第22話
「……」
「……優也。これから私達、どうしよう」
不安げな顔で俺を見てくる雅。パルメニアもその表情を暗くさせている。唯一変化が無いのは優芽くらいだ。
「……悪い。俺にもわからねぇ。でも、一つだけわかるのは……」
「……今の私たちじゃあの男には勝てないってこと」
俺の言葉を引き継いだのは優芽だ。だが、俺とは対照的に落ち込んだ様子もない。
「……優芽は、強いな」
「?」
「本当なら俺がしっかりしなくちゃならないのに、大事なところじゃこのザマだ。決意を聞かれただけで、あっさり戦意を失っちまう……」
ああまったく、情けなさ過ぎる。あふれ出る涙を手で覆いつつ、ひそかに拭う。こんな顔、彼女らには見せられない。
「……別に私は強いわけじゃない」
「へ?」
優芽の言葉に思わず間抜けな声が出てしまう。泣き顔を隠すことも忘れて彼女を見上げる。
「私だって命の危機に瀕したら怖いし、相手に手も足も出なかったら恐ろしい」
「じゃあ、なんでそんなに……」
「単純な話」
そう言って優芽は地面を指差す。
「この世界が、それ以上に面白いから」
おそらく俺は今ぽかんとしたアホ面をさらしている事だろう。話を聞いていた雅とパルメニアも唖然とした表情をしている。
「面白いからここにいるんだし、そうじゃなかったら今すぐにでも帰ろうとしてる。私の性格はよく知ってるでしょ?」
「え、ええ……でも、それじゃああの男が言った決意ってのが示せないじゃない。なんの解決にも……」
「私達、ここに呼ばれてから一週間位しか経ってない。それで決意なんて無理がある」
男の提示していた条件をバッサリと切り捨てる優芽。なんとまあ大胆な……。
「考えるのは良いこと。でも、物語が始まってもいないのにエンディングについて考えるのはナンセンス。だから私は、勇者はやめない」
想像以上に強かった優芽の意思。これまでの言動からは想像できなかった新たな優芽の一面に俺達は唖然とする。
「……ふう、しゃべりすぎた。キャラが崩れる……」
「あ、よかった。いつもの優芽ね」
わかる。わかるぞ雅。俺も一瞬優芽に誰かが化けているという考えが頭をよぎったからな。
「失礼な。私だってシリアスターンは担当できる」
頬を膨らませて反論する優芽。その様子がなんともおかしくて、思わず吹き出してしまう。
パルメニアと雅も声を出して笑う。さっきまでの辛気臭さが嘘のようだ。
「……よし! じゃあ、俺たちの方針は決まったな!」
俺が彼女たちに呼びかけると、彼女たちは頷きで応える。パシッ、と左の掌に右こぶしを打ち付け、俺は決意を新たにする。
「俺たちはまだこの世界のことを知らない。でもパルメニアみたいな人と知り合って、とても楽しく感じているのも事実だ。だから、あんな奴に俺たちの旅路を邪魔されて堪るかってんだ」
「ええ、そうね。金輪際私たちに関わらないよう思い知らせる必要があるわ」
「わ、私も微力ながらお手伝いさせていただきます!」
「いいね、こういうの。イベントみたい」
みんなもそれぞれに決意を表明し……いや若干一名違うこと言ってるな。誰が言ってるかは言わずもがな。
「そんじゃ、これからあいつに備えて特訓だ! 目に物見せてやろうぜ!」
『おー!!』
待ってろよクソ野郎。今の俺なら負けねぇからな!
◇◆◇
「……行ってくる」
それだけ言い残してサーシャの元を去ろうとする。いつもなら別れ際に冗談の一つも飛ばしていくが、今は無理だ。
なぜなら、エーロを攫った奴への制裁で頭が一杯だったからだ。
「行くって、どこに行くつもりよ。居場所もわからないのに」
「決まってんだろ。勇者のスペックを全開にすれば一日で大陸ひとつ回りきれる」
そう言って俺は駆け出す……つもりだったのだが、体が引っ張られる感覚と共に足が止まる。後ろを見てみると、サーシャが俺の腕をつかんでいた。
「……離してくれ。俺は」
「いいから落ち着きなさい。あんたが焦ったって話にならないわ」
「でも!! こうしている間にもエーロは!!」
「だから落ち着きなさいって言ってるでしょ! 相手は殺すことなく攫った。ならすぐ手を出される筈が無いでしょう!」
サーシャの怒声を浴びることで、わずかなりとも煮え立った頭が落ち着く。だが、焦燥が消えた訳ではない。未だ俺の心はエーロの事で一杯だった。
「……じゃあ教えてくれ。俺はどうすればいい?」
「やっと落ち着いたわね。まったく、すぐ見境無くなっちゃうんだから」
呆れたようにため息をつサーシャだが、こればっかりは仕方ない。
「一ついいことを教えてあげるわ。エーロはあの首輪を持ってる」
「首輪って……まさかオオカミに付いてた!?」
なんでエーロがそんなものを? まさかプレイ用……いやいやまさか。あいつに限ってそれは……
『ご主人様……今日はペットの私をたくさん可愛がって……なの』
……あれ? 意外とアリ……
「アキラ……」
「すいません真面目に聞きます!!」
「はあ……こんな状況でも変な事考えられるなんて、呆れを通り越して逆にすごいわよ」
「いやそれほどでも」
「褒めてないわ」
流れるような応対である。
「とにかく、彼女には遠見の魔法陣が付いている。あとは遠見の術を使えば一発よ」
「でも、肝心の魔法陣が無いじゃないか。あれは一つに付き二枚のワンセットだろ?」
遠見の魔法陣には『視る』ための魔法陣と『映す』ための魔法陣が必要だ。ワンセットで用意しなければいけない為、繋がりが強固になる反面、代用が効かないというデメリットがあるのだ。
「ああ、それなら問題ないわ。ほら」
サーシャが懐から取り出したのは複数枚の魔法陣。これはまさか……
「王宮からくすねたやつか?」
「あら、くすねたなんて人聞きの悪い。無期限で借りているだけよ」
それは奪ったのと同じじゃあ……。
「ま、これで居場所がつかめるってことか」
「ええ。魔力の逆探知もできるし、正確な筈」
ならばと早速魔力を流し、魔方陣を発動させる。
待ってろエーロ。すぐ助けに行くからな!
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