第9話



「……ゆさゆさ」


(う、ううん……)



何だか体が揺れているような気がする。そんな感覚と共に意識が少し覚醒する。



「……ゆさゆさ、ゆさゆさゆさ……」


(なんだ、これ……でも、なんだか、心地いい……)



一定のリズムで体を揺らされると徐々に眠くなっていく。俺の意識は再び闇へと沈殿していき……。



「……はあ、全然起きないの。しょうがないの……」


『ブルーム・デ・アクエリアス』


バシャッ!


「ぶっは!! 冷てぇ!!」



唐突に水が降ってきた! 何なんだ一体!?



「あ、やっと起きたの」


「てめぇエーロ!! 一体何しやがった!!」


「起きないから水の呪文使ったの」


「普通に起こせよ! 常識ってもんを考えようぜ!」


「サーシャ様の前では常識すら超越するの」


「サーシャここにいねぇよなぁ!? なぁ!?」



もはやこいつサーシャをダシに使ってねぇか?



「ああ、顔も服もびしょ濡れだ」


「水も滴るいい男、なの」


「滴らせた本人が言う言葉じゃねぇな」


「……ごめん。発言は撤回するの」


「今顔見て言ったよな!?なぁ!?」



そんなに不細工じゃねぇよ!


……無いよね?



「まったく……んで、アグレッシブな起こし方してまで俺になんの用だ?」


「ん、お礼を言ってなかったと思って」



ああ、村に帰れたことか。ま、そりゃ奴隷状態だったしな。



「サーシャ様のパンツくれた事」


「欲望に忠実だなお前は……」



俺も人のこと言えないけどさ……。



「さすがに冗談なの。私もそこまで変態ではないの」


「いや、変態度で言えば俺とどっこいどっこいじゃ……」


「一緒にするな、なの」



まあそんな感じで俺達は和やかな時間を過ごしていた訳だ。


が、その平和な時も一人の来客によってすぐさま破られる事となる。



「ありゃ? サーシャじゃねぇか」


「さ、さささ、サーシャ様!?」


「あら、エーロじゃない。それにアキラ、さっきぶりね」



先程俺をボコボコにした鬼、もといサーシャがやって来た。



「おいおい、一体何があったんだ? まさか素敵に雑談、って訳じゃ無いよな? もちろん、俺はそれでも歓迎な訳だが」


「また下着が盗まれちゃうから遠慮するわ。今回はちょっと協力してほしいことがあって」


「協力してほしいこと?」



サーシャからの頼み事、もちろん断るつもりは無いが……。あとエーロ、下着泥棒の下りで睨むのはやめてほしい。お前にも還元してやったろ?



「ええ。実は最近マギルス皇国って所がエルフにちょっかい掛けてきてるのよ」


「マギルスって言うと……この近くの国だったか?」



たしかエーロの案内の時聞いた気がする。



「ええ。どうも最近頻繁にエルフの里周辺に表れるのよ」


「そりゃまたきな臭いな……中には入られてるのか?」


「恥ずかしいことに、何回かはね……私も年を取ったかしら」



クレオパトラも嫉妬しそうな美貌で良く言うぜ。ちなみにクレオパトラは老いからくる美貌の低下に絶望して自殺したらしいぜ。これ豆な。



「そして挙げ句の果てにはエーロの誘拐……本当に謝っても謝り足りないわ。ごめんなさいエーロ」


「そ、そんな! サーシャ様は悪くない……です」


「遠慮しないでねエーロ。私にできることなら何でもするから」



ん? 今なんでもするって……ってこのネタはもういいや。


あとエーロ、地味に敬語使ってんな。そのせいで言葉に間が空いて不自然になってるけど、サーシャはそれを恐怖からくるトラウマと勘違いしてるっぽいな。なんというすれ違い。


エーロは何でもするという言葉に反応したのか、既に妄想の世界へトリップ。やっぱお前も結構な変態だわ。



「話はわかった。マギルスってとこを滅ぼしてくればいいのか?」


「思考が過激すぎよ……貴方にはこの件を調査してもらいたいのよ」


「むう、隠密は苦手なんだがなぁ……まあ頑張るか。報酬は?」


「この牢屋から出られるわよ?」



ふっ、それだけで俺の欲望は満たされないんだよ!! 俺は更に条件を重ねようと試みる。



「それじゃ足りないな。この件が成功したら……」



俺はビシッと指をサーシャに突き付ける。



「サーシャのパンツを貰おうか!!」



サーシャは発言の意味が頭に入ってこなかったようで、数瞬またたきをした後、さあっと頬を紅潮させた。



「な、ななな、何言ってんのよあんた!!」


「サーシャのパンティーおーくれ」


「ぱ、パンティー!? そ、そんな破廉恥な言葉使わないで!!」



うん、ウブは四百年経とうとウブなんだな。ちょっと安心した。



「大体何で私のパ……パンツ……が欲しいのよ。も、もしかして私の事が……」


「とっても興奮出来るからです」


「沈め!!」



ゴッ!! と頭部に激しい衝撃。しかし、俺は負けない。負けるわけには行かない。ここで諦めては男が廃るってもんだ!!



「ぱ、ぱんつを……」



サーシャの足首を掴み頼み込む。



「ちょ、放しなさいよ……!!」



ガシガシと頭を蹴られるが、この掴んだ右手は絶対放さない!! 何があっても!!



「な、なにがあんたをそこまで駆り立てるのよ……!!」


「男の情熱だ!」



心の炎がマグマと燃えているんだ!!


すると、俺の気持ちがサーシャに伝わったのか、サーシャからの攻撃が止む。足蹴にされるのは正直興奮した……ゲフンゲフン。


「……くっ、わかった、わかったわよ!! 適当なのあげるから放しなさい!!」


「やった! 言ったな!? 言質はとったからな!?ヤッフー!! 人生の春だ!! 春が来たぞぉー!! 花見だ花見だパンツで花見だ!!」


「変態な事言ってんじゃ無いわよ!!」


「がぶりえるっ!?」



油断したところに後頭部への一撃。いいセンスだ、サーシャには暗殺者の才能がある……。


そんな思考を最後に、俺の意識が途切れる。本日二度目の気絶が俺を襲った。

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