10ガつ


   2−025年10ー1(ムーン)


 真っ白い能面のような顔をした立派な着物の男が、凝り固まった薄笑いの表情を僅かにも動かさずに、玄関の前ぶら下がっている。おだいりさま?


   二〇二五年十月2日(ひ)


 熟れた果実が落ちて来るみたいに、屋上から首が沢山落ちて来る。


   二〇二五年10月三日(水)


 昼過ぎ、ぐつぐつと沸騰した鍋の前に立ち尽くしていた。鍋には何も入っていない。僕が鍋を火に掛けた様だ。いつもの通りに朝方起きて小さなパンを食べた事までは覚えている。


   二〇二五年十月四日(木)


 着物を着た白猫がベランダの柵を渡って行った。


   二〇二五年十月五日(金)


 スーパーがサバに占拠されていて、陳列棚一面にサバしか置いてない。生臭い。


   二〇二五年十月むいか(鯖)


 久方ぶりに店長の姿を見た。ブリーフ一枚で首輪に繋がれていて、黒い人影に連れられていた。声を掛けたら泣きながら助けを求められた。訳も分からずたじろいでいると、物言わぬ黒い人影に犬のように引きずられていった。


   二〇二五年十月七日(日)


 今日は何もない。家から線香のにおいがするくらい。


   二〇二五年十月八日日(月)


「303号室」から誰かを罵る声がする。


   二〇二五年十月九日(火) 


 ここのところ静かだったが、廊下を歩いている時に「はやくきなさい」と耳元で囁かれた。振り返るも誰もいない。


   二〇二五年十月十一日(木)


 昨日の記憶がない。日付が一日飛んだ日記で気が付いた。


   二〇二五年十月じゅうににち(きん)


 一階に救急車が停まっていた。大家が担架に乗せられて運び込まれていくのを見た。どうしたのだろう。


   二〇二五年十月十三日(ど)


 壁に人の顔面に手足の付いた様なのが何十匹も這っている。どれも知っている顔ばかり。その中に畑中さんの顔があった。挨拶すると「よ〜」と言ってくれた。けれどなんだか臭いにおいがする。顔が真ん中で割れて、羽を広げて飛び去っていった。


   二〇二五年十月十四日(日)


 店長から暑中見舞いのハガキが届いた。今は夏ではない。今は地下で大きな歯車を回す仕事をしているらしい。強制労働という奴らしい。気の毒だった。


   二〇二五年十月十五日(月)


 河童がサバをダーツのようにしてマンションの壁に突き刺しているのを見た。


   二〇二五年十月十六日(火)


「うちくびにそうろう〜これにてごめん」「うちくびにそうろう〜これにてごめん」「うちくびにそうろう〜これにてごめん」と外から聞こえて来る。どう言う意味か僕にはわからない。

 

   二〇二五年十月じじじじじゅ日(しゅ)

チリりりんチリリリリリりんはい竹中青果です。ああ、織部さんね、ああはいはいご贔屓にどうも。はいはいはい詰め合わせの。ああ、なに入院されてるの? ああ本当、知らなんだそれは。ああーそりゃあ難儀なことで、ああはいはいはい。梨多めと。あーーそれと今度うちに寄ってくれんかな仏間んところに黒いのが来とるで、はいはい。ええ確かに。ええ、はい。気色悪いで。


   二〇二五年十月十七日(木)


 昨日の日記は僕が付けたのだろうか? そうに違いないのだが、覚えがない。筆跡も僕のと違う。

 

   二〇二五年十月中うううウウウハッ(きん)


 今日はマンションが賑やかだ。黒い人影が向かいのマンションにまで溢れかえっている。


   二〇二五年十月十九日(土)


 河童と遊んだ。ここは河童の国だ。僕は二十三号だ。さびしいことはない。


   二〇二五年十月ニジュ


「たすけてくださいうまっています」と繰り返す自分の寝言で目を覚ます。


   二〇二五年十月21(月)


 ゴミを捨てに行くと四階からゴミ袋落ちてくる破れた袋ニハ位牌がイッパイ。   イッパイ


   二〇二五年十月2200日(火星人)


 目が黒い。黒くなってくる。白目は赤い。アカクナアッテいル。


   202877あ02222333


 おひなさまと官女が微動だに表情を動かさずに口だけで「吊れ」「お前なんか」「甲斐性なし」「何が土地持ちだ」「酒に逃げて」「恥ずかしくないのか」「生きていて申し訳なくないのか」と嫌な言葉を繰り返すので、耳を塞いだ。


   二〇二五年十月二十四日(木)


 最近の僕はどうしたんだろう。日記を読み返してみても何かおかしい。


   二〇二五年十月二十五日(金)


 気付けば屋上のヘリに立っている。眼下に見えている広場で着物の少女がくるくる回っている。


   二〇二五年十月26((((ど」


 顔が顔をくっている。気分がわるい


   ニンゲンゴウカク

ニンゲンゴウカクニンゲンゴウカク

 ニンゲンダイスキニンゲンダイスキニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ ニンゲンダイスキニンゲンダイスキ  


   2025ねええええ28げつ


 気付くと煮えた鍋に腕を差し込みそうになっていた。おたまだと思ってかき混ぜようとしていた。指先を少し火傷してしまった。


 二〇二五年十月二十九日(火)


 ベランダに大勢立っている。屋上からもたくさんみおろしている。

 

   二〇二五年十月三十日(水)


シネ


   二〇二五年十月三十一日


 記憶がある時間のほうがみじか  



二〇二五年十月三十二日

入ってく ーーウウーウウーーー……

 

ハコ

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