第13話
「手掛かりは~歩いてこない~だ~から歩いて行くんだね~」
森の中を陽気な歌が通りすぎていく。が、歌っている当人の心の中はとってもブルーだ。
なんでわかるかって? 歌っているのが俺だからだよ。
「収穫は無く、手掛かりも無く、進むことはなく怒られる~」
この替え歌はいい感じに現在の状況を表してると自負してる。誰も聞いてる人はいないけど。
そもそもこんな砂漠からダイヤを見つけるようなマネ、出来るはずが無かったんだよ……やっぱりサーシャに嵌められたんだこんちくしょう。
……サーシャに嵌められる……。
うん、止めよう。これ以上はアウトだ。主にCERO的に。何? そもそもお前の存在が倫理的にアウト? 返す言葉もありません。
まあそもそも俺は子供向けじゃないから。アダルティなコンテンツだから。主に女性向けの。そう、お子様にはまだ俺の存在は早いってことさ……。
……やべぇ、言ってて鳥肌立ってきたわ。ここまで気持ち悪いとは思わなかった。鏡があったら多分吐いてた。
「はぁ、全然見つかんねぇ…」
そもそもこんなに精神を抉るような行為をしてしまうのも全然対象が見つからないからだ。つまり俺がこんなに気持ち悪いのは全部マギルス皇国が悪い。
さっきから見つかるものと言えば狼、狼、狼……。要するに狼しか見つけていない。なんだよこの生息比率。今んとこ狼百パーセント。もう果汁百パーセントみたいになってんじゃねぇか。因みに果汁百パーセントは『百パーセント果汁で出来てる』じゃなくて『果実から限界まで搾り取った』って意味だから注意しろよ。
いや、こんなこの世界で役に立たない事を考えても仕方ない。強いて言えば詐欺位には使えそうだけど生憎と俺にその才能はない。問題は狼しかいないということだ。
「いくらなんでもおかしくないか? 狼しか居ない森なんて聞いたこともない」
そもそもそれじゃあ食物連鎖も成り立たない。あの狼たちが草を食べるってんなら話は別だが……。
「もうちょいこの件に踏み込んでみるか」
関係無いことかも知れないが、このままじゃ二進も三進も行かない。やってみる価値はあるだろう。
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「ビンゴ、ってとこか」
あれから数匹の狼を捕まえて確認したところ、すべての狼に首輪があったのだ。しかも全て同じデザイン。これは疑うなと言うほうが無理だろう。
「んじゃ、ちょっと失礼して……」
見たところ外見におかしな部分は無いので、首輪を分解して内部を調べる。
「おっと……こりゃ驚いた」
蓋を開けてみれば中に入っていたのは魔方陣。それも『遠見の魔方陣』と呼ばれるタイプだ。
『遠見の魔方陣』とは遠隔地と自分のいるところの視界を繋ぐ魔方陣だ。偵察によく使われる、汎用性のある魔方陣である。まあ用途からしてわかるようにいくらでも悪用出来てしまう為、国が個人での使用を制限している事が多いのだが……。
「個人でこの量は用意できないはず……なら国と繋がりのある組織ってことか」
しかし狼に付けるとは考えたものだ。エルフの里を覆う魔方陣で目視は防げてもエルフ個人の匂いまでは防げない。訓練された狼に任せればその問題はクリア出来る、と。
しかも既に近くまで人に接近を許してしまったのが痛い。これではそう遠くないうちに里が発見されてしまうだろう。
「全面戦争は分が悪いか……」
いざとなれば俺とサーシャが出れば多少はなんとかなるだろうが、相手は国規模だ。真っ正面から戦うのは得策ではない。
そうなると残された策は……。
「逃亡が一番か……」
そうと決まればサーシャに献策しに行こう。位置が割れている以上、もたもたしているのは愚策だ。向こうも狼が討伐されたことに気付いたはずだ。これ以上時間を掛けることは許されない。
証拠品である首輪を押収し、俺は里へと踵を返した。
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