第二章 【破】愛の真実

第23話 閑話。春休みのとある長い一日 前編




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閑話とは言え、後々に繋がるエピソードです。ここでは末っ子・らんとの絆、そして澄美怜すみれの別の一面がつづられます。


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 <本文>



 薊が去り、春休みに入った。


 澄美怜すみれもいよいよ高校生活を控える。いずれは深優人みゆとと同じ校舎になる。


 兄の外出中、足音を立てずコッソリと忍び込み、相変わらず兄のベッドを占領し、枕をスンスン。そして妄想を膨らます澄美怜。



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093087533673561



 ……私達、校内ですれちがったりしたら、毎日会ってるのにドキドキしそう。ウィンクとかしちゃうかも。ああ、ちょっと楽しみ……


 ふと首を横振りして思い直す澄美怜すみれ


 でもお兄ちゃんに依存してばかりじゃ駄目だ。ちゃんと自立もしなきゃ。新しい友達とか作ってどこか行ったりしよう―――


 今迄の澄美怜はクラスメイトとはプライベートで遊ぶ事はほぼ無かった。兄との時間が減るのを避けるため、誘いが有っても流していたのだ。



 あぁ、私も遂に女子高生かぁ……どんな高校生活が待ってるのかな……。でも私はドラマチックじゃなくていいから平穏なのがいいナ、な~んて言ってるとフラグが立ちそうだから止めとこ。


 ……そう、ここで寛いでる様に平穏がいい。う~やっぱここが一番落ち着くよー。



 そこへ廊下から忍び寄る人影。

『そろそろお邪魔虫しなきゃな……』



 ノックもなくカチャリとドアが開き、一瞬ビクッとする澄美怜。溺愛する妹・蘭の愛らしい顔だけがドアからひょこり現れる。



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093087533497333



「またお兄ちゃんのベッドを勝手に使って! もうそろそろ御使いから帰って来ちゃうよ」


 人差し指を鼻先に当て、し――っ。内緒なんだから! と声を顰める。


「も~しょーがないなぁ……」

 ひそめた声で両手で拝みながら澄美怜すみれは、

「お願い、静かに」


「はぁ……。ところで今度東京で私の見たかったアートカルチャ―展があるんだけど一緒に行ってくれない? 遠いから友達同士はちょっと、ってお母さんが」


 私の天使からのお誘い……これはモチロンOK。


「うんうん、イイネ。じゃついでにオシャレな店とかいっぱいあるから服とか色々見て、おいしい店でランチとスイーツと、時間が余れば映画と~……」


 テンションが爆上がりの澄美怜すみれ


 『じゃあ、おねがいね』


 そう言って一瞬見せた蘭の笑顔は、何故か近年見た中で最高のものだった。



  ***



 目的地は電車と徒歩で2時間近く。それぞれ高1と、中1の予備軍の姉妹で可愛くキメて、横浜のベッドタウンからいざ東京へ。


 蘭はちょっと背伸びしたい時期。気持ちだけでなく、実際ここ一年でグンと背が伸びて澄美怜すみれとの身長差が6センチ差まで近づいた。丁度あのあざみと同じだ。


 今日は姉妹ではなく友達同士で東京に遊びに来たカンジに見られたい様だ。そのためのアイテム。ツバのついた帽子をチョットカッコ付けて目深に被る。

 澄美怜の3年前とほぼ同じ顔を持ち、まだあどけなさも少し残しながらもキャップアイテムにより発する大人っぽさと相まって妖精的な色気を感じる。


 でもこうしてないと余りにも姉そっくりなこの子は姉妹とすぐバレてしまうから、目的としては正解。服もコ―デが被り過ぎぬよう前々から打ち合わせ済み。こんな感じでまずはお目当てのアートカルチャー展へ。



 ……蘭ちゃんってば、今までは全~部私と一緒のものが良いって言ってたのに、今は自分の世界観を持って楽しんでいる……

 溺愛する姉としてはフクザツな気分だけど、このアート展はちょっとファンシーで可愛いからこんな自立はイヤじゃないな……。私もお兄ちゃんからこんな風にカワイく自立しないとな……



 じっくりアート展を楽しむ二人。ふと気が付くともうお昼。早速事前にチェックして来た店で美味しくランチ。食べながらアート展のレビュー、そして最近読んだマンガやラノベの話に花が咲く。



 小さな口で上品にモグモグと食べるところを眺めるだけでも癒される。


 ……小さい頃からいつもお姉ちゃん、お姉ちゃんってくっ付いて来て可愛いかったなぁ……。いや、今でも可愛いし…… 

 この頃の私とそっくりだけど中身は少し違う。自分は真性のブラコンだけどこの子はどちらかと言えばシスコン ……かな? 自分で言うのも何だけど。


 そうだ、その辺り現在はど―なのかちょっと聞いて見よう! 最近お兄ちゃんばかり気になってて随分ほっとき過ぎてたから多分キビシイ事言われちゃうかな……


「あのね私、蘭ちゃんの事昔っから大好き。逆に私の事は最近どんな風に思ってる?」


 何故か少しうつ向く蘭。かすれた声で……ゎ……と聴こえた気がした。


昔なら『私もー』 とかそんなカンジ……かな?……ん?………んん?……どした?……あれ……?


