第16話

「サーシャ様ぁ、住民への周知完了しましたぁ」



一通り作戦を煮詰めた後、執務室でゆっくりしていると一人のエルフが部屋に入ってくる。



「お疲れ様、エルナ。貴女も避難の準備をしてくるといいわ」



エルナと呼ばれた彼女もまた、例に漏れず美人である。おっとりとした雰囲気を漂わせている、サーシャとはまた違ったタイプだ。あと巨乳。



「タカナシ?」


「ひぃっ!? お、俺はなにもしていない!」


「ふふっ、そこのお方は随分な変態さんのご様子ですねぇ」



初対面の人にまで思考が読まれた……。



「エルナ、こちら協力者のタカナシ アキラ。ご覧の通り変態よ」


「ええ、一目見たときからわかってましたぁ」


「おいおい、この溢れ出るイケメンオーラを見てそれは無いんじゃないか?」



ファサ……と髪を掻き上げポーズを作る。



「……」


「……」


「見るなぁ! そんな目で俺を見るなぁ!」



なんで哀れみの視線を向けるのさ!? せめて罵倒にしてよ! そっちの方がよっぽど楽だよ!



「……キツイ仕事を押し付けたみたいね。大丈夫、ちゃんと休暇あげるから」


「私、お茶いれてきますねぇ~」


「優しい対応が心に響く!!」



善意は時に人を傷つける。皆覚えておくように。




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「ところでぇ、変態さんは本当に強いんですかぁ?」



一通り弄られた後、エルナが俺に質問してくる。呼び名がアレなのは突っ込まないでくれ。もう全然、心に響いてないから。言われ慣れすぎて普通に反応出来ちゃうから。むしろ快感を覚えるまである。



「まあ……それなりにはね?」


「サーシャ様と比べるとぉ?」


「ばっか、人が鬼に勝てるわけないだろ」



はっ!? 思わず本音が!?



「……」


「む、無言で笑顔はやめてくれませんかねぇ……」



サーシャからのプレッシャーが俺を蝕む。動け! 動け俺の体! なぜ動かん! こうなったら貴様の魂も道連れに……うん、無理だね。たぶん傷ひとつつけられないわ。



「うーん……でもサーシャ様と一緒に作戦に出るんですよねぇ?」


「お、おう。一応な」



ちなみにエルナには作戦のことは知らせている。サーシャの腹心だけあって、有事の際はエルフ達の指揮を取るらしく、伝えない訳にもいかなかったのだ。



「……じゃあちょっと私と戦いませんかぁ?」


「え、やだよめんどくさい」



エルナからの頼みを即座に断る。いくら美人の頼みでも戦闘狂はちょっと……。



「あら、受けて上げなさいよ」


「ええ……俺はそういうの苦手だってわかってんだろ?」



荒事は苦手なんだ。あとめんどくさいし。



「受けたらお仕置きは帳消ししてあげるから」


「さあどっからでもかかってこいやぁ!」



これは俺の命をかけた戦いだ!



「まったく……」


「とても面白い方ですねぇ」



なんか二人に呆れられている気がするけど気のせいだよね。うん。



「まあ受けてもらえるなら構いませんよぉ。では、外に出ましょうか~」



ガチャリ、とドアを開けつつエルナはこちらへ話し掛ける。



「サーシャ様と並ぶに足る力があるかどうか、この身で確かめさせて貰います」




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「なあ、この模擬戦完全にお前のせいだよな?」


「……なんのことかわからないわ」



開けた場所に出た俺達。お互いに模擬戦の準備をしつつ、俺はサーシャを問い詰めていた。



「いや、絶対お前関わってるって。あいつ最後だけトーン違ったもん。間延びした話し方止めたもん」


「貴方の変態度が目に余ったんじゃない?」



言うに事欠いて俺をバカにするのか……!


ていうか変態ネタ使いすぎだと思う。いい加減飽きられちゃうよ? 誰にとは言わないけど。



「準備は終わりましたかぁ?」


「あ、ああ」



俺の装備は剣一本に魔導銃一丁。剣は念のため刃引きがしてあり、魔導銃も殺傷能力を切ってあるので問題ないだろう。



「……見たこと無い武器ですねぇ。何ですかそれはぁ?」


「戦ってみてのお楽しみ、って」



右手に剣を、左手に銃を構えエルナと対峙する。



「まあ、自らの武器はそうそう教えないですよねぇ」



そういってエルナも弓を構、え……?



「っておい! よくみたら矢が実戦仕様じゃねぇか!」


「?」



小首かしげてんじゃねえよ可愛いじゃねぇかこんくしょう!



「大丈夫ですよぉ、貴方なら避けてくれるって信じてますからぁ」


「薄っぺらい信用だな!」



しかもあの矢、返しがついてて抜けにくくなってやがる。仕留める気満々じゃねぇか!



「あーもう! 色々ごちゃごちゃしてるけどやってやるよ! かかってこんかい!」


「それじゃあ、行きますよぉ」



勝負開始だコンチクショー!

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