第7話 イサクとノエルの街頭募金活動 世間の目は冷たいが歌ってごまかす

 約束の日、待ち合わせ場所に待つノエ ルの元にイサクが現れた。

「イサク。音楽の課題曲を聞いているのかな?」

「おお、何でわかった?」

「さっきから音が漏れているよ。たぶん、イヤホンジャックがちゃんと刺さっていなかったんじゃないのかな?」

 イサクは慌てて音楽を停止させた。つまり、イサクはしばらく前からキン肉マンのアニメのオープニング曲を周囲に漏らしながら電車で移動してきたということになる。

 イサクはそんなことは気にせず、すぐに用意に取り掛かった。

「あれ?みんなは?」

「誰も来てないよ。二人だけだよ」

 イサクは一応、周囲を見渡したが、学院生と思われる人物は見当たらなかった。

 いざ、駅前に立つと世間の眼差しは冷ややかだった。ふだん、学校に行くのにタクシー使ってるような金持ち高校のボンボンたちが募金活動である。コイツラに100円、200円払う以前に、コイツラの小遣いで何とかしたらいいじゃないかということである。二人はそのことに気づくことなく、少々ハイテンションだった。


「ふんふーんふーん、ふんふーん(きんにーくーまーん、ごーふぁーい)」

「さっきから、何を鼻歌で歌ってるの?」

「課題曲の練習だよ」

 その時、通行人の一人が近寄り、ノエルの募金箱にコインを入れた。

「あ、ありがとうございます」

 ノエルとイサクはそれぞれお辞儀をした。


 しばらく、通行人の流れが途絶えた。電車があまり来ない時間だったのだ。今度はノエルが鼻歌を歌った。

「ふんふふ、ふんふふ、ふふふーん(なんでも、かんでも、みんな)」

「え、おどるポンポコリン?」

 その時、また別の通行人がノエルの募金へとコインを差し伸べた。

「ありがとうございます」

 二人は揃ってお辞儀をした。

 近くの通行人達が二人の募金活動の様子を眺めながら会話をしていた。

「瑛峰学院って共学だったっけ?」

「は?男子校だよ」

「ほら、あそこ。髪が長いのいるじゃない。あれって、女の子なんじゃないの?」

 通行人が視線に立っていたのはノエルだった。

 話を受けたもう一人通行人はすぐに答えた。

「何ってるんだ。あれ、男子だよ」

 通行人の一人がノエルを凝視した。

「ああ、よくみたら、あの子は男子だったわ」


「さっきから、募金入れていくのはノエルばっかりだったな。なんでだ?ひょっとして、キン肉マンの音楽が漏れていたのが影響しているのか?」

「ふふ、それはあると思う」

 街頭での募金がコインを中心に2654円だったが、これでは義援金には足りなさすぎる。これに対して、学校のホームルームの時間に募金用の茶封筒を回すと募金は札束で集まってしまった。生徒の小遣いだけで、募金額は8万円に達してしまった。これに、さらに教職員の募金や公費が追加され、結果、50万円が義援金として寄付された。

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