六月
二〇二九年六月一日
毎夜毎夜、女の声に責め苛まれる。酒の量が多くなった。そうしないと眠れない。「甲斐性なし」と囁かれる。
二〇二九年六月三日
河童が両手に持ったきゅうりで乾布摩擦をしている夢を見た。
夢だ。
夢。
ユメ
二〇二九年六月六日
知らない番号から着信がある。表示は「不明」になっている。出てみると「オ国ノ為ニ行ッ参リマス」と一言告げてきられた。その後にベランダの方から物凄い轟音があって飛び出したが、なんの変哲も無い空をしていた。
二〇二九年六月七日
お大理さまを責め立てるように二人のお雛さまが彼を取り囲んでいた。いや夢か。多分。お大理さまは俺のような気がしていた。
二〇二九年六月九日
日記の後半に突然出てくるハコとは何の事だ。
二〇二九年六月十日
台所でお大理さまが首を吊っているのを見た。幻影か。俺もついにおかしくなったのか。足元には酒の空き缶が転がっていて、真っ赤に充血した顔をしていた。さっき吊ったところらしい。
座敷の方から甲高い女の笑い声がした。
二〇二九年六月十二日
家が魚臭い。俺もいよいよおかしくなったのだろうか? 自分は大丈夫と考えていたのに、ミイラ取りがミイラになるとはこの事か。
二〇二九年六月十五日
にんげん合格シールをもらった。馬鹿げている……が、少し嬉しい。
二〇二九年六月十九日
全てやったのは……早瀬恵美子……なのか?
ともすればこのマンションの背景にある事件とは……
まだ何か、残している気がする。
駄目だ。
もうこれ位以上は思考できそうもない。ここまでの文章も、一日がかりで取り組んでようやくと書き上げた。
こうして少しずつ文章にして書き足していけば、なんとか考えている事を一つにまとめておける。だから俺はこうしてノートに――
ノート……のーと……どうしてつけているんだったか……?
二〇二九年六月二十日
昨日は少し疲れ過ぎていて、失念していたらしい。俺がノートをつけるようになったのは、この曰く付きマンションの謎を追うためだ。
笑える。本当におかしくなってしまったみたいに思えるじゃないか。
二〇二九年六月二十三日
買ってきた焼酎のラベルがどうしても気になって、ペットボトルから剥がしてみると、下に「毒少々」と書かれたラベルが貼られているのに気付いた。それでも飲むしかない。逃げ道はそこにしかない。
二〇二九年六月二十四日
翔太とすずには申し訳ない事をした。
二〇二九年六月二十五日
昨日の日記は俺が書いたのか?
二〇二九年六月二十七日
気付けば台所に椅子を運び込んで、そこに立ち尽くしていた。何をしようとしたのか。
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