第10話




「さてさて、調査するとは言ったものの……あてが無いんだよなぁ」



オッス、おら彰! おら牢屋さ出ただ!


というわけで牢屋から出してもらえたのだが、いかんせん手懸かりがない。兵士を見つけて尋問すればちゃっちゃと作業が終わるのに。そしてサーシャのパンツが貰えるのに。



「まず問題は、どうやってあいつらがここを見つけてるかって話だ」



エルフの里は正規の手段では辿り着けないように攪乱するための魔法があちこちに仕込まれている。かく言う俺も空間魔法を使っていなければ辿り着かなかっただろう。


それなのに普通の人間が辿り着くというのもおかしな話だ。特殊部隊ならその可能性も無きにしもあらずだが、それならば普通のエルフに追い払える筈もない。一体どうやって……。



「……これじゃ情報が少なすぎる。当面は足で稼ぐことにするか」



何はともあれ探さなければ始まらない。俺は自らのLUCK値を信用する事に決め、森へと歩き始めた。




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「はぁ~気持ちいいなぁ~」



暖かな木漏れ日と時折吹き抜ける涼風が頬を撫でる。昼寝には最適の環境だ。


え? 手掛かりは見付けたのかって? 見つけてたらこんなところで休んでねぇよ。つまりそういうことだ察しろ。



「森広いよ……見つかるはずねぇよ……」



もしかしてこれを見越して俺に依頼したんじゃ……。サーシャのにやりとした黒い笑みが頭の中に浮かぶ。想像上のサーシャはそのまま女王様ルックに変身すると、奴隷姿の俺をビシバシと鞭で叩きはじめた。想像上の俺が気持ちよさそうな顔を浮かべているのは見間違いではないだろう。



「クソッ! 騙された!」



これが人間のやることかぁー!!


心の雄叫びを上げたところで上半身を起こす。森ののんびりとした空気にはどうやら催眠効果があるようで、このまま転がっていると本当に寝てしまいそうになる。このまま眠る訳にもいかないので、何か別のことで気を紛らわそうと考えていると、俺の腹からギュルルルと腹の鳴る音が鳴り響く。



「それにしても……腹減ったなぁ」



思えば魔王との戦いから何も食っていない。ここはワイルドに野生の動物でも狩りたいところなのだが……。


と、そう考えた瞬間ガサリと繁みから音がする。



「っ! ちょうどいいねぇ……」



自前の武器を取り出す時間も惜しい。懐から予備のナイフを構えて繁みにゆっくりと近付き……。



「ふっ!!」



素早く一突き。ナイフが肉に沈みこむ感触が伝わってくる。一撃で急所を狙えたのか、茂みからはクゥンとわずかに情けない悲鳴が聞こえたのみで大した抵抗は感じられなかった。



「よーし、久々だけど勘は冴えてるな」



絶命した相手を引きずりだす。どうやら獲物は狼のようだ。首元以外は生きていたころの姿を保っており、毛皮を剥げば売りにも出せるだろう。もっとも、売る場所がないのだが。



「早速解体し、て……?」



ナイフを引き抜いた時、首もとの毛に埋もれている何かを見付ける。



「これは……首輪か?」



まさか……これ飼い犬的な?


……。


うん。俺は知らない。ペットなんて狩ってない。そう、放し飼いにしている方が悪いんだ。俺は悪くない。


適当な理論で気持ちを落ち着かせながら、証拠隠滅のためにポケットに首輪をしまい、解体へと取りかかった。




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結局大した収穫もなくエルフの里に戻ってしまった。まあ一朝一夕で結果が出るとは思っていない。気長にやっていくか。



「帰ったぞー」


「あら、お帰りなさい」



下宿先に指定されたのはなんとサーシャの家。まあ当然と言えば当然か。他のエルフは人間にいい感情は持っていないだろうしな。俺もサーシャの家に合法的に侵入できてWIN―WINだね!



「……そういえばサーシャ。エルフの里に狼をペットにしてるやつっているのか?」


「ええ。一軒だけ飼ってるところがあるわよ?」


「……」


「何? 触りたいの? なら明日になってからじゃないと帰ってこないと思うけれど……」


「……やっぱり日中は森に?」


「あら、よく知ってるわね」


「いや、ただの推測だよ。あはは……」



……言えない! 俺が狩ったかもなんて言えない!


背中を伝う冷や汗がやけに気持悪かった。

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