第8話 お互い破滅したくなければ




 あざみ深優人みゆとは中学2年位までは何度か互いの家に行って遊んだりしていた。もちろん妹付きであったが。


 だが高校生となってからは互いに部屋にあげていない。色々と昔とは意味合いが違って来る事や澄美怜すみれが牽制していることも有る。



 いつもの登校でのやり取りが始まる。


「じゃあ今日はこないだから言ってた新作のゲーム、深優人みゆとの部屋でやるからね」

アイテムを理由にあざみのアタックが開始された。それも澄美怜すみれを前にこれ見よがしに。


「あ!勝手に決めないで下さいっ。お兄ちゃんにも予定が……」

「いいよねっ、深優人みゆと~ 」

「え……う、うん。まあね」

「ほら、いいって」


 ムゥ~、また何をやり出すか分からないから私がお兄ちゃんの部屋を守らねば!


「俺、今日は選択授業の後で遅めになるからそれで良ければ」

「うん、大丈夫。今回のギャルゲーは凄く評判良いから進めずに待ってる」


 そうこうしている内に校門に到着し、中等部の澄美怜すみれとはここで別行動だ。


「じゃあ、澄美怜すみれ、ここで。勉強頑張って!」


 うん。同行ありがとう、と言って別れて行った方を見ると深優人みゆとと薊は恋人の様に近い距離で例のゲームの話しをしつつ、キャッキャ楽しそうに同じ教室へと歩いていく。


 いいなあ。ずっと一緒に居れて……

 ―― ん! そーゆー事なら今日は早く帰らねば!



 **



 帰宅早々玄関には女の子の靴が。遅かったか! と、慌ただしく靴を脱ぎ捨てる澄美怜すみれ


 ただいま~、と急いで廊下に駆け上がる。母親の『おかえり』 の声がする。


「お母さん、誰か来てるの? ……(まあ誰かは知ってるけど)」


「ああ、薊ちゃんだよ。暫くここで世間話してたの。でもちょっとこの後に来客あって、そろそろ深優人みゆとも帰って来る頃だから先に上がってもらったの」


 イヤな予感を感じつつ足音を忍ばせ兄の部屋へ直行、いきなりドアを開けると深優人みゆとのベッドに顔をうずめてた状態から『ヒャッ』……と飛び退いて弾けるツインテール。


「ちょっと! 何してんのっ! ここは私と……あ、いや、お兄ちゃんのベッドに!」


「あはは~……おじゃましてますぅ、あ、イヤこれはちょっと癒しをですね……」


 頭を掻いて弁解する薊、急いで部屋を見回す澄美怜すみれは、


「それに何か微妙に色々と物が動いてる!」


 ギクッと硬直する薊。冷や汗がタラリとコメカミを伝う。


「まさか、お兄ちゃんのプライベートを覗こうとしてたんじゃ……」

「え……いや、だって彼女としては彼氏のそっち系の好みとか知ってた方が……」


「まだ付き合ってるなんて聞いて無いんですけど! 勝手に彼女にならないで下さい!」


「まあ、事実上……ていうか、も―だからもっと深い所まで知りたいの! いーでしょ、お兄さんの恋路に首を突っ込んで来るなんてそっちこそ妹としてナンセンス!」


「だからって本棚の奥とかベッドの下とかマットレスの下とかまではダメです~!」


 肩をすくめ、ちょ、何で判ったの、と顔を真っ赤にしてたじろぐ薊。


「やっぱり。私はいつもお片付けまでやってるからミリ単位で分かるんです!」


「そんな事までやってるの?!  メイドかっ!」


 だが澄美怜すみれは少し不満げにロを尖らせ気味に、


「まあ几帳面だからその前に片付いちゃってるんだけど………」


「……って実はスミレも荒らしてるだけなんじゃないの?」


「ち、ちがいます!……てか、この事お兄ちゃんに言いますよ」


 軽蔑の眼差しと斜に構え腕組みの澄美怜すみれ。完全に弱味を握ったマウントポーズ。


「ちょちょちょちょっと待って! それだけはお願い」


「んーどーしようかなぁー。次からはもう部屋に来ないって誓ったら考えてもいいかなー」


「ヒドイ! あんなに性格良かったのに! どうせ何も出て来なかったんだから見逃してくれてもいいじゃない!」


「ダメですっ! 第一慎重なお兄ちゃんは昔一度だけ本棚の奥に隠してたのを偶然私に見つかって以来、もう絶対にバレない様にうまく隠してるんだからね」


「上手く? 何でスミレが知ってんの? あ、自分の方が知ってるヅラしたいんでしょ!」


「ち、違います―っ! 嘘じゃないです~! 今はPCの奥の奥の奥の奥の超々深い階層のフォルダの中に沢山のファイルとリンク集を保存してるんですから!!   

 なめないでっ!お兄ちゃんの事なら何でも知ってるんだからっ!」


「えっ……。ふーん。そ~んな事まで知ってるんだぁ。じゃ、それが本当か深優人みゆとに確かめてもいい?」


「はうっっっ!」


「フ……これでおあいこね。お互い破滅したくなければここは休戦協定を結びましょう」


 うう~……と呻きをもらす澄美怜すみれ。と、そこへ玄関から深優人の「ただいま~」の声。


「おかえり、薊ちゃんもう来てるわよ。部屋に通ってもらったから」


「そっか」と言ってゆっくり階段を上がってくる足音。慌てて2人で片付ける。


「おかえりお兄ちゃん」

「おじゃましてます」


 あ、もう始めてた? と、柔らかな表情でカバンを片付ける深優人みゆと


「ううん、ちょっと話に盛り上がってたところ」

「ふふ。何だかんだで仲いいね。(……と言うかそうであってくれ! )」


「え……そ、そうね。じゃ、ゲーム始めよっか。スミレちゃんは興味無いよね」


「あー私もやりたい~。見てるだけでもいいから~」


 なっ……どこの小学生よっ……彼女候補が来てるんだから遠慮しなさいよ。このハイパーブラコン!


「まあ、こう言ってるし澄美怜すみれも入れてあげてくれるかな」


 不満げにスミレを横睨みの薊。薊を見る深優人みゆとの生温かい視線に慌てて笑顔を作る薊。


「えー……ま、まあね……(やっぱこうなったか)」


 とは言え三人で結構楽しく遊んだのだった。ただこの面子ではよくある日常の光景だった。





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