十一月
二〇二八年十一月一日
どうして河童なのだろう?
二〇二八年十一月四日
久しく忘れていた「怪談サークル」に何ヶ月かぶりに参加した。怪談師として研鑽を積むためにあんなマンションを調査していたと言うのに、それを忘れているのでは本末転倒だ。公民館の一室で、久しい顔ぶれと車座になって怪談を語り合った。俺は当然今調査しているマンションの話をしたのだが、人前で怪談をするのが久々だからか、単純にスキルが落ちているのか、終始奇妙な顔をして全員が俺の話に耳を傾けていた。
怪談会終わりの飲み会で、会話の要領を得ないと言われた。ムッとしてしまった。最近職場でも、記録がヘンだとか報告する前に情報をまとめてから来いだとか言われる事が多い。
飲み会が終わる頃に、怪談会の最古参メンバーの「テリーさん」に呼び止められて「そのマンションはすぐに出た方がいい」と言われた。
こんなに楽しい所を出られる訳がない。怪談師ならそんな事わかる筈だ。俺が羨ましくて嫉妬しているのかも知れないと思った。
二〇二八年十一月十七日
有給を使い切ってしまった。職場から欠勤になると言われた。別にそれでいい。このマンションの真実が知れるなら。守るものもない。好きな事をする。
二〇二八年十一月十八日
なぜサバなのか……。
二〇二八年十一月十九日
早瀬翔太くん……? 廊下の先に青いTシャツ姿の少年の後ろ姿を見る。岡井の言っていた通りに確かにこのマンションは曰くつきだ。すごい、こんな事があるなんて。
二〇二八年十一月二十日
早瀬恵美子が繰り返していた「わたしのこじゃないんです」とは何の事だろう。どうして早瀬翔太くんに冷たくあたっていたのだろう。
二〇二八年十一月二十一日
向かいの団地に人が立っている。暗い室内の一室に、天井に頭が着く程に巨大なナニカが真っ直ぐ立っている。マネキンだろう。
二〇二八年十一月二十二日
日記に出てくる「
二〇二八年十一月二十八日
屋上に立ち尽くす人影を見た気がする……目を擦ると消えてしまったので、気のせいか。背の低いのと高いの、二人いた気がする。
二〇二八年十一月三十日
夜コンビニでタバコを買った帰りに三階の廊下を歩いていると、突如として廊下の蛍光灯が消えて周囲が暗黒に包まれてしまった。近くに外灯もなければ月明かりもない夜だったので、手を前方へと突き出しながら探り探りと歩かなければならなかった。墨汁を浴びたかの様な暗闇だった。玄関先に置かれた洗濯機に幾度かつま先をぶつけたり、天井の隅にかかった蜘蛛の巣にぶつかりながらも、なんとか軌道修正を繰り返して自分の部屋の「304号室」を目指した。しかし廊下はこんなに長かっただろうか? 五十メートルもない廊下であった筈なのだが、自分の不安がそうさせているのか。五分ほど歩き続けても自宅へと辿り着かない。次第に息が切れてきて、けれども深い闇に視界は慣れないでいる。途中、何人かの人間と勢い良く肩をぶつけた。他の住人たちもこのマンションを彷徨っているのかも知れない。「すみません」とその都度侘びながら、ヒイヒイ言って歩いていると、突然電気が灯った。俺は三回の廊下を十メートルも進んでいなかった。
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