第20話
「先手は譲ってやる。来いよ」
「はぁぁぁぁ!」
ちょ、確かに先手譲るって言ったけどさ。迷い無く切りかかってくるってどうよ。躊躇無さすぎてビックリするんだけど。
まあ俺も甘んじて受け入れるつもりはない。なんだっけ、ゆ、ゆ……ユリアヌス?君の袈裟斬りを危なげなく避け、そのまま足払いを食らわせる。
「ぐっ!?」
勢いよく背中を打ち付けたせいか、苦悶の声をあげるゆ……ユニセフ君。
「優也!? このぉ!」
「『ピアース・フォン・デル・ウィンデ』」
あ、優也って名前だったのか。全然覚えてなかったわ。
続いて攻撃してくるのはツンデレちゃんと無口ゲーマー。覚えたての魔法なのか、詠唱は長いがそれなりの魔力が込められているのがわかる。
が、過去の真っ赤な偉人も言っていたように、当たらなければどうということはない。彼女達の呪文は風を槍として打ち出す単純な魔法。打ち出される場所が分かれば……
「そんなっ!?」
「……やっぱ強いや」
避けるのも難しくない。射線から身を反らし、お返しとばかりに呪文を詠唱する。
「『ランシス・フォン・デル・ウィンデ』」
彼女達よりも長大な風の槍を、より短い時間で作り出す。単純だが、それ故威力は大きい。
「嘘……」
「おっきい……」
女の子におっきいって言われるとなんだか興奮ゲフンゲフン。戦いの間くらいは集中しないとな。
さあ、強者からの一撃にどう対応する?
「っ! 優芽!」
「がってん」
ツンデレちゃんがゲーマーちゃんに合図をすると、ゲーマーちゃんが前に立つ。一体何をするつもりだ?
「『
スキルを発動したゲーマーちゃん。特に何が変わったわけでも無い……っ!?
ゾクリ、と俺の第六感が警告を発する。過去の経験からもこの感覚は無視出来ない。しまった、これは悪手か!
「無駄だよ」
俺の攻撃はそのままゲーマーちゃんへと突き刺さる。が、彼女は欠片も効いた様子を見せない。くそっ、まさか彼女の能力は!?
思わず顔を歪めた俺にゲーマーちゃんは得意気な顔で胸を張る。
「そう、私の能力は『魔力を操る』もの。それが例え相手の魔力だとしても……」
右に風の槍、左に炎の玉を作り出し、彼女は不敵に笑う。
「あなたに、私は倒せない」
……なんで中ボス風なの?
よろしい、そっちがその気なら俺もやってやろう。左の銃をしまい、剣を単体で構える。
「『ファスティアル・アン・デル・ウィンデ』」
「無駄。あなたの魔法は効かな……!?」
残念、これは攻撃じゃなく自己強化呪文だ!
風を纏い、その風に乗ることで自らの速度を上げつつゲーマーちゃんに接近する。
「でも、貴方には遠距離は使えない……!」
足元へ火の玉を投げつけてくるゲーマーちゃん。爆発で足を止めるつもりか!
「そんなこと、考えて無いはずが無いだろ!」
足元で起きる爆発。その爆風すらも踏んで加速に利用する。先程よりも速度を上げた俺に、彼女は対応出来ない!
槍を構えていた彼女。が、俺の攻撃は予想外だったようで、俺の一撃には反応出来なかった。そのまま彼女の横を駆け抜ける。
「……そんな……なぜ……」
「逆に聞きたいのだが……」
振り返りつつ、俺の倒した敵を見返す。
「……いつから私が魔法だけだと錯覚していた?」
「なん……だと……」
驚きに体を震わせる彼女。そうして彼女は瞑目し、右腕を高く上げる。
「我が人生に……一変の悔い無し……」
パタム。
軽い音をたてて倒れるゲーマーちゃん。
……うん。
感動的なシーンだけど、俺がやったの峰打ちだからな?
その証拠に彼女を見てみると満足そうな顔をして倒れている。きっと夢だったんだろう。誰かとオサレごっこをやるのが。
いや、夢をバカにしちゃいけない。どんなにちっぽけでも、どんなに愚かしくてもそれは夢なのだ。絶対に笑っていいものではない。だから俺の童貞捨てたいって夢も笑うなよ。笑ったら化けて出るかんな。
「テメェ、優芽を!」
「優芽、大丈夫!?」
おっと、足払いで沈んだ勇者(笑)がきましたよっと。ツンデレちゃんはゲーマーちゃんの介抱へ。
「ユウヤさん! 回復は私に任せて下さい!」
「ああ! 助かるよパルメニアさん!」
……なんかこう、あれだよね。昔の仲間と同じ顔の人が敵にいると、こう……複雑だわ。いや、別人だってわかってるんだけどね。
「『
ついにスキルを使ったか。さてさて、どれ程の力を持っているのか、お手並み拝見させて貰おう。
スキルの力か、僅かに光を纏った剣が振るわれる。どんな力か知らないが、食らうわけにはいかないな!
「くっ!」
「おいおい、この程度か?」
一度弾かれただけで体勢を崩すとは、なってねぇな。隙がでかすぎるんだよ。
「ほら、腹ががら空きだぜ!」
「かはっ……!?」
至近距離での一撃。吹き飛びこそしなかったが、悶絶させるには十分な一撃だ。腹を抱えつつ僅かに後ずさる奴だが……
「おら、敵の前で晒しすぎなんだよ!」
「あっ、がっ!?」
ノーガードの胸へとハイキック。場合によっては死に至るレベルの一撃だ。
「ユウヤさん!」
飛ばされた勇者に駆け寄る王女様。慌てて回復魔法をかけるが、今回は外傷ではなく体の芯へと伝わるような一撃だ。時間がかかる事だろう。
「しっかしあれだな……いくら召還されたばっかりだからって、ちと弱すぎやしねぇか勇者様?」
今回の目的は殲滅ではなく稽古だ。追撃をかける事はせず、挑発する。
「全く、こんなのに世界の命運とか掛けんのか? もう少しマシな人材呼べよ……」
勇者の目が怒りに染まっていく。ダメだな、全然なっちゃいない。
「おいおい、まさか望んでここにいる訳じゃないとか思ってねぇよな?」
勇者の目の色から怒りが取れ、代わりに焦りが浮かぶ。どうやら図星だったか。
「良いぜ別に? お前らが嫌だってんなら肩代わりしてやる」
空間魔法を発動し、倉庫の中から三つの小瓶を取り出す。
「そいつはスキルを剥がす為の魔道具だ。蓋を開けりゃ勝手にスキルが吸い込まれていく。そん中に詰め込めよ」
もはや辺りに俺以外の言葉は無い。この場を支配しているのは、俺だ。
「それも嫌って言うんなら、その勇者の称号は邪魔なだけだ」
右の剣に魔力を纏わせ、奴らに向けて構える。
「安心しろ。痛みなど感じさせないさ」
と、その時夜空に炸裂音と赤い煙が広がる。サーシャからの信号弾だ。
「……五日後、もう一度来る。それまでに結論を出しておけ。止めるか、死ぬか」
これは置いておくぜ、と小瓶を勇者の目の前に放り投げる。そのまま俺は、サーシャとの合流ポイントへ向かうべく窓から飛び降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます