第4話

闇で覆われた空を、一条の閃光が駆け抜けていく。


闇に覆われているといっても、今現在この場所が夜というわけではない。ここは常に空が黒に染まっているのだ。


魔界。魔族の住まう、人間界とは対になる存在。ここは常に時間が夜という特殊な世界である。もっとも、魔族からすればこれが普通なのであるが。


先程空を駆けた閃光は、そのまま巨大な建物へと向かっていく。


その巨大な建物とは、魔王城。四百年前に勇者によって一度崩壊した、全長二百メートル程の西洋風の建造物である。現在は再建され、以前の威光を取り戻している。



「魔王様、伝令でございます」



先程の閃光は、魔王城に入ると人の形へと姿を変える。人の形とは言っても、翼や角など人にはない部分もあるが。



「そんなに焦るでないリューンよ……何があった?」



魔王と呼ばれた影は、溜め息をつきながら目の前の魔族に呼び掛ける。



「はっ、報告致します。先程人間界で勇者召喚が行われた模様です」


「……ついに、か」


「ええ。ここまでは先々代魔王様の予測通りでございます」


「と、いうことは……やはり戦争となるのか」


「ええ、今度こそは我ら魔族の優位性を示す時であります」


「……そうだな。リューンよ、もう任務へと戻って良いぞ」


「はっ」



リューンと呼ばれた魔族は、その顔に喜色を浮かべながら、再び閃光となって去っていく。


一人残った魔王は、玉座へと戻りながら一つの日記帳を手に取る。



「『初代勇者』、か……」



そこに書かれていたのは初代勇者の脅威と自らが死んでからの未来予測。


そして一つの決意を胸に秘め、玉座から去る。


魔界の空は、晴れない。




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「ぶぇっくしょい!!」



唐突に出たくしゃみに鼻をすする。通行人が汚いとばかりに避けていくが、あくまでくしゃみをしたからであって俺が避けられているわけではない……よね?



「誰か俺の噂でもしてるのかねぇ」



もっとも、この世界で俺の事を知っている奴なんて数える程しか居ないだろうが。いたとしても過去の文献を読み漁っている歴史家位だろうか。ま、あの時代にろくな文献なんてないと思うが。


俺は王城を飛び降りた後、新しくなったロタリアの街をぶらり散歩していた。



「昔は観光なんてする暇なかったからなぁ」



それに観光する所も無かったし。見ているだけで目が痛くなる場所ばっかりだったからな。


さて、あいつの故郷であるエルフの里へ行きたいんだが……いかんせん実は行き方を知らないのだ。正直、いきなり城を出たことを早速後悔している。


通常の手段ではエルフの里には入れない。なんでも幾重にも結界が張ってあるらしく、エルフの鋭敏な感覚なら越えることが出来るが、その他の種族には捉えることが出来ないそうだ。この話は過去にエルフの仲間から聞いた話である。


とにかくこのままではどうしようもない。行き方を知っている奴に会わなきゃいけないんだが……エルフってのは閉鎖的な部族だ。人間の住む街にいるはずもない。しかも、現在この世界に俺の知り合いは皆無に等しいのだ。エルフを人伝に紹介してもらうこともままならない。ハードモードにも程がある。


これからどうしようかなどと考えながら街をぶらつく。これだけ見ると完全に暇人かニートの台詞だ。


しかし……先程からやけに同じ銅像が目に入る。剣を振り上げたイケメンの像だ。イケメンと言うだけで殺意が湧いてくるが、流石に壊すわけにも行かなかったので必死に自分を押さえた。


恐らくこいつは英雄か何かなのだろう。それにしたってここまで慕われるとは……俺の銅像は一つも無かったのに。ほら、俺も結構救国の英雄じゃん? だから一つぐらいはあってもいいような気がするんだ。いや、勿論銅像の為に戦った訳じゃないけど? 別に銅像無くても悔しくないし? 対抗意識なんて無いし?


そんなことを銅像の前で悶々と思っていると、隣から見知らぬ婆さんが話しかけてくる。



「もし、そこの若いお方。勇者様に興味があるのかね?」


「え、ああ……そうですね。良かったら教えて頂けませんか? マダム」


「あら、マダムなんて……そんな年でもないわよ」



満更でもない様子で柔らかく微笑む婆さん。年長は持ち上げとけって前世で習ったんだ。あとエルフに。エルフのお方は大抵年上だからなぁ……そのせいで何度痛い目を見たことか。



「このお方は四百年前にこのロタリア王国を救った英雄、アキラタ・カナシ様なのですよ」



アキラタ・カナシ? 四百年前の英雄? 俺そんなやつ知らねぇぞ? でも聞き覚えはあるなぁ……。


アキラタ・カナシ、アキラタカナシ、あきら、たかなし……?


彰 小鳥遊?


あ、俺のことか!!!

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