはは……そんなことは無いと思いますけど」



最初に召喚された時手にいれたスキルを言っておく。姫様は苦笑いで励ましてくるが、実際単体じゃ役に立たないんだよなぁ……。

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