第27話
「さーて、決着も付けたことだし、サーシャのとこへ帰りますか」
くるりと踵を返し、サーシャが待っているであろう所まで歩き出す……いや、歩き出そうとしたが、その足は踏み出した瞬間にピタリと止まる。
「……なんだ、まだ生きていたのか」
そう言って振り返ると、死骸の中から這いずり出てくる男の姿が。角の大きさから、それなりに高位の魔族だということがわかる。
「ぐっ、くそっ……我が野望が、こうもあっさりと」
「計画お粗末過ぎんだよ。だからたった一人の介入でボロボロになるし、少し突っつかれただけで失敗する。もっと考えろよ」
少なくともウチのサーシャはそんなヘマしないぜ、と心の中で付け加えておく。
「負けた以上、何が言えるわけでも無い……ここは無様だが逃げさせて貰うとしよう」
「おいおい、敵目の前にして逃がすと思ってんのか?」
地面に刺さったままの剣を抜き、相手に向ける。
「ふん、まだ我が大望は成就しておらんのでな」
「そうかい、じゃあそのまま諦めとけ……よっ!!」
懐の魔銃を一瞬で抜き、魔弾を乱射。それに合わせて俺自身も斬りかかる。
が、相手の体が急に眩く光り輝く。
「ぐっ!!」
「ではな!! 次に相見える時が貴様の墓場だ!!」
思わぬ光量で目が焼かれ、一瞬とはいえど目を瞑ってしまう。勇者の力で外傷は治るものの、一回失われた視力は回復するのに時間がかかる。ようやく視界が戻ったころには、すでに奴の死骸すら残されていなかった。
「……チッ、色々聞くことがあったのによ」
得物を仕舞い、軽く毒づく。実質今回の戦いでは収穫はなかったに等しい。エーロが攫われたことも考えると実質マイナスだ。全く、最後まで厄介な奴だ。
余計な労力を払ってしまった、そう思いつつ肩を落としていると、後ろから声が掛けられる。
「タカナシー!!」
「ん、サーシャにエーロか。無事みたいだな」
駆け寄ってきた二人を笑顔で迎える。
「大丈夫だった? 怪我はない?」
「俺の特性知ってんだろ? 問題ないって」
「むしろあなたの性格を知ってるから不安なのよ」
おかしい、なぜ俺は敵を倒してもディスられているのだろうか。
「ま、まあサーシャの援護もありがたかったぜ。あれがなきゃジリ貧だった」
「気にしないでよ。あれは私も偶々気づいたんだから」
サーシャなら絶対気づいてたとしてもおかしくないんだけどな……そうか偶々か……
……たまたま……
「戦い終わってからも変なこと考えるんじゃ無いわよバカアキラ!!」
「グペッ!?」
脇腹へのブロー……内臓に効いたぜ……。
「い、いや、違うんだサーシャ。戦い終わったから逆に変なこと考えるのであって」
「言い訳無用!! 変態には鉄槌を下すわ!!」
ちょ、サーシャさん!? いくら回復すると言っても痛みは感じるのであって、だからその右手に持った物理的な鉄槌を……ぐへっ!?
◆◇◆
何故サーシャにやられたタンコブは治らないのだろうか。永遠の謎である。俺の予想としてはギャグ補正がついているんじゃないかと思うが、真相は闇のままだ。
タンコブのできた頭を撫でながら、サーシャと意見を交わす。
「ってことはあいつ、初代魔王を召喚しようと?」
「召喚できたのは魔力だけだったみたいだけどね。四百年前と全く同じ魔力だったわ」
「なるほどな、あいつがしきりに魔王魔王言ってた理由がわかったぜ」
エーロを憑代にするってのはそういうことだったか……連中も面倒なことを考える。そういうとこ昔っから変わってないな。
「もう一回潰さなあかんか? でもなぁ、それやると今の勇者達の役割が無くなるし……ていうか俺が勝てるかわからんし」
「その強さで何言ってんのよあんた……それに現勇者の事試してたんじゃないの?」
「あ、そうだったわ。すっかり忘れてた」
ちょっとこっちの方がインパクト強すぎて……な?
「はあ……一方的に勝負させられた挙句、存在を忘れ去られるその子達に同情するわ」
「いや一方的ってのはサーシャにも当てはまるような」
「何か言ったかしら?」
すいません何も言ってませんだからその鉄槌を仕舞って下さい。
「あーっと、そうだエーロ! 怪我はないか? 何もされてないか? 大丈夫だよな?」
サーシャの追撃から逃れる為にエーロへと話を振る。こうしてしまえばサーシャは手出しできまい! はっはっは!
「……あとで覚えてなさいよ?」
どうやら猶予を貰えただけみたいです。
「えっと、その……」
「ん? どうした? まさかあいつロリコンだったのか!?」
絶対にゆるさねぇ!! 魔王ゥー!!
はいはい我のせい我のせい(魔王)
「ち、違うの!! ただ、その……」
「ん?」
「……か、顔が近いの……」
……おっと、確かに目と鼻の先とかいう次元を超えて鼻と鼻がくっついていたな。これが夢の国のネズミだったらキスだったわ。
「あ、わりぃなエーロ。つい」
「……」
顔を真っ赤にして黙り込むエーロ。いったいどうしたっていうんだ? 風邪か?
「……はあ、まーた悪い癖が出たわね」
「?」
サーシャにもあきれられるが本気でわからない。何これ? いじめなの?
「エーロ、もしかしたら風邪なのか? だったら早く帰らないと……」
ぴと、とエーロの額に手を当てる。その瞬間、ジュッと音を立ててエーロの顔が赤くなった。
「うわっ!! あつっ!?」
「ええい、いいからエーロから離れなさい!!」
強引に引きはがされる俺。なんだよ、今回はセクハラなんてしてないぞ? 普段の行いからしてアレだとは自覚してるけど、まだロリには目覚めてないって。きっと。たぶん。メイビー。
「い・い・か・ら!!」
「な、なんだってんだよチクショー!!」
さっきまで戦場だった廃村は、一気に混沌と化した。むしろ戦っていた時よりひどいかもしれない。
この後、エルナを筆頭としたエルフの援軍が来るのだが、この状況を見た彼らが加わってさらに混沌に陥るのは別のお話。
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