第12話 澄美怜と薊の過去 ~蜜月時代



 ……なのに最近は自分の事で不安定だ。あの力で助けてもらってばかり。それもこれも薊さんと上手くいかなくなったから。


 薊さんは百合愛さんと違って、気兼ねなく何でも言える人だったからこそこうなった。きっと言いたいこと言っちゃうんだ。


 でもそれって甘え?……本当はあんなに仲良かったのに。そう、あの頃……




  : + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜゜ +


        +: 。 .。: + ゜ ゜゜ +:。. 。.


  



「と、言うわけで私的に好きなシーンはこれとこれで、とにかくここでのお兄さんの活躍が最強なんだよね-。どう思う?」


「うんうん、私も~。妹も必死に『お兄様』を助けに行って、ホント健気ですよね」


 あざみの部屋でオタク話に花が咲く。薊が中2、澄美怜すみれが中1の仲の良かった頃の事。


「あ、今度続編が作られるって発表があったの知ってる? 今から楽しみで」


 好きなアニメの話しに興じつつ、やがて恋の話へと。


「ねえ、スミレちゃんのクラスとかに好きな人とかいる?」


「え? うちの男子? ちょっとなんていうかまるで小学生ぽいって言うか……う~ん、そう言う風に見れる人はいないかなー」


「ふーん、そうなんだ。うちのクラスもほとんどそんな感じだけど例外もいて……ねぇ、お兄さん、付き合ってる人とかいるのかな?」


「えっ、あ……ああ、今はいないかな。只、運命の人なら居たんですけど」


「えっ?!  な、何それっ?……」


「ここに住んでた同級生。百合愛ゆりあさんって言う妖精みたいな人。それはそれはお互い好き合ってて。何か大人の人同士みたいに。でもご家族の仕事の都合でアメリカに行ってしまって、そのせいでお兄ちゃんは家にいるとずっと塞ぎ込んでしまう様になって……」


「……そうなんだ。…… 早く傷が癒えるといいね」


「うん。今、色々元気付けようと妹の蘭ちゃんと試行錯誤でやってるんだけど、表向きは爽やかに『ありがと』って何やっても感謝してくれるけど、ふと気づくと遠い目になってて実は上の空なのが分かっちゃうから多分しばらくは誰とも付き合えない気がする」


「……そっか。じゃあ、友達からお近づきになろうかな?」


「え、既にあんなに親しげじゃないですか。……てまさか、薊さん、お兄ちゃんの事……」


「ああ、あんまり気にしないで。もうちょっと仲良くなれたらそれでいいんだ」


―――薊さんてお兄ちゃんの好みのタイプとは違うから、まさか……ね


「じゃあ、せめて友達としても相性悪いんじゃ良くないから、ここは占いでもしてみようか。じゃーん、タロット占いアプリ」


「そんなのあるんですか」


「まあ、遊び半分ね。けど友達が、凄く当たるって」


「えっ興味ありますっ」


「ではでは。 え……と、 ん? 心を落ち着けて気持ちが定まるまでシャッフルボタンをタップ、だって。カンタン過ぎ~」


「ほー」


「トン、トン、トン、トン、もひとつトンって。はい、結果発表……えーと、『あなたを取り巻く今――― あなたは今、恋を待つ入口に立っています。このカードは、今はまだじっくりと無理せずにゆっくり恋に向かってゆくと良いことを意味しています。

 深く状況を見つめる程あなたの魅力は深まり相手がそれを認めてくれる様になるでしょう』 だって!」


「ナルホドー、なんか、いかにもって感じですねー」


「あの人の状況と愛され方――― この復活のカードは彼が長い苦悩を越えたあと、別人の様になってもう一度喜びを得られる事を暗示しています。

 接し方のアドバイスは素直にあなたの方から接っし、友達感覚で遠まわりでも自然体でいることが大事です。

 ホゥ!

 もし彼が傷心ならそれは重い関係が原因です。そうした恋愛は得てしてその後の気兼ね無いやり取りが出来る人にこそ心底癒され~! 心を開き~!、やがて魅了される事になるでしょうううっっっておおぉぉぉ~~~~っ! 当てはまるぅ~っっキャハハハハーッ」


「あ、薊さんっ、落ちついてっ」


「よし、まずは深優人みゆとくんと友達になろ―っ!!」


「ァハハ。もう薊さんたら。やっぱお兄ちゃんの事を……」



―――ああ、女の子って好きな人が出来たらこんな風に一生懸命になるんだ。私は生まれた時から何となく好きな人がずっと側にいて、淡い想いだけでボヤッとしてやって来た。


 そして何となく何時かはその想いが届くんじゃないかと思い違えて生きてきた。いつか恋人とかになれたら、なんてただ漠然と。でも、今日、初めて色々分かった。


 想いを伝える為の地道な努力ってとても大事なんだってこと……。




    : + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜゜ +:。




 その後、薊は末っ子の蘭も交えて遊ぶ事も増え、時として澄美怜すみれよりむしろ蘭の方に気が合う程だった。


 蘭とは特にPCオンラインゲームで意気投合、最近では澄美怜すみれ抜きで交流を続けている。薊も賢くてなつこい蘭の事が大好きで、とても可愛がっている。




 この日は薊と蘭がソシャゲで遊んでいた。



▼この手のゲーム、パンジーすみれちゃん付き合い悪くて……その点ランランちゃんはイイネー。しかもお姉さんから異常なブラコンをアク抜きしたピュアパンジーって感じでさ


≫私、ブラコンでシスコンなので、お姉ちゃんに似てるって言われると、とってもウレシーです。お姉ちゃんもとっても可愛がってくれるんです


▼それわかる―。私の妹になってよ―


≫はい、私で良ければいつでも貸し出しますよー。お隣なのでお泊まりもおKです


▼最近は姉妹でケンカとかする?


