第3話


正直に言ってしまえば、俺には軽いMっ気がある。だから認めよう。美少女の蔑みの目線ならまだご褒美なのだ。


だが、俺は声を大にして言いたい。


男からの憐れみの目線とか需要ねーんだよ!!!!!



「……なんだよ」


「いえ、その……」



先程のメイドの手によって馬車の前まで引きずり出された俺は、周りを護衛の騎士達に囲まれていた。


正直これで厳しい目線とかならまだわかった。盗賊の嫌疑も掛かってるしね?


でもさぁ……憐れみの目線はどうよ? 確かに今の俺は鋼糸で亀甲縛りにされてちょっとアレな姿だけどさぁ。まだ罵倒してくれた方が気が楽だわ。ほら、もっと俺を罵倒してくれ!



「なあなあ護衛さんよー」


「なんだ?」



お、意外と答えてくれるのね。エルフの時みたいに邪険にされるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ。



「いやさ、この馬車って何処に向かってたのかなーと。方角的には俺の目的地と一緒なんだよね」


「ふむ……ま、そのくらいならいいか。私達はヴァンフォーレ公国の魔術学院に向かっていたのだよ」



ということは同じ所行こうとしてたのか。なんか親近感沸いてきたな。



「そりゃ奇遇だな。俺もこれから魔術学院行こうとしててな」


「お前がか? 冗談は顔だけにしておけ」



鼻で笑われた。いや、そりゃ盗賊らしき人間がこんなこと言ったらその場しのぎにしか聞こえないけどさぁ……。



「いやマジなんだって……確かにあんた達のお嬢様ほど魔力は使えないけどさぁ」


「そうだろうそうだろう! 我らのお嬢様は並外れて優秀だからな!」



ハッハッハと笑い出す護衛達。なんでいきなり上機嫌になるんだよ。あと話を聞け。



「ああ……優秀すぎて、私達も被害を受けるがな……」



と思ったら暗い声に。急にテンションを下げるなアホ共。躁鬱激しすぎるわ。



「つかそこまで優秀なのかあのお嬢様は? 一体どんくらいなんだ?」


「そうかそうか! 貴様もお嬢様の事が気になるか! ならばみっちり教えてやろう。お嬢様の魅力を!」



いや、いいです。だからいいって。マジで。マジで止めろ。このっ、やめっ……



アーッ!!




◆◇◆




「あら、この貧相な男が今回の下手人なの?」


「ええ。まだ容疑の段階ではありますが……」



捲し立てられるかのようなお嬢様賛美の嵐にボロボロになった頃、件のお嬢様がやってきたお嬢様かわいい。付き従っているのは先ほどのメイドだろうかお嬢様凄い。個人的には早く剣を返して欲しいものだお嬢様美しい。



「あら、じゃあたっぷりと絞る必要があるわね……あなた、名をなんと言うの?」


「小鳥遊彰ですお嬢様可愛い」


「……へ?」



? なにか変なことを言っただろうかお嬢様可愛い。でも変な声をだすお嬢様も可愛いですよお嬢様可愛い。


やれやれといったかのように頭を振るメイドお嬢様可愛い。



「あなた達、またやらかしましたね」


「ええ、布教はバッチリです!!」



お嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛いお嬢様可愛い



「……このままでは会話が続きそうに無いですね。アリサ様、少々お待ちを」


「え? え、ええ……」



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「フッ!!」


「あがっ」



首筋に激しい衝撃が走ったかと思うと、朦朧としていた意識が回復する。



「……俺はいったい何を……?」


「気付いたみたいですね」



後ろから聞こえた声に振り向くと、先ほど俺を捕まえたメイドが。



「あ、お前!! そうだ、アンタに捕まって尋問されるんだった……くそ、体は自由にされても、心までは奪われないからな!!」


「……後遺症が無いようでなによりです」



あれ? 俺の渾身のボケがスルーされた。おかしいな、これを言っとけば「ぐへへ、この薬の前でも同じ事が言えるかな……?」的な展開になってピンク色のイベントが起こるはずなのに。てか後遺症って何? 首筋やられたこと? もしかして脊髄損傷レベルでやられたの? なにそれ怖い。



「ではお嬢様、改めてどうぞ」



メイドがそういうとまた後ろから声が掛けられる。何? そんなに俺の後ろが好きなの? 俺がゴルゴなら今頃命はないよ?



「ん、んん!! アキラさんですわね? なぜ私たちの馬車を襲ったのですか?」


「いや、そもそも俺盗賊じゃないし……ん? 待ってなんで俺の名前知ってんの?」



俺自己紹介したっけ……? あれ? したような気も……でもいつ?



「……あまり深く考える必要は無いかと」



メイドさんにそう言われる。だから俺と君初対面だよね? ナチュラルに人の心読むの止めようよ。プライバシーの侵害だよ。俺の方からプライバシーを明かしに行ってるという意見は無しで。


ま、美少女に名前を覚えられてたという方向でプラスに捉えておくか。俺ってばマジでポジティブ。ポジティブ過ぎてウザいとも言われるがな。



「では盗賊でないとしたら、貴方はなんなのですか?」


「ああ、多分あんたと目的は一緒だよ」



そう言いながら解いておいた鋼糸を外しつつ、懐から手紙を取り出す。



「!!」


「おっと、そう構えないでくれよ。なにもする気なんて無いさ」



身構えたメイドや護衛達に手をヒラヒラさせることで武器を持っていないことを示す。



「ほら、お前さんが受け取って確認すればいい。ただ、くれぐれも丁寧に扱ってくれよ? 封印があるから、中身は見せられないけどな」


「……」



警戒しつつも手紙を受け取り、宛先と差出人を確認するメイド。



「……なるほど。これは確かにサーシャ様の筆跡です」


「え!? サーシャお婆様の!?」



彼女達が驚いたような声を上げるが、サーシャお婆様?



「あれ、あんたらサーシャのこと知ってんの?」


「知ってるもなにも……というか貴方、サーシャ様に馴れ馴れしすぎですわよ!!」



え、んなこと言われてもなぁ……。今から様なんて付けたら逆に怒られるわ。「余所余所し過ぎよ!!」って。



「……お嬢様の実家は初代勇者様と深い関わりがありまして。その繋がりでサーシャ様と」



……ん? これってまさか、タイミング的に……



「私の名前はアリサ=ガーランドルフ。偉大なるゴルド=ガーランドルフの血を継ぐ、ガーランドルフ家の息女よ!!」



やっぱりか!!

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