 下を向いたまま無言が続く。帽子のツバで顔が見えない。


「わたし……は……」


 テーブルにポタッと2滴、ナゾの雫が落ちた。


「お姉……ちゃんが………」


 声が急に震えてる。「……す……」と聞こえ、ポタポタと更に何滴も落ちる。


「あっああ、泣かないで、ごめんね、変な質問をいきなり……」


 あわててハンカチを取り出すも、その前に服の袖でグイっと拭って首を横に振る。


「じゃあこのあと服見てから美味しいスイーツおごるから元気出して」


 ツバで顔を隠したまま強く頷く。


 ああ、何て可愛いんだ。一体私のどこがいいんだろう。こんな問題だらけの姉……私はただこの子を可愛がってるだけなのに……。

 本当、抱きしめたいよ、蘭ちゃん……ねえ、お兄ちゃんもこんな風に私を想ってくれる事、あるのかな……


 ようやく蘭に笑顔が戻り、ランチも終了。いざ、服を見に行こう!


 お互いに着せたい服ばっかつい選んじゃう~。着せ替え人形かってほど試させて……あーん楽しいし~、あ、店員さんゴメンナサイ。


 テンション上がり過ぎたからここらで一息。カフェを探す道すがら、私から手を繋いでみた。


「こんなの久しぶりだね」


 などと言いながら優しく手を取ると強く握りしめて来る。さっきからずっと緩まない。

 いじらしスギ。―――ああ、私、妹がいて良かったな……


 手頃なカフェに着くも室内は満席だった。そこでテラス席へ。天気も良く最高に爽やかだった。『かえって外で良かったね』と席につき、ケーキとセットで注文し楽しくおしゃべり。


 今度は話題に気を付けて…… テンションも落ち着いてマッタリと幸福感に浸る。ケーキの味もなかなかで、少しずつ切り分けて味見した。ちゃんと顔を合わせて話も出来た。


 そこへ強い風がひと吹きすると蘭のキャップが飛ばされた。慌てて拾いに行くが更なる追い風にコロコロとどこまでも追いかけるハメに。


 それを拾い上げるいかにも怪しそうな黒っぽいスーツのスカウトマン風の男。


「これキミの? キミ可愛いね。モデル募集してるんだけどどう?」


 蘭は、『あ、いえ、いいです』とニベもなく断って、帽子へと手を延ばす。


「ちょっと話しだけでも聞いてよ」


 返してください、と手を泳がす蘭に、まあまあ、と帽子を頭上にして渡そうとしない。


「ちょっと早く返してっ!」


 20Mほど先で蘭が黒服の男と揉めてるのに気付いた澄美怜すみれ。先払いだったから席を立っても大丈夫だ、と蘭の分のポシェットも慌てて掴んで席を蹴って駆け出す。


 威嚇の意味も込めて「大丈夫ーっ?」と、わざと大きめの声を遠くから発っした。


「おっ、あの子も可愛いじゃん。あれ? お姉さんかな? そっくりだね―。スッゴイキレーだし。はい、こっち来て~。ねえ、キミもモデルやろうよ。一緒なら安心でしょ」


 そのセリフを聞いて蘭は顔を引き攣らせた。


 マズイ! お姉ちゃんがあの不安症状態になったら! 何とかこの場を早く切り上げないと!!


「早くっ! かえせっ!」


 ひったくり返そうにも高々と掲げられ空振り。それならと男の足を思い切り蹴った。


「イッテ……なんだこのガキ、大人嘗めんじゃね―!」


 腕を掴んで路地に引き込まれる蘭。その先には黒い1BOXカー。やめて――っ、と周囲に声が届く様にわざと駆けつけながら澄美怜が叫ぶ。


「お前も来い!」


 姉へも掴みに行く男。その隙に乗じて蘭はポケットから取り出した防犯ブザーをオンにして周囲に音が届くよう頭上に掲げた。


 けたたましく 『ピョピョピョピョ……』と鳴り出すが、男は咄嗟にそのブザーに飛び付いて引ったくり、全力で遠投した。僅かに有ったかも知れない人目もそちらへ向かってしまう。


 お前~! と逆上男に蘭のポニーテールはムンズと捕まれ『ギャーッ』


―――どうしようっ、でも蘭を守らないと!






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