第21話 闇があるけど強烈に光が照らしてくれる人生
翌日から登校も別、クラス内でも
家では何かに困り果てている兄を心配する
兄とのやり直しのきっかけを作ってくれた薊の叱咤激励。それに恩を感じていたことが
*
『どうしても話しがあるの』
下校途中の薊を見つけ、人通りの少ないとある大橋へと誘った
「本当にごめんなさい。あの時の兄は悪くないんです」
「何よ、関係無いでしょ 」
「でも……あの日は……」
「そもそも何なのよ! なんであなたがそんなに
「ちがうの! 兄は私を守ってくれているだけで…… 」
「何を守るって言うの? 彼女って言ってくれた存在を……あんなに確かなキスだってしてくれたのに……全て放り出してあなたの所へ飛んで行った……」
「ホントにごめんなさい。でもわざと邪魔したとかじゃない……です。信じて」
「信じれるわけないっ!」
「それでも兄は悪くなくて、とても悩んでるんです」
「当然よ。だって有り得ない。私は本当に真摯に向き合った……でも足げにされた……」
「違うんです、兄は仕方なく」
「もういいっ!……あんたなんか……あんたなんか妹のくせに!……どこまで行ってもそれ以上になれない存在なのにーっ!」
はっ、として、口に手をやる薊。今迄見せたことのない形相の
「……それだけは……それだけは絶対に……それを言うんですね」
傷の癒えぬ内にまともに塩を塗りつけられて。
どこまでも血が登る
「う……ごめん、だって……でもそうでしょ、あなただっておかしいと思わないの? あなたが度を越してるのは更さらだけど、
「……おかしい?……何も知らないで。冗談じゃない……私はどう言われたって構わない。でもあの人を悪く言うのは許さない!」
「……今さら正しかったとでも?」
「そうよ! ……どれだけあの人は……なのにそんな言い方……だったら薊さん、聞いてっっ!! 」
――その慄然とした叫び。その初めての
「もし一生を共にすると信じて来た最愛の人が、後から偶然兄妹関係と知ったら、薊さん、離れられるの? 例えば、あなたが実はあの人と兄妹だと『たった今』知ったらハイそうですかとすぐ諦められますか? ……私は、昔から……。結ばれない存在と知る前から、かけがえのない人だった。後から知っただけなのに……うう……ズズッ」
「なんであなたが泣くの? それが彼の正しさと何の関係が有るの?……もう何が何だか分からない。だけど今の話、もし私が兄妹なら、確かに諦められないって思うよ。けど今回の
もしちゃんと話すなら私、聞くけど。何かつらい事情があるって事なの? だって深優人は……訳は言えないって言ってた……」
「!―――やっぱり……そう……ですか。……なら、全て話します……兄の名誉の為に……」
兄の不思議な力だけがそれを鎮められるという事、それ故にどんな時でも妹を守る約束に至った事を。
そしてもし
そして以前幾度か、兄の居ない所で発作が出て、てんかんのような激しい痙攣により危ない所まで行きかけた事、薬の弊害で自棄衝動が酷くなった事、最近もその症状で病院送りになってしまった事も。
今までの長い付き合いから、
「そっか……そうなんだ……命にかかわる事だったんだ……皆イノセントなんだね………」
薊は今迄の謎が全て分かり腑に落ちた。そして良き理解者となった。
「私、あなたへの特別扱いにただ嫉妬してた。ホント浅はかだよね……ごめんね」
「私こそ……何時も二人を邪魔して、嫉妬して。ごめんなさい。兄さんは私のこの症状の事、気を使って他人には伏せてくれているの」
「当然だよ。私が姉でもきっとそうする。ねえ、それっていつからなの? 治せるの?」
「もの心ついたときから……。 治せるかは分からない。薬を試した時には依存性もあって却って良くなくて……おかしくなって……」
「おかしく……?」
「……身投げを……」
思わず眉をひそめる薊。
「で、兄さんに静めてもらう方が体にいいからって、親が出来るだけ薬を使わない方向に切り替えて……ここ数年それで何とかなってた。 だから私にはなくてはならない人。
でもこの歳で恋の不安も絡んできて……だって失ったらこれを鎮める人、居なくなっちゃうって思ったらまた不安定になってしまって……」
―――なんて不憫な子……こんな子から彼を奪おうとしてたんだ……しかも大切な家族を守り抜こうとする
薊は直ぐに閃いた。生来のポジティブ思考だ。
「私、彼女として二の次にされたんじゃなかった……ねえ、だったらこうしよう! あなたはその状況でお兄さんとの関係をどこまで大切に出来るか、そして私は普通の彼女としてどこまで仲良く出来るか、これからはイイ意味でのライバルとしてやってこうよ」
意外な提案に返す言葉を失う澄美怜。只、その言葉には温かな愛を感じた。
「スミレはスミレで私の見てない所で可愛がられればイイじゃない。共有は出来ないけど知らない所では嫉妬なんて関係ない。それで互いに気兼ね無しにやっていくの。それでいいでしょ。まだ結婚とかの年齢じゃないんだし完全に一人のものって考えなくても」
ニコリと微笑む笑顔が眩しく見えた。
「知らない所でのシェアー。でもこれは二股とかじゃないから。だって
嫌味なく、そんな風に言ってくれるんだ……私、この人を誤解してた……
「うん。ちょっと寂しいけど、そうですね……でも私、自分の事、他人に初めて話しました。聞いてくれてほんとにありがとう。 その上こんな変な子に優しく……はぅ……」
まるで
そう、元々この人は敵でも何でもなく、本当に仲良しだったんだ……と思い出す。
そう思えたらもっと嗚咽が止まらなくなった。背中に優しく手を当てる薊。
「いいよ、みなまで言わなくても。もうこれからは私達も特別な関係だよ」
薊は背の低い自分の顔へ澄美怜の頭を抱え込んで頬刷りした。子供の様に手の甲で涙を拭う澄美怜を、まるで妹をあやす様に。
「ありがとう……薊……お姉ちゃん……」
この瞬間、文字通り特別な関係が生まれた。そして互いに嫉妬からも解放された。
「ふふ。……でも闇があるところ、光ありだなぁ、……
「グスッ……ん?……でもそれを言うなら、光有るところ陰ありじゃ……」
「そっか、ふふ。でも……もしほとんど闇のない人生だけど大して光の無いものと、闇があるけど強烈に光が照らしてくれる人生と選べたら、私はどっちを選ぶんだろ」
!! ―――そんな風に考えた事も無かった。
お兄ちゃんは私にとって燦然と輝く太陽で光。苦しい時、あの力で救われる度に滲む様に感じられる愛情……そして闇落ちしてない時、日々が楽しいのは――― !!
「スミレ、キミは恵まれてる! だって都合良すぎ! これじゃドラマのヒロインみたいだし!」
「うんっ! グスッ……薊さん、さすがポジティブですね」
ゴシゴシっと力強く袖で涙を拭った
「本当に、本当にありがとう……」
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