第31話

『くっ!! 油断したか!!』



軋む体に急制動をかけ、地面が削れた跡を残しながら体勢を立て直す。クソッ、さっきから俺油断しすぎじゃねぇ?


砂ぼこりの上がる中改めて勇者の方を見直すと、他の三人が勇者の元へ駆け寄っていた。目を凝らせば淡い緑色の光が奴の体を覆っている。回復魔法……傷と同時にスタミナも回復出来る厄介な魔法だ。こちとら傷は治っても体力は回復しないというのに。しかも向こうは美女三人。こっちは童貞が一人。なんという格差社会なのだろうか。天は人の上に人を作らずとか絶対嘘だろ。


言い表せぬ怒りに身を焦がしていると、勇者が立ち上がって剣を再び構える。



「待たせたな。そろそろ再開の時間だ」


『フン、敗北への準備は済ませたのか?』



嫌味を言ってみるが、勇者にはまるで効いた様子はない。これがリア充の余裕ってか? ふざけんなぶちのめすぞ。



「ああ悪い。まだ終わってなかったわ。でも……今からお前を倒せば必要ないよな!!」


『ぬかせ!!』



地面が抉れるほどの脚力で駆け出し、狙いを定める。攻撃は突き、狙うは心臓。今こそこのイケメンに天誅を下すとき……!!


おそらくここ最近で一番殺意がこもっていただろう、それだけ俺の恨みを込めたこの一撃は、しかし奴の胸に届くことは無かった。



「させないわ、《反動形成バウンスモノリス》!!」



直前で勇者の背中からアクロバティックに飛び出てきたツンデレ女子。彼女がスキルを発動させ、勇者の前に立ちはだかる。しまった、と思うも時すでに遅し。突き出された剣は止まることなく彼女の胸へと突き刺さる。


チッ、と舌打ちしながら剣を手放す。俺の愛剣は彼女のスキルによって弾かれ、遥か彼方へ。ここまで戦ってくれた剣に心の中で感謝を伝えながら後退する。



『……物理攻撃は全て跳ね返るか。面倒な事だ』


「どーよ! 私の力、思い知った?」



フフン、と胸を張って答えるツンデレ。


……張るほどのボリュームは無いけど。



「……なんでだろ、今物凄く誰かに馬鹿にされた気がしたんだけど」



頼むから空気読んでくれよ俺のサトラレ体質!!



『認めよう。確かにそのスキルは脅威だ。性能も、能力も……だが、まるで!! 全然!! 私に勝とうとするには程遠いんだよねぇ!!』



腕部の鎧をスライドさせ、黒い魔力の刃を生み出す。鎧の維持と合わせると既に魔力の使用枠はカツカツだが、まだ何とか保つことができる。魔力で出来たこいつなら反射は効かない。物理が駄目なら魔法で殴る、だ。



「ちょ、それはまず……!!」



焦るツンデレだが、この距離では避けることもままならない。俺の刃はそのまま懐に潜り込み……



「ん、問題ない」



――掻き消えた。



『くっ、また貴様か……』



ゲーマー少女の能力は魔力を吸い取って操るもの。俺の魔力刃はそれに巻き込まれて消えちまったという訳か。ツンデレが担当できないところはゲーマー少女がカバー。その逆も然りってことか。全く、ここまで能力が噛み合ってるパーティーは久々に見たぜ。



「前回はあっさり負けた……でも今回はせめて一矢報いて見せる。あなたを見返す為に」



両手に二本の風の槍を纏い、静かにそれを構える彼女。ゲームの知識がある分、奇抜な一手を打ってくる可能性があるな。正直このパーティーで一番厄介な相手といえるだろう。



『ほう、君も私のファンになったのかな?』


「冗談……!!」



強化魔術でもかけているのか、ゲーマー少女のスピードは予想以上に早い。だが、それでも対応できないスピードではない。突き出してきた槍を紙一重で避けると、それに滑らすように拳を突き出す。



『はぁ!!』


「ぐぅっ!!」



もう片方の槍で拳は防がれたものの、衝撃は消しきれない。くぐもった声を漏らす彼女だが、このままでは不利と感じたのか後ろへとステップする。



『逃がさんよ』


「ついて……こないのっ……!!」



踏み込みつつジャブ、アッパーなど繰り出していくが、おぼつかないながらもその攻撃を槍で弾いていくゲーマー少女。センスはあるようだ……だが!!



『セイハァッ!!』



渾身の右ストレートを食らわせる。避けきれなかったのか彼女は槍をクロスにしてその一撃を防ごうとするが、それすらも食い破り胴体へと突き刺さる。


激しく吹き飛ばされた彼女だが、手ごたえは薄かった。油断するわけには行かない……!?



「はぁぁぁぁぁぁ!!」



ガキン!! と火花が散り、鉄と鉄のこすれあう耳障りな音が響く。俺の装甲とツンデレ少女の剣がせめぎ合っている音だ。



「あたしのこと、忘れないでよね!!」



アクロバティックな動きで剣を振るい、俺の装甲を削っていくがまだまだ実戦レベルには達していない。剣の腹に拳を合わせることで受け流しつつ、さらに魔力刃で切り裂こうとするが……



「まだ、戦える……!!」



ゲーマー少女の復帰によりそれは叶わなくなった。二人の猛攻をしのぐことは訳ないが、攻撃に転じることは難しい。擬似的なロック状態を作り出されてしまった訳だ。強欲で無理に反撃してもいいが、あれは力の加減が効かない。力試しに使うには過ぎた代物だろう。



「二人とも、もういい!! 下がってくれ!!」



そんな勇者の声に猛攻は止まり、二人は足早に撤退する。なにをしようとしているんだ? そう思った次の瞬間。


黄金の柱が天へと駆け上っていった。



『なっ……!?』



発射点を見れば剣を掲げた勇者の姿が。剣から放たれる波動が、天を衝くほどの巨大な剣となっていたのだ。その姿はまさに勇者。聖剣を掲げた英雄と呼ぶにふさわしい。


だが、あいつにあそこまでの奇跡をおこせるほどの魔力はないはず。一体どうやって……



「っまさか!?」



声の偽装も忘れるほどに驚愕する。王族に伝わる秘中の秘。勇者に王族が着いていく最たる要因。それを使っているとでも言うのか!!



「第一段階解放リベレート。接続状態八十パーセント。いつでもいけます!! ユウヤ様!!」



パルメニアの声がこんな状況でもはっきり聞こえる。もう安定状態に入っているのか!!


王族に伝わる専用スキル、《解放リベレート》。対象の魔力使用上限を解放し、国民から長い期間をかけて貯蔵した魔力を流し込む切り札中の切り札だ。対象との相性もあるため、安定して使うことが難しいスキルだが、こうも上手くいくとはな。うらやましい限りだぜ。



「さあ、これで決着だ!! 《聖剣……解放》!!」



とんでもないほどの魔力の柱を振り下ろしてくる勇者。ちょ、シャレにならんってこの野郎!!


せめてもの抵抗に《強欲》を発動。迫りくる聖剣に対し、俺ができることはあまりにも少なかった。

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