五月
二〇二五年五月一日(木)
押入れから老婆の声がする。先日のピンク色のスーツケースからしている。
二〇二五年五月二日(金)
寝室で寝ていると風が吹き抜ける音がする。ベッドの下を覗き込むと、シミが無くなって巨大な風穴が空いていた。
二〇二五年五月三日(土)
パラパラと音がするのでベランダに出てみると、空からひな人形が降って来ていた。地面に落ちると溶けてなくなる。
二〇二五年五月四日(日)
最近変だと店長に言われる。確かに少し記憶が途切れていることもある。
二〇二五年五月五日(月)
今日はこどもの日らしい。一日中ひなまつりの歌が外から聞こえてくる。それにしても「早瀬翔太くん」の事を「101号室」の大家さんはどうして知らんぷりするのだろう。自分の息子なのに。
二〇二五年五月六日(火)
三階の階段の踊り場にまた子供の字で落書きがある。
「死んだらしんけいなくなる
死ぬことはめでたいこと
死亡ごあり
死亡ごあり
一番カッコいい
死んだあと
一番カッコいい
死んだあと」
やっぱりわからない。
二〇二五年五月七日(水)
ベランダに干していた僕のTシャツが無くなって干し柿が吊るされている。
二〇二五年五月八日(木)
ゴミ捨て場に猫が何十匹も待ち伏せている。今日は『魚の首』の日だ。
二〇二五年五月九日(金)
「グズ」「恥ずかしくないのか」「金持ちだと思ったからアンタと結婚したのに」「首を吊れ」という声で目を覚ました。女の声だった。布団からからそっと覗いてみると、黒い影が二つ、台所の方を向いて立っている。
二〇二五年五月十日(土)
この前のことがあるので「101号室」の大家とは気まずいと思い、自分で屋上の給水タンクを見に行った。タピオカが出て来るから困っているのだ。四階には誰も住んでいる気配がなかった。どうしてかそれぞれの家の扉の前に花束が置かれている。屋上に出る扉には鍵がかかっていた。
二〇二五年五月十一日(日)
上の階から足音がする。大勢いる。
二〇二五年五月じゅうに日(月)
気が向いたのでスーパーでビールを一缶買って冷蔵庫に入れておいた。風呂に入った後に飲んでみようと思って居間へと移ると、キッチンの方で「プハァ」と聞こえた。プルタブの上げられたビールが空っぽになっている。
二〇二五年五月十三日(火)
日記を書くのが面倒になってきた。
二〇二五年五月じゅうょんにち(水))
店長に病院に行った方がいいと言われる。僕は二十三号じゃない。少し怒れた。
二〇二五年五月15日(月)
水道からタピオカと髪の毛の入り混じったものが出る。屋上の給水タンクはどうなっているんだろう。明日もう一度行ってみる。
千八十五年五月五月()
屋上への扉が開いている。屋上には初めて来たが、アスファルトの隙間から草が生え出していた。白い給水タンクには黒いクレヨンで落書きがあった。
「死亡ごスタート
死亡ごスタート 人
死亡ごスタート 間
人間大好き 死
人間大好き ん
人間って だ
人間といきさき あ
死亡ごスタート と
人間には行き先があるのです」
落書きをじっくりと眺めていると、四十人ほどの黒い人影に囲まれそうになったので、急いで屋上を降りた。
2025ねん五月三十八日(木)
今日は『使えないヒト』の日だ。ゴミ捨て場にはぎゅうぎゅうに老婆が詰められていた。バスの待合所みたいになっている。一人グレーのスーツを着た男の人も混ざっていて、気の毒だった。僕も捨てられないようにがんばらないといけない。
二〇二五年ごがつ30日(金金金金)
今日は『にんぎょう』の日の筈だが、ゴミ捨て場に浦部さんが捨てられていた。挨拶したが無視された。
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