第15話 心からの愛しさを込めて
異様に引きずっていた
『そんなに
―――急に誰かの物になってしまう不安。
今思えば子供心には一心同体のような感覚だった姉同然の
今、目の前のライバルは全くの他人である
相変わらずの童顔で妹キャラではあるが、最近では一皮剥けた女の子らしさに磨きがかかっている。
先日、校内での二人を見かけた時、
その夜。
……ああ、女の子はこんなに眩しくなれるんだ。何もしなければもう時間の問題。必ず近いうちに薊さんは決断するだろう。そういう人だって事、良く知ってる……
そんな風にキリキリしながら寝床で悶える。いくら目を瞑っていても眠れる訳がない。
このままではまた自分は…… あの人から遠ざけられた時、私の存在理由は……
兄との『あの日の約束』を思い出すと、少し目眩を感じた。
兄さんが私をどうでも良く思う様になった時、消えるつもりで生きて来た。でも約束を守り続けてくれたあの人が……とてつもなく愛おしい事に気付いてしまった……
マズイよ、こんなにストレス溜めてたら……それで何度も迷惑掛けた。その昔、パニックの痙攣が収まらくなった事もあった。息が吸えなくなって死にかけた。でも自分だけならまだマシ。
小6の時、闇落ちして『恨みの破壊衝動』が出て、学習用のイスを振り回して部屋の壁を穴だらけにした。何も解らなくなって暴れ狂う私をお母さんが抑え込もうとして大ケガ……
学校の帰りが遅くなってた兄さんがギリギリの所で戻って何とか鎮めてもらった……。
そんな自分がこの世で一番嫌いだ―――
今日はもう頼らないと無理、とフラフラいつもの手順で兄の部屋へ。布団に潜る余裕もなく眠っている兄の布団の上に静かにうつ伏せて、苦しそうに呟く。
「ごめん、兄さん」
呼称が『お兄ちゃん』 ではない。深刻さに気づく
「……何処にも行かないで……」
絞る様なひそめた声で懇願する
空いた手で妹の頭を撫でながら優しくポン、ポン、ポンと
「大丈夫だよ。ずっとここに居るよ」
「……」
―――嘘。きっと、そうでなくなる。約束は裏切られる。
「もう……やだよ」
こんな弱音をストレートに吐くのは珍しい。急に心配が増大して一気に頭が覚醒した。
「何かあった? またあの夢を?……」
声もなく微かに首を横に振る
……ううん。今回は違う。自分を悩ませ続けるあれじゃない。なのに頼ってしまった。
あの氷の悪夢以外でこんなに頼ったのは初めてかも知れない。そんなに追い込まれていたんだ。恋って恐ろしい。もっと淡く軽く思えた頃に戻れたらどんなに楽だろう……
「ねえ……ちょっとでもいいから……ハグしてもらっても良い?」
泣きそうな声で懇願する。そう言いながらおそるおそる布団の中に入る。拒まれたらどうしよう、等と怯えながら。
だが深刻さを察する
―――
それはその慈愛の心を祈る様に強く向けると
手を繋いだりして触れていると更に効力が上がる。
その様にして癒やしを受け取ると、溜め息と共に落ちついて来る妹の様子。それを胸の中で見届ける
しかしこの日はちょっとした思いつきでその細い肩をギュッと強く抱き締めてみた。
「はぅっ……く、る……しい……、っはあ、はあ……ふふ、も~強すぎ! お兄ちゃん」
何時もの呼称に戻った。こんな時はただ優しくしてくれる、と想像していた
そもそもこんなに強く抱き締められた事など生まれて初めてだったから、もう何かたまらなく嬉しくなって舞い上がってしまった。
それなら! と、兄の脇から腕を回す
不意をつかれ「はぐぅっっ……」となった
「クス。今、マジ息止まった」
でしょ? と得意げの
「ふふ。参った?」
「いや、余裕」
「嘘~。さっき苦しい声でてたし」
「え? クスッ。ちょっとな。でも………案外気持ち良かった」
「うん、私も。 ……じゃあ、もう一度、今度は一緒にしようよ」
「えー、澄美怜のエッチ」
「ヒドイ、お兄っ! もぉ
「う・そ。じゃあ、1回だけ」
「うん。……ありがと」
溢れんばかりの想いを胸に再び
そして二人は強く抱き締め合った。
―――私、今この瞬間だけは、どんなに親しい人よりもこの人に一番近い存在なんだ……たとえ恋人と認めてくれなくたって……今は幸せだ……
その至福に浸る。そして強く抱き締め合えて確信した。"氷の夢" を見てないのに苦しくなってここに来てしまった訳を。
勿論、『癒やしの力』で最悪の事態を未然に防ぐのが目的だった。
『私はこの人をずっと慕って来て……失ったら消えたくなる程に……好きだったんだ……』
そう思えた刹那、この抱擁した感触を絶対に忘れたくない、と全神経を集中してその感覚を体に刻みつけた。
―――生涯の記憶に、そして生きた証とする為に
「
「もう少し。―――1回は1回」
勿体なくて思いきり兄に甘える。一瞬、
もし仮に、今も兄の最愛だったとしても、遠く離れていたらこの幸せに触れる事さえ出来ない。 それなら自分はまだマシなのかも知れない……
そんな風に考えている内にすっかり落ち着きを取り戻せた。
ああ、私ってなんてチョロイのだろう―――でも仕方ない。最愛の人の力一杯のハグなのだから。そんなの誰だって。
その充足感と共に、ようやく兄を解放してあげた。
その日はそのまま手をつないで寝た。 そうしている限りは得られる癒しの力を受け取りながら。有り得ぬ程の安堵感に包まれて深く深く沈んでいく様に。
それでも家族に気付かれてはならない、と、例によって早目に目覚める
陶然とそれを見つめる。ただこみ上げてくる熱い想い。
そうしていつもの様に未明に部屋を去る間際、気付かれぬ様にその頬に微かに唇を触れさせた。
心からの愛しさを込めて。
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