第6話 澄美怜を蝕む連続夢《ナイトメア》
帰宅中、
そこで偶然見かけた下校中の兄の姿。
帰宅後、その事が頭から離れず気晴らしに妹の
妹への溺愛。
実は幼少期からお別れまでずっと姉同然だった
最初はその一心だったが、蘭もとても懐いて来たため可愛くて仕方なくなった。
小さな頃は家で良く遊んであげたり、少し大きくなってからは勉強やマンガ本など教えこむのも甲斐甲斐しい。蘭もそんな姉が好きで堪らない。
そんな二人だが、兄の取り合いになると姉は最後の所では全く譲ることは無く、仕舞いには一度だけ手酷く妹を泣かせてしまった事があった。
この姉にとって兄を取られることが余程不安かストレスのかかる事なのだと気付いて以来、蘭はそこだけは姉の絶対的聖域として心得るようになり、それ以降ケンカなどまず起こらない。
最近の兄争奪戦は単なる『じゃれ愛』であり、蘭の引き際は絶妙である。
そんな蘭が姉の部屋へ向かいながらあれこれ想像している。
―――私はお姉ちゃんが大好きだ。とってもキレイで優しくて。いつもお姉ちゃんの様になりたいと思ってる。
そんなお姉ちゃんに似てると言われるのが何より嬉しいし、やってる事は何でも真似たくなっちゃう。遊びも勉強も丁寧に教えてくれる。
お姉ちゃんは意外と努力家で成績もかなり良くて、そんな所も尊敬している。やたら妹の活躍するアニメを推して来てウザイ所も有るけど、最近私もクセになってきちゃった。これが洗脳というものでしょうか?
あと、信じ難い程の兄フェチについては、もう病気と思って温かく見守る事に。
そして普段はちょっと弱虫な面もあるけど、イザという時には強くて頼れる所もあるのです。
そんなお姉ちゃんの事、いつも見てるのが大好きなのです。
―――ノックとともに蘭が
「お姉ちゃん、今日は顔色が優れなかったから湯タンポ作ってきたよ」
蘭は良くも悪しくも常に
蘭が小学校低学年の頃、
『凄く楽になった』 『本当気がきくいい子だね―』 と褒められてからは、この子のライフワークの一つだ。
「いつもありがとう。さすがだね、このタイミング。今日はぐっすり寝れるかも」
「うん、夜更かししちゃダメだよ、お兄ちゃんの事ばっかり考えて。フフ、じゃね―」
「え、おやすみ~……。蘭ったらもう……」
苦笑いを浮かべつつ、 ホント人の事よく見てるんだから……でもつい可愛がっちゃうんだよナー、と目を細め、ホカホカのそれをお腹に乗せて布団の中に入った。
「あの夢、見ないといいな……」
……小さい頃から私を蝕む連続夢……ナイトメア……
澄美怜の恐れるそれを『
それに殺される予感は少しずつ強まっていた。
ヒシヒシと迫り来るその予感。
ジンワリと伝わる熱気が少しずつ悪感を退けて行く。
蘭のお陰でその日はすんなりと眠りにつく事が出来た。
***
その翌々日。
長時間居すわってマンガ、ラノベ、音楽等の話題に興じて二人で話す時間に没頭。それも肌が触れそうな距離感で。
「ねえお兄ちゃん見て、この決壊2ndのトレイラーとMAD。あとこれも、決壊:星間鉄道。……私、鳥ハダ立っちゃった」
「おー、マジエモい! この動画どこで見つけた?」
楽しさ半分、仲良い兄妹って余所でもこうなの?……と戸惑う
「俺もプレイリストに追加しとくよ。こっちもこんなのみつけてさ……」
穏やかなひと時。でも兄の気持ちは少しいたたまれなかった。自分は本当にあの失恋から癒えているのだろうか、と密かに瞳を曇らせる
あの日の
だが悲しいという感覚がかなり薄くなったのも事実だ。それはきっと
その横顔を見る
――― お兄ちゃん、私、少しでも近づきたくて……
だからせめていつも良くしてくれている事への恩返ししたかった。だって私を救えるのはお兄ちゃんだけだから。 その為に私がどんなに
だけど、もうそろそろ必要なさそうだね……あの時折見せてた悲しい顔は今は殆ど無い。時間は優しくて残酷。
なのに今までよりもお兄ちゃんに近づこうとしているのは薊さんのせい。
嫌だ!
『あの病』で私が取り乱しておかしくなる度、どんな時も何故か上手く現れてどうにか鎮めてくれた。こんな面倒くさい子見捨てずに……
この人は私の命……それが別の何かに染められてゆく。
それを誰より近くで見てなきゃならない。それってこんなにえぐられる事なんだ……。
恋する年頃になって分かって来た。自分の命の様に大切なものが遠くに行ってしまう事の意味。私の中の大前提がうずき、ざわめく。
―――だったら消えてしまいたいと……。
ただ自分の経験や知識ではどうすべきか分からない。だって私は妹。それ以上になれない。でもいっその事、真正面からぶつかってみようかなんてムチャなこと考え始めてる。
世間的にはやっぱり異常なんだろうな―――――
◆◇◆
その夜、永遠園家の隣家では、ベッドの中で悶々と寝付けずに寝返りを繰り返す
延々と恋の悩みに耽り込んでいた。
……私は
高校に入っても仲良くいられたら、いよいよ彼女になるために告白するって決めてた。そのために今まで友達として大事に温めて来た。
関係が壊れる事を躊躇してたんじゃない。いつでも話せば意気投合出来たしその上楽しいのに落ち着ける。顔立ちだって私好みだ。そして私の事を可愛いって言ってくれる。
もう昔の彼女への思いに縛られていない事もこの三年で感じ取れる。
私にとっては多分これが本当の初恋だ。ずっと友達っぽくやって来て、最高に仲も良い。だけどやっぱり恋愛は成就させたい。
薊はその小さな額に手の甲を載せ、溜息を一つ。
自分の人生、青春時代。思い出作り。出会いと別れ。どんな楽しい事、辛い事があるのだろう。初恋なんて普通は上手くいく方が少ない。
それでも……例え涙したとしても振り返った時、何も言えずに終わってしまう後悔だけはしたくない。
でも正直なところ、ダメだった時の事を考えると怖くて仕方ない。フラれたらめちゃくちゃ泣くんだろうな。あのシスコンぶりも気になるし。
だけど自分は単純で前向きな所が長所だ。いい高校時代だったって、そう思えるようにしていたい。
ああ、自分はどんな風に切り出すのだろう。向こうから告白してくれたらどんなに楽で嬉しいだろう。でも待っていても変わらないだろうから、切り出し方も考えなきゃ。
――― 最近はこんな事ばかり考えている。寝ても覚めても。
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