第17話 これは本当にマズイよ!! 今すぐ! お願い!
このところ
その上、普段から人付き合いをソツなくこなし人望も厚い
朝食も夕食も時間が合わず、顔を見たのは夜に一瞬すれ違った位だった。
『でもおやすみの一つくらいでは淋しい』、そう思って廊下で声かけようとした
何やら手伝い先で想定外の事態が発生し対応に追われ出した。話しをするタイミングを失い、仕方がなく今日は諦めようと部屋へ戻る。
そこで翌日、朝早く出る時間に合わせて朝食の用意を先回りした
「ホントにゴメン、さっき出来る限り早く来てくれって言われて急がなきゃいけなくなって、せっかく用意してくれたのに……あ、これだけもらう」
好物のミルクティーを一気に飲のみ干して慌ただしく出て行く。折角朝から会えたのに逆に淋しさが増してしまった。帰って来たら絶対にお話する……と、
**
「ただいま」
思った通り遅い時間の帰宅。部屋に戻らずリビングで待ち伏せしていた
「お兄ちゃんホン卜忙がしそうだね。何か手伝うことがあれば私、手伝うから言ってね」
「
そう言って頭をポンとする。このお座なりなやり取りが精一杯だ。何時もならこの頭ポンも心が温まる感覚が沸き上がるのに、今は無性に切なくて仕方がない。
「うん……」
と力無く返し立ち
頭の中では『行儀悪いよ』とか『体に良くないよ、お兄ちゃん』と言ってるが、絶対に邪魔になると分かっているから言葉に詰まってしまう。
何も出来ない……ほんと惨めだ。
生まれて初めて兄さんと一緒の空間にいるのが苦しいなんて……自分はこんなに必要としていて、そして何かしてあげたくて……でも兄にとっては自分など必ずしも居なくても成り立つし、少くとも今少しも淋しがってる様子はない……
ある意味に於いては両想いだと思っていた。だがこうして兄が構ってくれない状況になってハッキリと感じてしまった。
兄妹関係としてもほぼ片想いだったんじゃないかと。
そして先日の無茶な告白による傷心で不安定な日が続き、こうして立て続けにすれ違いが起きると勝手に全てを悪い方へ関連づけて考えてしまう。
『やっぱり私は邪魔なのかな』 『このままむしろ消えた方がいいのかな』 『でもずっと迷惑掛けっぱなしだったから、せめて何か役に立ってからがいいな』
『―――だからもう、俺に恋心をもたないで欲しい。その分だけ俺も辛くなるから』
この言葉はやはり澄美怜をザックリと
しかし、案の定恐れていた
その夢を見る度、
まるで魂をすべて凍らされてしまうかの様な恐怖に夢の中で身じろぎ、懸命に藻掻く。必死の思いでなんとか飛び起きた。
いつかその氷に永遠に閉ざされてしまう―――そんな恐怖に子供の頃から
……ああ、こんなになったら多分パニックが来てしまう……あれだけは避けないと……ひどくなる前に本当に度々申し分けないけど頼らないとマズイ……
兄の部屋へ逃げ込む。もはやいつもの手順さえも省いて初めて直行した。
兄は部屋の明かりは消していたものの、デスクの照明だけつけてまだ勉強をしていた。青ざめきった
兄のベッドに倒れ込む妹に寄り添う。
「ごめんなさい、今日は特にひどくて……」
「いいよ、落ち着いて」
癒しの力を受け渡すため、祈るように意識を集中する
少しして落ち着く様子が見えた。呼吸の乱れもかなり消えてきた。
「落ち着いた?……」
詰まっていた息を、はぁ―――……、というひと吐きで解放した
「ちょっとトイレに行きたいから……待ってて」
「か、母さん?!」
驚いて駆け寄ったがグッタリと反応がニブい。
昨日から父は出張で3日間家を空ける事になっていた。急いでスマホから救急車を呼ぶ
と同時に末っ子の蘭を起こし、自分の部屋で体調を悪くしている姉の様子を見ていてくれと頼み、すぐ戻って母を取りなしつつ、程なくして到着した救急車に一緒に乗り込んだ
だが夜遅かった事もあり、母の病状をよく調べる為、そのまま入院という流れに。
その間、
只でさえ日中ずっと兄から避けられている様な被害妄想で自分の存在を否定し続けていた所へ、この悪夢に一度も手厚いサポ―トを怠った事の無かった兄が初めて自分を放ったまま戻ってこない。
……卜イレと言うのはきっとこの部屋から抜け出す言い訳だったんだ。もう付き合いきれなくなったんだ……
勝手に思い込んでネガティブ思考が極まり遂に発作まで始まってしまう。経過を見ていた蘭が心配そうに声を掛ける。
「お姉ちゃん大丈夫?」
頭の中がぐるぐる回り、苦しそうに必死に耐える
今まで自分がおかしくなる度に、何故かそれを静められる兄が側にいてくれた。こんな面倒な子の為にどんな時も王子様の様に現れて、たちどころに安心させてくれた。
兄さん、今回は……これは本当にマズイよ!! 今すぐ! お願い! ……早くっ!
声にならない。呼吸困難にのたうち、激しい引きつけを起こし始めた。その姉を見て真っ青になった蘭は両手で自分の口を塞ぎ、目は見開き、頭が真っ白になってしまった。
「おに……たす……て……」
姉の懇願にはっとした蘭は震える手でスマホを握り兄へとコールする。
「お姉ちゃんがっ! お姉ちゃんがぁ!! 」
兄に泣き叫ぶ。澄美怜は意識がずっと混濁している中で、母のために来た救急車の音も、蘭の寄り添いも全く認識出来ていない程だった。
混濁する意識の中、現状を認識するより
: + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜
小さい頃からよくパニックに陥って取り乱して騒ぎになったが、それだけでなく物心ついた時から何故か自らの存在を消したがった澄美怜。
ある時は体に火をつけようとし、ある時は浴槽の中で湯に潜り息を止め、またある時は行き交う車へと母の手を振り切り飛び込もうとした。
そうした自害衝動を誘発してしまうパニックや不安をたちどころに落ち着かせる事が出来た
しかし今後の社会生活までを考えるとずっと息子に負担させ続ける訳にはいかない、そう考えた母は病院を渡り歩き様々な薬を試させた。
しかし強烈なパニックを起こさない代わりにむしろ妙な不安定さは助長され、次第に
そして
ギリギリの所で飛び付いて何とか取り押さえた。
「バカっ、何やってんのっ?!」
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