第18話

「全く貴方達は……もうちょっと加減して模擬戦しなさいよ」


「あ、あははぁ……」


「面目ねぇ……」



結局あの後どうなったかって? サーシャが爆発を魔法で抑えてくれたお陰で無傷だったよ。強いて言えばエルナを押し倒した時にちょっと擦りむいた位だ。それもその時の胸の感覚でプラマイゼロ……いや、プラスだと言っても過言ではないだろう。



「まあ怪我が無かったからいいけど……本当に、心配かけさせないでよ?」


「すいませんサーシャ様ぁ……」



呆れたような表情で叱るサーシャと、しゅんと項垂れるエルナ。


なんていうか、二人を見てると、こう……



「……母と娘?」



ボソリと呟いた。そう、俺は不用意にも呟いてしまった。


視界の端に陰が写る。鍛えられた反射神経でそれを即座に叩き落とそうと右腕を振るう。しかし、その陰は俺の一撃すら潜り抜け……



「いだだだだ!」


「何か言った? タカナシ」



……俺の顔面へアイアンクローを敢行した。ギブアップを宣言する為サーシャの手をタップするも万力の如き力は揺るぐ兆しも見せない。さすが不動のサーシャ。そこらへんは胸も一緒ー



「あら、何か言いたいことがあるなら遠慮しなくていいのよ?」


「痛い痛い! すいませんでした!」



必死の謝罪の末、漸く解放される。ああ、頭が割れるように痛い……ていうか割れてないよね? ザクロのようにパックリいってないよね? まだ生きてるよね俺?



「二人とも仲良いですねぇ~」


「あ、やっぱそう見える? いやー、やっぱり俺たちの溢れでる夫婦オーラが……」


「な、何変なこといってんのよ!」


「へぶっ!?」



横腹への一撃。強制的に言葉を中断させられてしまう。



「あれ~? サーシャ様顔真っ赤ですよぉ?」


「う、うっさいわね! 誰がそんな!?」



なんか二人が言ってるみたいだがそれどころじゃないわ。凄い気持ち悪い。なんかでりゅぅぅぅ!




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ふう、ひとまず吐き気は治まった。もうちょっとでマーライオンの如く流れ出てしまう所でもあったが。



「ま、模擬戦は……まあ手打ちってことでいいわよね? もう一戦するには時間も足りないし」


「俺はそれで問題ないぜ。エルナは?」


「私も構いませんよぉ」



なんともぽやんとした答えだ。ていうかこいつ絶対キャラ作ってるよな? 戦う前に一瞬口調が変わったの、俺忘れてねぇからな。



「というかエルナ、あなた結構押されてたわよね? 実質負けのような……」


「ああ、それは言わない約束ですぅ~」



ぴょんぴょん跳ねるエルナ。うぜぇ。狙ってるのが見え見えでうぜぇ。でも胸もぴょんぴょんしてるので許す。俺の心もぴょんぴょんしちゃうわ。



「タカナシ?」


「ひぃ!? すいません!」



おかしいな、心がリアルにぴょんぴょんし始めたぞ?



「二度はないって言ったわよね?」


「お、お許しを~」



そのまま襟首を捕まれ、ズリズリとサーシャの執務室まで連れていかれる俺。ドーナドーナ~。


そうして扉がしまる直前、エルナの口が動いた気がした。



「あ り が と う」



……なんだ、お礼もちゃんと言えるじゃねぇか。




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「さて皆さん、訓練の程は如何ですか?」



日もとっぷりと暮れ、城にも火が灯されるようになった頃。俺達は談話室に集まって雑談をしていた。暖炉にくべられた火といい、窓から見える大きな月といい、なんだか中世にタイムスリップしたような感じだ、と思ったところで実際に自分達は異世界トリップしている事を思いだし、なんだか複雑な気分になる。



「どうもなにも……まだ初日よ? ま、それなりの事は学べたと思うけど」


「ゲームと一緒。やりやすい」



雅と優芽はまずまずのようだ。やっぱ才能あるなぁ、と改めて思う。



「俺は……うん、訓練役って代わりいない?」


「代わり、ですか? 騎士団長はこの国随一の剣の使い手なのですが……もしかして、役者不足でしたか?」


「い、いや、そうじゃないんだ。うん、いないならいいよ。はは……」



どうやらホモの脅威からは逃れられないようだ。軽い絶望が俺を苛む。



「だ、大丈夫ですかユウヤ様?」


「変なのは今に始まったことじゃないから。気にしたら負け」


「そ、そうなのですか……」



納得しないで王女様。それ嘘だから。俺変人じゃないから。


……嘘だよね?



「まあそんなことはどうでもいいんだよ。ここに集まったなら明日の予定を確認する必要もあるんじゃないか?」


「あ! そうでした、それも伝えなきゃいけないんでした」



ええ……忘れてたのかよ。先行きがなんか不安になってくるわ。



「う……そんな目で見ないで下さい……」


「はは、悪いな」



顔を赤らめるパルメニアに笑いかける。やっぱ可愛いな。



「……」


「……」



うん、なんか女子二人からの視線が冷たくなった。やめよう。よくわかんないけど思考を読まれてる気がする。



「で、では明日の予定をー」



そうパルメニアが切り出した、その時だった。



ドォォォン!!


「きゃっ!?」


「のわっ!?」



爆発音が俺たちを揺らす。いくつかの調度品は倒れてしまった。



「み、みんな無事か?」


「ええ、少し驚いたけど……」


「イベント発生? フラグ建ててたっけ……」


「び、ビックリしました……」



全員の無事を確認すると、部屋に衛兵が入ってくる。



「皆さん! ご無事でしたか」


「ええ。一体何が……?」



続いて放たれたのは、衝撃の言葉だった。



「王の部屋が爆破されました。賊の襲撃です!」



時間が止まったかのような衝撃。


フラグ回収乙、という優芽の言葉がやけに響いた。

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