第18話 澄美怜 小学3年生 『あの日の約束』
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そして
ギリギリの所で飛び付いて何とか取り押さえた。
「バカっ、何やってんのっ?!」
「……私、消えた方がいいの」
「なんでっ!」
「……生きてたらダメなの……」
「ダメなワケないっ! そんなのお兄ちゃんはやだよ。スミレのこと大事だよ」
「でも……苦しいの……」
何に苦しんでいるのか。どう苦痛なのか。3年生の
兄の癒しの力に頼るのを止め、薬に切替てから状態が悪化した事から、薬の副作用を疑って兄は言った。
「……だったらもう薬なんかやめよう! 前みたいにボクがずっとずーっと守ってあげるから」
「守……る……?」
「そう、ボクが近くでスミレが良くなる様に祈るから! そうすれば直ぐに治ってたでしょ!」
考え込む
「……ホントは……」
「本当は?」
「……ホントはお薬じゃなくてお兄ちゃんに治してもらうのが良かったの。でもママが……お兄ちゃんが大変だからって……」
「なら言っておくからもう大丈夫。ボクなら平気だよ。だからこれからはずっとだよ」
「ずっと?……私、ここに居ていいの?」
「そーだよ!」
再び考え込んだ
それを見た兄は一瞬目を閉じ、額の汗を拭いながらふう一っ、と安堵の息を漏らした。
「ヤッパリごめんね」
だが突如不意をついて振り向いて窓へ飛ぶ
「ハッ……!!!」
もう間に合わない、と、それに全力で反応した
ボタボタボタ……と血が床へ落ちる。それでも気丈に振る舞う兄。目を皿にする
「大事な妹が死ぬくらいならボクも死ぬっ!」
「?!……」
射抜くような真っ直ぐな瞳。
「スミレはそれでもいいのっ?!」
呆気に取られ硬直する
そしてそれだけは嫌だ―――と思った。
「いやだ……」
この人だけは誰にも代え難い大切な存在だと思った。そこへ兄が追い討ちの一言。
「ボクだってスミレがいなきゃ、絶対いやだ!」
「……やなの?……」
「うん、絶対にやだ!」
命懸けの本気の瞳に吸い寄せられる
初めて本当の自分に気付いた気がした。
今まで霧がかった世界に囚われ、ただ漂う様に生きていた少女。その瞳に初めて灯される命の
―――自分が生きていなければ奪い兼ねない命があると。
……そんなにも……私が大切なの?……
理由など分からない。ただ、それが本気であり、偽りなど
でも、だったら……
そこまでお兄ちゃんのためになるなら……
私……生きよう……
沈黙の後にポツリ。
「…………………わかった」
そう小さく呟いた妹の瞳にはハッキリと光が。兄はホッとしながら、
「よかった……ありがと」
そう言って抱き締め頬を寄せ、大事そうに、そして願う様に頭を撫で続けた。
二度と忘れる事のないその時の腕の温もり。それだけがその少女が頼れる道しるべ。それ以上でもそれ以下でも無い
「うん……」
妹の手も兄の背中を捉えて、心から愛おしく、誓うように、そしてすがるようにぎゅうと包んで離さなかった。
―――お兄ちゃん、私、生きるから……
どんなに苦しくても……生きるから……
絶対に離さないでね……
絶対に……絶対に……離さないでね……
この日に契られた魂の約束。
ただ、この約束は後の二人にとって余りにも手に余る物だったという事に、この時は全く気づいていなかった。
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混濁する意識の中でそんな過去を回想しながら
もう息が続かない。絶望に喘ぐ。
約束したのに……こんなになっても兄さんはもう来てくれない。完全に捨てられたんだね。もう藻掻くの、しんどいや。あの約束は終わったんだから、このまま消えよう……みんな、ごめん……ね……
その矢先、兄から手配された急救車が到着し応急処置と共に別の病院ヘ運ばれ入院した。
まだ小6の蘭は放心状態のまま留守を預かり、不安な一夜を過ごした。
**
母は低栄養の貧血と過労が重なったのが原因で大事には至らなかった。元々かなり体の弱い母をいつも父がうまくサポートしていたため今まで何も問題は起こらなかったのだ。
意識を戻した母からも『そう言う事だから自分は大丈夫』として
翌朝、目覚めた
兄は母の状況と経緯を全て話した。
……それで昨日はトイレから戻れなかったのか。
そう知って僅かに安心した澄美怜だったが、どちらにしても今となっては自らの必要性を完全否定し、闇落ちしている中でこれ以上の介添えは唯々苦痛だった。
そう、
パニックで発動された激しく黒い感情が盛大に取り憑き、《関わるなら消し去ってやろうか、それとも巻添えにするか!》と何故か激しく世を恨んでいる。
『呪ってやる! 呪ってやる! 呪ってやる! 呪ってやる! 呪ってやる! 呪ってやる!……』
こうなると簡単には収まりがつかない。必死で自分の中の何かと格闘した
とにかく病院で看て貰ってるから大丈夫だから、の一点張りでどうにか兄を学校へ行かせた。
◆◇◆
