第14話 ノエルの小論文は上位を独占 しかし浮かない表情
生徒会主催で体育会評議会が開催された。主な議題は来年度の予算案である。各部から概算要求が提出されるが、総予算の都合上、評議会のヒアリングの後、一方的に査定されるのが毎年の流れであった。
クリケット部キャプテンの石黒からラグビーゴールの撤去費が含まれていた。これに対して、中立の立場のはずの生徒会長が発言を求めた。
「ラグビー部は休止状態で、廃部にはなっていません。来年度、新入部員がいれば、活動を再開するものと思われます」
「だとしたら、クリケット部とラグビー部が同じフィールドになります」
「両部はフィールドを共有することになると思います」
「クリケットボールは硬式野球のボール並みの硬さだ。当たれば怪我をする」
「専用グラウンドなどあり得ない。ネットを張るとか考えた方が良い」
「そのネット代。生徒会から出しなよ」
「どうしてそうなるんだ?」
ラグビー場のゴール撤去を巡って、イサクと石黒は対立し始めていた。
同じころ、2年冬学期の小論文試験の審査が終わり、入賞者が決定した。入賞者はノエル、石黒、鳩山に織部の四名であった。クリケット部員の原稿はノエルが下書きをしており、実質的にノエルの独り勝ち状態であった。
金倉の執務室で、野原と金倉がこの結果について会話をしていた。
「その・・・。今更ながら、クリケット部員の連中の原稿が、何だか、ノエルの書いた原稿と文体が似ている気がするんですよね・・・。気のせいかもしれませんが」
「ノエル君がいろいろ教えてくれたんでしょう。がんばってくれましたね」
野原は思った。こいつ、全部知ったうえでこの点数を付けてるんだなと。
「その、ノエルなんですけど。その、進路の希望先が・・・あれなものでして、今後、ミケとどう折り合いをつけていくかが難しいのかなと。ミケというより、油谷先生となんですが・・・」
「ミケ?ミケの絵が気になるんですか・・・」
「いえ、ミケの絵の事じゃなくて・・・」
「どうなんでしょうか。なんか賞でも取れそうなんですかね。まあ、それはともかく、ミケの絵はちゃんと学校に取っておきましょうよ。レオ先生の御曹司ですから、ひょっとしたら、将来、いい値段になるかもしれませんよね」
野原は冷や汗をかきながら話の核心に踏み込んだ。
「今回の希望調査の結果なんですが、二人とも神学部の西洋美術科希望なんです。二人とも西洋美術科ってわけにはいきませんかね?」
「それは、無理でしょう。定員枠がありますから。まあ、どうしてもって言うなら、外部生と一緒に試験を受けてもらって、そこで合格点が取れれば、高校としても推薦させていただくことになると思います」
「わ、わかりました」
野原は『そんなのおかしいですよ』と言いたかった。しかし、野原はそこまで踏み込むことができなかった。必要以上に、波風を立てても本人にとって利益はないと思ったからであった。
金倉の執務室から野原が退席し、次に川崎が通された。
「どうでしたか、保護者面談は?」
「何とか全家族と面談を行うことができました」
「ちゃんと、口座番号は伝えましたよね」
「ええ、何とか・・・・」
「ああ、そうそう、クリケット部がラグビーゴールの撤去をしてほしいらしいんですよ。でも、これは、新しいフィールドを作って移設にしましょうか?」
「ちょ・・・。これ以上の寄付金はやめた方が・・・。そもそも、ラグビー部は部員が・・・・」
「そうですね。ラグビー部はOBがいますよね。まずはラグビー部OB会に頼むとしましょうか」
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