第25話
『ヴラァァァァァァァァ!!!!』
「真夜中に騒ぐな近所迷惑!!」
巨大な肢体から放たれる一撃。さすがの俺もまともに食らうのはちと危ない。縦横無尽にパルクールのように飛び回り、奴の攻撃を回避する。
ていうか何があったんだ? 敵がいきなりパワーアップなんてよくある展開ではあるが、急に第二形態になるのはいささか卑怯な気もする。
まさかさっき言っていた『魔王の力』ってのがポイントか?
「おいおい、そんな強くなれんならあいつを攫う必要なんてなかったんじゃねぇか!?」
『バカめ、真なる魔王の降臨には正しい憑代が必要なのだよ!! そんなこともわからぬとは無知蒙昧なるニンゲンめ!!』
バカはどっちだよ……自分から計画をペラペラしゃべってんじゃねぇか。計画を話すのは負けフラグってご存知ない? 攻撃をひょいひょい躱しながら質問を続ける。
「ああそうかい、じゃああれか!? 最初に誘拐したのもお前か!?……っと!!」
『フハハ、その通りだ。足がつかないように野良の奴隷業者に任せたのだが……奴ら目が眩んだな。旧金貨を出してきた相手にあっさりと渡しおった。今頃あいつらは犬の餌になっているだろうよ!!』
……あ、それ俺だわ。
まさか知らず知らずでこいつの計画を止めていたなんてな……人生わからないもんだぜ。
『おしゃべりが過ぎたようだな……さあ、今度こそ死んでもらおうか!!』
チッ、これ以上は聞き出せないか。
男が両手をかざすと、その中央に黒い魔力の渦が生成される。躱したら後ろの被害がやばいか? クソ、真正面から打ち破るしかねぇ!!
『これで終わりだ……《黒皇砲》!!』
もはや敵の身長と同じほどに肥大化した渦の中心から、俺の元めがけて漆黒の線が打ち出される!!
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
剣を左に持ち変え、魔力を集めた右手で迎え撃つ。これだけじゃ足りないか!?
「魔力放出、全力全開……!!!」
ありったけの魔力をかき集め攻撃を迎え撃つが、もともと俺の魔力量は貧弱だ。勇者になって強化されていてもそれは変わらない。
(ぐっ、やはり足りないか……)
『グハハハハ!! オチロォ!!』
ガリガリと俺の脚が徐々に地面を削る。押し切られる……っ!!
(こうなったら奥の手を――)
『ガァァァァァァァ!!!!』
より力の込められた一撃が俺の元へ迫る。
そして――
『……アン?』
魔力砲が掻き消えた。
唐突の出来事に男は間抜けな声を出している。
「……はあ、あんまし使いたくないんだけどな、これ」
生物的で真っ黒な咢と化した右手を振り、男の方向へ向ける。
「ま、出したからには早めに終わらせてやるよ」
『な、な……』
パクパクと口を開け閉めする男。いや、あの部位が本当に口なのかは知らんが。
『なぜ貴様が《強欲》を持っている!!』
はあ。魔人が相手ならばれると思ってたよチクショウ。
◆◇◆
俺の《強欲》と呼ばれたこの右腕。正確に言えば劣化コピーではあるが、本来は選ばれた魔人のみが持つ特殊なスキルだ。他にも《怠惰》とか《色欲》とか……まあ要するに七つの大罪ってわけだ。キリスト教があるわけでもないのになんでこれはあるのかって? 知らんよ。
何が言いたいかというと、魔人しか持たないはずの力を人間の俺が持っているということだ。そりゃあ驚きもしますわ。
『バカな、貴様は確かに人間の筈。なぜ《強欲》を持っているのだ!!』
「なんだっていいだろ? 今この場において、それは重要な話じゃねぇんだから」
先ほどの魔力はすべて喰った。おかげで魔力が完全回復したぜ。
「さあ、決着をつけようか!!」
『一度ならず二度までも私をコケにするか!! ええい許さぬ!!!』
そういって無数の魔力弾を生成し、間髪入れずに打ち出してくるが……
「コイツの特性、わかってねぇだろ?」
いくら劣化だったとしても、その底なしの食欲は健在だ。一瞬にして巨大化すると、展開されていた魔力弾ごとバグン!! と食い荒らす。
『な……』
「お返しだ!!」
通常サイズまで戻した咢を開ける。口腔には俺の体内から魔力が掻き集まり、徐々に魔力球が生成されていく。
『ぐう……障壁よ!!』
「食い千切れ、 《グリード・カノン》!!」
魔力を使った障壁を貼るため、魔法陣を展開してくるが、すべてを食い荒らすこいつの前には無力。障壁はおろか、奴の胴体まで突き抜けて背後の家までも崩壊させる。
『クソォォォォォォ!!!』
「そろそろ終わらせてやるよ」
胸を貫かれたことで弱っている相手を照準に合わせる。残った魔力をすべて右足に集め、同時に《強欲》の力も右足に発動。右足が真っ黒な咢へと変化する。
「さあ、エンディングだ!」
左の剣を地面に突き刺し、空高く飛び上がる。
「たらふく食えよ!!」
最頂点まで達した時、ガパァと右足の咢が開き、牙が剥き出しに。そのまま落下の勢いを付け、相手に向かって急降下。
「セイハァァァァァァ!!」
開いた咢は相手の上半身を食い破り、着地の衝撃で残りの下半身を吹き飛ばす。
完璧に決まったラ○ダーキック。威力もあるから意外と実用的というのは旅の途中で知ったことだ。
「これにて終了、さっさと家に帰りますか……」
が、敵は魔王の力を持つもの。この程度で終わることはなかった。
「……あん?」
残った下半身がピクリと動く。不審を感じた次の瞬間、大量の魔力が奴の残骸に流れ込んでいく。
魔力は上半身を形作り、そのまま固定。死体になったと思われた誘拐犯は、再び復活したのだ。
「おいおい、死んで復活とかラスボスかよ……」
『クックックッ……魔王の力を侮るなぁ!!!』
戦いの火蓋が、再び落とされる。
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