その後、病室での
あんなに話したがってた兄と話せても、そして気にかけた言葉を沢山貰っても全く心に届かない。
癒しの力を受け入れようとせず、発動された黒い恨みの感情が
《どうせ本当は捨てたかったクセに!》
最愛の兄へも向かおうとしている事に気付き焦る。
それだけは絶対嫌だ!―――これはもう自分に向けるしか! ……と自棄衝動が完全発動する。
……これ以上迷惑をかけ続けるのなら、どうやって消えよう。迷惑の掛からない消え方は? こんな状態の自分が兄を欲っする等おこがましい。いや、欲する気持ちすら無いのだからどんな優しい言葉も響かない。どうして自分はこんな症状が出てしまうのか、恨めしい。
今は兄に申し訳なくて、出来るだけこんな人間から遠ざけてあげたい。でも根気強い兄は簡単には引き下さがらないだろう。そうなれば絶対に傷つける事になる。いや、命すら奪いかねない……
一番手っ取り早いのは……そう、大丈夫になったフリをするのが早い……
闇落ちの
「お兄ちゃん、ごめんね心配ばかりかけて。でももう多分大丈夫。私、こんなに不安になる原因が分かったの」
「原因……?」
「うん、それでその原因を取り除いたら急に気が楽になって……だから今後はそれを続けられる様に、どんなに難しくても必ず協力して欲しい事があるの」
「ああ、何でも言ってくれ」
「絶対に協力してくれる?」
「うん、絶対に」
「ホントに? どんな事でも? ちゃんと誓える? 破ったら私、二度と信用出来なくなる」
「今まで破ったことあるか? 必ず誓うよ」
「分かった。信じたからね。―――私、原因は何か、よくよく考えて思い当たったのは……こだわりだったの」
「こだわり?」
「そう、こだわり。私はお兄ちゃんを失いたくないとこだわる余り、それを恐怖する様になって不安定になってしまった。……見放された、面倒になった、と勘違いして発作になって…… お兄ちゃんを想うほどに失うのが怖くなる。だからそのこだわりを消して感情を無くしてみたら不安も無くなるって気付いた」
「……
「もともと恋愛感情を持つなって言われてたし、もう丁度いいかなって……捨ててみて楽に成りかけた。……でもよく考えたら勘違いだった事、この前の告白で知ってしまった……。思われてないんじゃない。愛してくれてるからこそ普通の恋人になってくれないって事が分かった……でもそう言われたら愛されてるならこだわりたい。そう思ってしまうの。そしたらこの想いを……捨てきれなくなった」
気まずそうに耳を傾ける
「―――だから 『兄さん』 私を愛さないで下さい。苦しいから……」
「……そん……な」
「もう愛されたくありません……」
「……嘘だ!この前だってあんなに不安になって苦しんで……」
「だからそれはこだわりがあったせい」
「急にそんなに変われるなんて……」
「事実そうなんだから仕方ないです」
「やっぱり信じられない! 何か隠してる! 俺は澄美怜の事が心配で……」
「兄さん!……誓いを破るとでも?」
「そんな……、そんなやり方、卑怯だ!」
「約束です。もし破るなら私―――死ぬから」
「……」
―――ごめんね。どっちにしてももう消えるのに……
だからどうか私を捨てて下さい……
**
だが病院での自害は難しい。見つかれば命を助けられてしまう可能性もそれなりにある。そこで退院したのちに、と考えた。
そうして日常生活に戻り、上手い消え方を考え続けていた。
*
そんな生気なく漂う
「スミレッ!
……近づかないで。今……私、何をするか分からないから……
「 最悪の状況になったって言ってひどく落ち込んでる! 戻りようがないほど遠ざけられたって……どうして? 何がしたいのアンタはっ」
口角泡を飛ばし、更に矢継ぎ早に攻め立て続けた。
「
……そんなの、あの人の為に決まってる……
「そんなに兄が大切じゃないの? ふざけないでっ! 私がどんなに声をかけてもまともじゃなくなってる。あそこ迄スミレの事ばっか考えてる。そんな人この世にいる? 」
え……そんなに……?……でも……
……確かにあの約束の日、私が居なければ死ぬって……あの人に異様な眼で叫ばれた……
それが本当なら、私がやろうとしてる事で命を奪いかねない。だとしたら私は一体何の為に遠ざけてるの?……
―――そう考えた途端、僅かに取り憑いた闇が薄らいだ。
「アンタは何が許せないって言うのよ!」
「……許されないのは私の方。 私は兄を疑ってしまった。いつも迷惑しかないのに……」
「だったら尚更……」
「私ね、実は告白したの―――― 」
絶句して凝視する薊。
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ロ絵コーナー▼ 兄の憂い
https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093087235373911
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