第44話 この絆は遠く離れる事になっても
「だから、『友達』でならいいよ……会う頻度も減らしてもらって」
「もしっ!……もし拒むなら―――……友達にもならないからっ!」
そこで以前
案の定それは奏功した。記憶が欠落しても
共に見るアニメは
そこで
その作品は『S月は君の嘘』。感動泣きアニメランキングで常に上位を争う傑作の一つ。二人で涙を拭い合った思い出の作品。
不遇のヒロインがどんなに厳しい状況に陥っても、最期の最期まで主人公にこだわり、関わり続けたその物語を再び観る事で、
記憶を飛ばした
『ひぁ~、かをちゃん可愛いね~! それにヴァイオリンの演奏姿がメッチャ格好いい!』
『それに応えられるコーセー君のピアノも凄いよ』
『それにこの演奏の描写、ハンパない!』
『この頃のこの製作会社から過労死が発生したほど、皆頑張ってたらしいよ』
『コーセー君、トラウマに潰されそう……』
『それでもかをちゃんが居るから続いてる』
夢中に画面に釘付けになる
あの頃、こんな風に語らいながら楽しく歓談しつつ見終わった頃には互いに作品のファンに。そして傷心の自分を救ってくれてた姿も脳裏に去来する。
『でも……かをちゃん、何か、病気で可哀そう』
『うん。でもちゃんと一所懸命生きようとしてる』
『えっ、えっ、……まさか、コーセー君、かをちゃんの期待に応えなきゃ!』
『ここはホントに乗り越えて欲しいね』
あの頃のように時間を忘れてイッキ見でクライマックスに突入。
『こんな……美しいラストシーンなんて見たことない……でもそんな! そんな最期なんて……』
『でもね、俺はこの後のシーンが……本当に……もう……』
ラストシーンにぐじゃぐじゃになりながら画面に食い入る二人―――ボリュームを上げる
<<―――後悔を天国に持ち込まないため、好き勝手やりました……好きです!……好きですっ! 好きですっっ! >>
『うくっ……で……でも……こんなの……』
うあぁぁ―――― ……
二人して泣いた。
思いきり泣いた。
そして
―――この子は想いを伝えきった……全力で生きて、爪痕残して……あの人の糧となって……成長して貰えて……それが出来て
これはきっと不幸だったんじゃない……
**
―――
何かと部屋に寄っては友人として接する
これなら……と心地よく会話する
……私はあの人の友達だ。それは肉親ではない事を意味する。だから一生の付き合いでなくとも良い、そう、これは縁故との決別宣言のつもりだった……はずなのに……
友としても続く
昨日も見た氷の悪夢。その氷結範囲は下半身からやがて全身に及んで行く。疑い様のない暗示を感じる
日記にもあった『いずれこの夢は正夢になる』という嘗て綴られた思い。その記憶が今の
……これから遠ざけて行きたい時の『好き』という感情は、切なさ以外何の生産性もないじゃない!
一人、部屋の中。ベッドの上でどんどん息苦しくなってくる。
今日は左腕がもう殆んど動かなくなっていた。
……悲しいよ……泣きたいよ……助けてよ、兄さん、好きだよ……大好きなんだよ、その気持ちだけが消えてくれない……ずっとずっと一緒にいたいのに……
どうして……どうして私ばっかりこんな目に合うの………?
どうして……
……
……
『 ……どうしてなのよ――――っっ!! 』
バシャアッ……
投げつけたプラコップから壁床にバラ撒かれるお茶。嘲笑うかのような軽い音を立ててカラコロ転がっるプラコップ。
う……うぅ……
心では泣いたものの、涙はこぼさなかった。それ以上何も考えられず、瞬きもせず10分以上微動だにしなかった。そして深く、どこまでも深く考えた。
廊下では看病に立ち寄る蘭の姿。
……お姉ちゃん……
ドアレバーに手をかけようとした間際、叫び声を耳にして固まっていた。
気丈に振る舞う姉の本心を知り、余りの遣る瀬無さに声を殺して泣きながら引き返した。
漸く一つの結論に達した
―――分かった。何もかも。あの人がひたすら陰からくれてた無償の愛で私が生きる事が出来た。だからこの人の為に命を捧げられたんだ。
日記は本当だった。その感情は確かに私に蘇った。だったら私が今出来る事、やはりそれは……
彼を自由にさせてあげたい。
泣くなんて許されない。そんな場合じゃない。兄さんが私の世話だけに人生を投げるのを見たくない。もうウンザリだ。そんなの絶対にイヤなんだよ、兄さん!……
そう、これでも無理だった。やっぱり友達にさえさせない。次に話せる時が残り少ないチャンス。早く切らないとこの人を犠牲にしてしまう……
―――もう完全に縁を切るしかないんだ!
