第10話 いつの日か、『キュン死』させるまで日夜鋭意努力中
「お兄ちゃん、今日学校帰ってきたら一緒にアニメ見よう!」
それ故に昨夜の足掻きを思うと嫌な感覚を早期に払拭しておこうと、眠り際の想いを今朝一番に兄にぶつけていた。
快諾する兄。
そんな事からマンガとアニメはこの兄妹をつなぐ重要なツールだった。
小・中学生の頃、
「これすっごく面白かった。ありがとう」
その後もこれが共通の話題となって盛り上がり、嬉しくなってもっと語り合いたくなった。楽しい時と共通の話題が増えていくのが何より楽しく、どんどん貸し借りする様に。
「ホント少女マンガって凄く奥が深いね」
お兄ちゃんは少年マンガ等もそれなりに楽しむ方だ。でも人の心理描写に興味があったみたいで、特に恋愛物は『女子の心情がリアルで参考になる』 なんて言って興じてた。
「お兄ちゃん、乙女のフクザツな心境が分かりますか?」
な~んてからかっていたのも束の間、その真面目さでその手のマンガをどんどん読破。私の膨大なコレクションを全制覇。心配になって、そっち系なの? って聞いてみたら
「いや、単に面白いし……あと
……それ、女心のカンニング! あまり恋愛ものは見せるべきじゃなかったかな……なんかちょっぴり不安。だってお兄ちゃんと
自分など二の次、或いはそれ以下だ。そう思わされて、それが少し寂しかった。それからはそうした傾向のものをオススメから避けて、アニメをはじめ他の分野で意気投合出来るよう慎重に選ぶ様になった。
「恋愛マイスターになっても困るし、何か私に気持ちを向かせるものって無いのかな?」
そんな頃に
余りに異常に想い合っていた二人。その相性は私の想像を遥かに超えていた。どんな事情があったのか、それとなく聞いてみた事もあるけど教えてはくれなかった。
そこで事情はともかく元気付けの為に何か、と色々調べてる時に『妹ものアニメ』の存在を知り、それをお兄ちゃんへの洗脳教育? もとい、元気付けの一貫として導入する事に。
先ずはライトなものから徐々に刷り込み、かなり変態っぽいものまで間違いを起こさず? 一緒に見れる程になった……ってのもどうなんだろ。クス。
私のヘンタイっぽさはきっとコレのせい……って事にしといて下さい。
まあでもそれも 『妹道』 その① ……のためだ。『妹に特別萌える体質改善』を施して恋人を忘れさせてあげるのです。
結果、着々と計画は成就へ向かって進んでる……のかな?
昔の三人の思い出から現実に戻る
私、それにしても判ってるんです。お兄ちゃんの好きな『妹キャラ』は誰なのか。それは『お兄ちゃん的にポイントの高い小言娘』でも、究極の『反発ツンデレエロゲー娘』でも、仕事パートナーとして高め合いながら『引き篭もりを続けるヤンデレ娘』でも、はたまたケチャップソース大好き『萌え萌え世話焼き娘』でもない、と言うことを。
それはやっぱりあの『魔法科高校の優等生』が好みだって事!
「ね、当てて見よっか、妹キャラの兄的ランキング1位は絶対、『みゆきちゃん』でしょ」
「えっ……どうして?!」
これはちょっと見抜かれて焦ってるって顔。『やっぱ図星ぃ~』
照れなくてもいいよ。悔しがらなくてもいいんだよ。この妹に全て任せておけば何も問題ないんだよ。だってあのキャラ、上品で従順で淑やかで誠実で、その上有能で。……
「お前には敵わないな。じゃ、
フフ。そう。だからお兄ちゃん、いつも私の事を見ていて下さい。あなたは私の全てなのだから。
柔らかな作り笑顔の裏で真顔の
―――だってそれは大袈裟でも何でもなく、命に直結してる程に……私の全て……なのだから。
**
そんな二人はこの所タイムリープものや異世界転生もの等も見尽し、気分転換に大評判の感動作を、と言う事で、1つはS月はキミの嘘、そしてもう1つはこれになった。
『V.E.G.』
それはKアニメーション製作の最高傑作と呼び声の高い逸品で、感情を持たぬ孤児が人間性を獲得して行く、とある少女の成長を描いたヒューマンドラマアニメだ。
「ほらお兄ちゃん、偶然ね、私と同じような名前の主人公なんだよ。 Violet:スミレ Ever:永遠 Garden:園 ――― ね、そうでしょ」
「本当だ……じゃ主人公は
早速サブスク画面からオンデマンド再生スタート。
第1話……設定が興味深くて凄いね、画もめちゃくちゃキレイで引き込まれる。2話……イイ話し。これからどうなる、目が離せない 3……4……5話 ヤバイ泣けるね。音楽も凄く素晴らしい。 6……7……もっと泣けるし……作画最高に美しいね、 8……9……ああ、なんて運命なんだ……胸が張り裂けそう 10話 ああ、神回!これヤバイ~、泣き死ぬかも……11……12……13話 ああもう尊すぎる! 切なすぎる! 愛しすぎる! うああ、もうこれ最高すぎだ~ 神だ~ テッシュが足りない~!!
洗濯物を取り込み、かごを持って横切った母が呆れて叱る。
「ちょっとあなたたち、も―アニメばっかり見ててしょうがない子達ね、声だして泣かないでよ、小学生じゃないんだから!」
え~、そーゆーならお母さんも見てみなよ、とそんな訳で母と2周目突入
『泣き死ぬ~、
「はい、 母さん」
その日以来、その二つのアニメは我が家では感動作の最上階に殿堂入りをした。私達兄妹の特別な存在で宝物だ。
「ねえお兄ちゃん、あのとき『アン』 がね……」
うゎっちょっ、今はダメ……勝手に目から汗が……と狼狽する兄に、じゃ、『かをちゃん』の好きなカヌレ……と言いかける
それ以来 『アン』そして 『かをちゃん』は気やすく言ってはいけない禁句となった。
以後――――
「ねえ、ちょっとお兄ちゃん……」
「あ、ちょうど良かった。そっち行くついでに電子レンジの中のカフェオレ持ってきてくれる?」
ビシッと敬礼をするや「了解しましたっ!」と颯爽と持って届けると、すかさずスカートの裾を持ち上げ一礼し 、『お兄様がお望みならどこでも駆けつけます。自動
……全くこの妹は。時々悪ノリしてからかって来るけど、そんなお茶目さに実はコッソリ萌えちゃう。こんな俺はもう完全に手の内ですかね……危うく今、『キュン死』しかけたよ。
そんな兄の瞳を覗き込む
フフフ、お兄ちゃんかわいい!……いつもこんな感じに萌えてくれるんです。
そう、そしていつの日か、『キュン死』させるまで日夜鋭意努力中なのです。
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