≫あんまり。いつでもベタ甘デス。ただケンカというより、いつもお姉ちゃんのものならなんでも欲しくなっちゃうから、よくお兄ちゃんの取り合いに


▼ランランちゃんおマセさんだもんね。で?


≫お兄ちゃんがお姉ちゃんのこと褒めてたりすると、私も~、ってなって、もっと褒められる事してお兄ちゃんの気を引くように頑張っちゃう。そうすると、優しいからお姉ちゃんも一緒に褒めてくれたりするんだけど、あまりお姉ちゃん以上の事をしてしまうと目が笑ってなくて。そこが引き際です。笑


▼ハハハ、良く分かってるね―。憎まれないタイプだよね。賢くてカワイイし、ゲームの付き合いもいいし


≫小学生は基本、暇なんです~ 笑。でもさすがにモデルデビュー系ソシャゲなんかお姉ちゃんには興味ないでしょうね~


▼やっぱあの娘は妹系オンリーか


≫ハハ、はい、そればっかです


▼ゲーム誘おうにもさすがに妹系ソシャゲなんて無いし……


≫私もアニメ鑑賞ばかり誘われます。妹系のばっかですが


▼私も小動物、とか妹っぽい、とかよく言われるから嫌いじゃないけど、妹ポジションって、モドカシイとこもあんのよ。ランランちゃんに分かるー?


≫私は子供だから分からないですー


▼またまたー。私達3人の中である意味一番冷静に見てるのって実はランランちゃんかも、って思うときあるよー


≫妹系でもきっと女の子として見てもらえますよー。

アザみんさんなら、みずはちゃんとか、さぎりちゃんの様に参考に出来る義妹で可愛い有名キャラあるじゃないですかー。 その路線ならきっといつか報われますよー。私の様に実妹だとそれ以上にはなれませーん


▼さすがランランちゃん、恐ろしい程わかってるし。ホント怖ーっ


≫でも実妹のハッピーエンドってほとんど無いのでお姉ちゃんの悩みはそこの様です。だから、お兄ちゃんの好きなタイプとは違うけど実は『きりのちゃん』推しでもあるんですよー、ぁ、喋り過ぎたかも。ここだけの話ってことでお願いしまーす


▼もしかして本気ってこと?


≫だから子供なのでよくわかりませーん。草


▼確かにあれはただのブラコンじゃないよね―


≫はい。 本妹も驚くハイパーブラコンです


▼やっぱそうか!


≫自宅ではよく顔を覆いたくなる様な事ばっかです。まあ指の隙間から見てますが


▼うらやましいなあ、やっぱ私も実妹になりた―い


≫どっちなんですか~。でもアザみんさんも兄推しなんですね


▼そうだよ。でも以前まえにタロットで友達からゆっくり始める様にって


≫それがいいかもです


▼やっぱ前の……たしかユリアちゃんとかいうカノジョのコト?


≫え―と、どうでしょう?


▼あー、やっぱランランちゃんはガチ賢いわー。あっちスミレムキにさせて聞くしかないネ-




◆◇◆

 薊さんにとって私は良い情報ツールだった。一緒に居ると兄の誕生日とか、様々な兄情報を聞かれた。


 友達と言いながらグイグイ兄との距離を詰めていく薊さんに、私は最初高みの見物的に見てるだけで邪魔する様な事はしなかった。


「ねえ、お兄さんて、昔じゃなくて今、好きな人とかいるのかな」


「どうでしょう。 今度それとなく聞いてみます? 私、妹だから聞く機会だけはバッチリです。 ただ、何て聞いとけば良いですか。ストレートに?」


「う~ん、『薊ちゃんってどう思う? 』 とかはさすがに無いよね~、ハハ……」


「いいんじゃないですか? あくまでも現時点での偏差値みたいなつもりで考えれば」


「いや、ちょっ、冗談だって。……まだそれは……」


「やっぱ、友達から、ですか?」


「タロットォー!」


ハハハ……フフフ……


 顔を合わせ二人で大きく笑った。でも薊さんが高1になり、私の恋心も育ってきてしまい、そのブラコンとは異なる感情と、お兄ちゃんの過剰なシスコンぶりも気にする様になった薊さんは、そのうち私をライバル視する様になってしまった。


「高校になったら私、深優人みゆとにアプローチする。だから登校とかにもう付いてこないで」


 何かがはっきり壊れるようにして動き出し、そして何かを奪われる気がした。


「……それは……私の自由です……」


 とつっぱった。その刹那、遂に一番ハッキリと言われたくない事を耳にした。





「―――でも妹なんて恋愛対象外なんだから常識的に行かないとね」





 今一番気にしている事。


 それを言われ引けなくなり、それ以来あまり仲良くいられなくなった。


 そこから互いに反目するようになってしまった。






< continue to next time >





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る