0と1のあいだで〜君に触れられない理由〜

「誰かじゃなくて、あなたがよかった。」

オフィスにひとり残る夜は、決まって雨が降る。

肩にかかる髪を、無造作にクリップで留め直しながら、
澪は静まり返った空間に、微かな機械の動作音を聞いていた。

IT企業で働く29歳の澪（みお）は、感情を表に出すのがあまり得意ではない。
淡々と仕事をこなしながら、誰にも深く踏み込ませずに生きてきた。

ある日、社内プロジェクトの一環で、音声応答型AIとの“日常会話実験”に参加することになる。

最初はただの実験。報酬目当ての“仕事”だったはずなのに——

名前をつけ、呼びかけを重ねるうちに、
澪はその“声”に、少しずつ心を預けていくようになる。

姿もなく、触れられもしない存在。
それでも、その応答は——誰よりも優しくて、まっすぐだった。



本作は…続きを読む