いつしか吹っ切れた顔になっていた。
兄さん、別れはいつでも
そうだよ、私の記憶が飛んだのに感情だけが残って繋がりが消えなかった様に……
この絆は遠く離れる事になってもきっとどこかで繋がっていて、それは寂しくても悲しいものではないんだよ。
―――私きっと、いつまでも感謝しているよ。だから今は……ホントゴメンね……
遂に覚悟を決めた
兄の為なら今は幾らでも自分を欺けた。
◆◇◆
落ち込む
永遠園家のリビングに二人、記憶喪失後、初の対面となった。
「澄美怜ちゃん、機会をくれてありがとう。会ってくれないのではと思ってたから……今更のタイミングでごめんなさい。
でもあなたがとても考えこんでしまっていると聞いて、そして
[ ▼挿絵 ]
https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093088729943994
その透き通る様な麗しさ―――少し溜め息をついた
「本当に美しい方なんですね。日記では度々出て来ました。私もちょっとお逢いしてみたかったです」
「……
「本音……」
「そう。だから単刀直入に言うわ……私達は幼い頃から同じ大切なものを求める者同士。
でもあなたにとって彼は今、私より遥かに必要なものな筈。なのに距離を置いて……心に嘘をついている。彼の献身を素直な形で受け止めるべきだと思う」
「……幼い頃の記憶は今はありません。でも確かに今の私にとって彼は諦めかけた私に新しい命を吹き込んでくれた人。こんな体と記憶の私にもの好きにも献身的になってくれる人は今後きっと現れることはないでしょう。
でも日記であなたの事、よく知ってます。だから心に嘘をついているのはあなたも同じなのでは? 兄とあなたは運命の人、そう位置付け合っている」
「確かに今回の決断は私には生半可なものではなかった。彼には本当にたくさんのものをもらった。でもあなたという大切なものがある以上、これ以上求めるのは誰の為にもならない。
それに…… あなたはひとつの命を救った。大袈裟に聴こえるかも知れないけど、彼の存在は私の生存理由。遠くからだって想うことは出来る。でもこの世から消えでもしたらそんな事すら出来なかった。だからあなたは私にとっても恩人なの。
そんなあなたを守り、共に生きて行こうとする彼の決断を、どうか信じて受け入れて欲しい。
そして彼を守ったあなたに彼の人生を任せたいと思う私の願いも」
「ありがとう。私も一度はそんな風に思ったんです。ただ……まだあまり人には話してないんですが……」
僅かに
「……私は人形になる身なんです」
「え……人形?」
「実はこの不随の範囲が拡大していて……近い内に私はきっと植物状態になる。これからは私の在存こそが彼に最悪な呪縛をしてしまう在存なんです」
硬直と共に眉を
―――しかし直後、強い眼差しを向ける。
「……だとしたらあなたが人形の様になった後、彼は自分だけノウノウと幸せになれる人じゃない。あなたがどんなに突き放しても見捨てられない人だって分かるでしょ? どうなってもあなたに寄り添い続けるはず。どちらを選んでも逃げられないのよ」
「じゃあ、どうすればいいんですか?! 私はあの人を不幸にしたくありません! ……それが唯一の願いなんです。だからどうか、どうか見捨てて下さい」
首を横に振る
「
「……あなたの煉獄を分かったなんて言えない。きっと死よりも
でも、あなたを捨てなきゃならない彼の煉獄は、きっとあなたと同等以上なはず。あなた以上に苦しみ、自分を呪う事になると思う」
―――多分そうだ……かつてちょっと遠ざけただけでどれほど落ち込んだか、日記に有った……やはり誰より兄を知ってる人だ……
「でも…」
「だから
お願いだからこれ以上遠ざけようとしないで。そんな事をしたら彼は自分を責めて……責め抜いて……きっと死んでしまう……
だってあの人は言わないけど私には分かるの……彼にも生来の闇があるって事……その為にどれだけ私達を大切にしてきたか……」
……あの人にも……闇がある……?
そんな風に考えた事も無かった
< continue to next time >
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます