第3話 ライバルと自分の中の闇
翌朝。
「今日は何分に出る? 一緒に行くからね。お兄ちゃんに付いて来てもらう様になってから、あのストーカーっぽい男の子現れなくなってホント助かる」
「それは良かった」
「面倒かけてゴメンね、お兄ちゃん、これからもしばらくお願いね」
お兄ちゃんはとっても優しくて、性格は少し控え目、かつ慎重派タイプ。その上、体を 鍛えるのが趣味だから力持ちで細マッチョ、イザという時はとても頼りになる人。
そして私だけが抱える『ある特殊な事情』……にもなくてはならない人。
元々大好きだったけど最近は別な意味で好きになってきて……自分でもちょっとどうして良いか困っている。
こんな私の『特別』であるお兄ちゃんは、普段はちょっと落ち着いてクールっぽいんだけど実はテレ屋さん。私が可愛く接すると、とってもタジタジしてくれるのがギャップ萌えしちゃう。
もはや相思相萌えのこの関係をずっとず―っと維持して行きたいと思ってる今日この頃。
さあ、今日もお兄ちゃんと一緒に登校。フフフ順調順調。これで妹道をさらに極めて行けるのデス!
『
……それは自分に課した『あるべき妹』の高みへと至る道。そしてお兄ちゃんを完全に自分色に染めること。
その① あらゆる妹の良さを刷り込み、妹至上主義にする。
→ マンガ・アニメ・ラノベなどをツールに常に妹へ意識を向かせる
その② 兄の快活を何よりも願う兄最優先主義
→ 振り向いて貰うだけでなく、兄へも見返りを求めない愛をそそぐ。
その③ こうして醸成された兄フェロモンをしっかり回収 (嗅ぎ癖は隠しつつ)
→ 最高の絆で生まれた良質な兄フェロモンを受け取る事こそエネルギー源
この好循環こそが大事! 照れ隠しで反発、というのが王道の妹属性は、ある意味で妹のあるべき姿。でも『兄愛』を追求する私には仲良くする時間が僅かでも減る事さえ許せない。
どんなラノべ・アニメ妹でさえもこの点で妹道をいまだに極めたとは言えないかと。私はこの偉業を成し遂げて『真の妹伝説』を作ってみせる!! ……なんちゃって……。
―――あ、お姉ちゃん、また何か変なこと考えてるな……
歯磨きしながら姉ウォッチャー・末っ子の蘭が正に的確かつ冷静に分析しているのもいつもの光景だ。
「お父さん、お母さん、行ってきま~す! じゃ、お兄ちゃん、一緒に行こっ。それと、あんまり
**
仲良く玄関ポーチを出て来る二人。家の角、それを待ち構えるツインテールの人影。
「まぁだ一緒に登校するつもりなんだ~」
イヤミの先制攻撃を喰らう
やっぱり今日も来たか……
そう、あれは私達の平和を揺るがす約2年前の事件から。私達がこよなく愛する隣家の幼馴染みで超美人のお姉さん、
この別れがこんなにも運命を変えて行こうとは……。
早速訪れた変化、私が中1に進学、お兄ちゃんが中2を迎えた春にその人はやって来た。
一人娘のその子は兄と同級で同じ学校に編入してくるという。
「こんにちは。初めまして、
長い髪をツインテールにした、やや丸顔のロリ系で可愛いらしい童顔。3才年下の我が家の末っ子・蘭と並べば流石に上に見えるけど、1つ下の私より年下に見えると思う。
大きな瞳と華のある雰囲気、そしてフリルブラウスにスイートなレイヤードスカー卜を着て、女の子らしさをアピールしている。
「九州から来て不慣れなので、色々ご一緒させてもらって良いですか?」
と母親同士で話しているその横で、一緒に挨拶している兄に対してこの童顔に似合う『くりっ』とした瞳が輝いたのを
当初は近い年代でオタク趣味の女子同士という事もあり、早速打ち解けた薊と
始めは引越前の九州での事や色々な身の周りの事を話していたが、聞かれるまま永遠園家の話をしていくうち、いつの間に
二人での楽しい登校。しかし半年、一年と経ち、足並みは少しずつズレて行った。
何?……幼なじみの
でもこの薊という子の登場でそれが恋愛感情の様なものが大部分だって……改めて気付かされてしまった……。
こうして現在、
中学時代から意外と気が合う二人は校内でもいつも一緒。となればいつ告白してしまうか、薊の好意を知る
ストーカーの件は嘘ではないがほぼ建前で、登校は二人にさせないためでもある。三人いつも一緒だ。
「ちょっとスミレ、今、私が話してた所だったんだけど」
「私が先でしたよね。それにその話、さっきもしてましたけど!」
両手に花か爆弾か。即、交通整理に乗り出す
「はい、じゃあ年上から順番によろしくね」
対処は早いほど良い、という事を学習している。
歩を進めつつ、
う~、しっかし妹という存在は普段近くにいられるという点では圧倒的アドバンテージな筈だけど、将来を思うと絶望的に不利。
ましてやライバルもお隣さんだし校内でも一緒。それだと妹のアドバンテージなんか生かせないよ……
自我が目覚めるほどに独占欲が育ってく。昔はお兄ちゃんを自慢出来れば自分も鼻が高くなって、むしろ少しでも多くの人に共有して欲しかったのに……今じゃ逆。
―――それは獲るか獲られるかという残酷な世界。
だが誰かを好きになってしまったその想いに気付いてしまえば、それが壊れてしまう迄は気持ちの電池にエネルギ―が充電され続け、否応なく勝手に動き回ってしまう。心も体も落ち着くことを知らずに。
「でね―、昨日公会堂に行ったらさ~、意外と可愛いオリキャラが居てね……」
足取りの軽い薊は相変わらず持ち前のトークで
……きっと
はぁ……なんかなぁ……んっ! もしお兄ちゃんが誰かの恋人になっても、ずっと私を一番に思ってくれたならそれで良いじゃない!
……ってそんなのあり得ないか。
私ってホント、しょーもないな。こんなんじゃ今晩はマズイかも。もっと楽しいこと考えて早く寝る様にしよう。
さもないと、私はあれに命を奪われる……
―――そう、私は自分の中の闇の発動を恐れている。
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