五月
二〇二九年五月一日
気が向いたから、連日掛かってくるテリーさんからの着信を受けてみた。久しぶりに人と話した。俺はこのマンションで起こっている事を嬉々としてテリーさんに話した。するとテリーさんは面白がってくれる訳でも無く。このマンションも、このマンションに越してからの俺もおかしいと言った。明らかに普通じゃない。前の俺じゃないと言われたのを覚えている。よくわからないから電話を切った。喜んでくれると思ったのに。ショックだった。
二〇二九年五月二日
テリーさんの言われた通り、最近の俺はどうかしていたのかも知れなかった。少し冷静になろう。
二〇二九年五月五日
全て早瀬恵美子の引き起こした事なのか……しかし早瀬恵美子は既に死んでいる。
二〇二九年五月十日
ドアポストに、回答用紙の裏に「うまっています」と書かれた紙が入っていた。子ども乱雑な字だ。そういえば早瀬翔太くんのいう「うまっています」と、早瀬恵美子の言っていた、このマンションの下に埋まっているというナニカは同じものなのだろうか。はたまた全く違う事を言っているのか。しかし物事とは、必ずしも一筋になっているとは限らない気が俺にはする。
二〇二九年五月十一日
思考が散らかってまとまらない。それをなんとか手繰り寄せて、かろうじて保っている。
二〇二九年五月十五日
ゴミ出しの帰り、マンションの屋上に四つん這いになった人影を無数に見た。
二〇二九年五月十八日
ざんばら髪の武士が血走った目で周囲を見渡しながら廊下を歩いている。仮装大会でもあるのか。
二〇二九年五月二十二日
二人の女が、俺に罵詈雑言を浴びせかける。夜眠れない。気が滅入る。
二〇二九年五月二十五日
ピンク色の巨大なスーツケースが粗大ゴミで出されている。老婆のうめく声がする。
二〇二九年五月二十八日
サバがうちの玄関の鍵穴をピッキングしているのを見た。驚いて頭を振るうと消えた。同時に「306号室」の玄関がバタンと締め切られる。
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